著者 | 池上彰 |
出版日 | 2022年6月10日 |
難易度 | 普通 |
オススメ度 | ☆ |
ページ数 | 約280ページ |
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本の概要
この本は、ジャーナリスト池上彰さんが世界中の時事問題に対し、そもそもなぜこの問題が起こったのか、根っこの部分まで遡り問題の歴史背景を解説する『知らないと恥をかく世界の大問題』シリーズの13巻目です。
このシリーズは毎回アメリカ・ヨーロッパ・中東・アジア・日本と世界中の時事問題をバランスよく扱うのに比べ、今巻はロシアのウクライナ侵攻はなぜ起こったのかを理解するため、ロシアとウクライナの歴史を振り返るパートが長めです。
それ以外は、ロシアのプーチンと同じく独裁化の一途を辿る中国の習近平や、前アメリカ大統領であるトランプが核合意から勝手に離脱したせいで関係がこじれたイランなど、プーチン、習近平、トランプなど世界中で独裁的な振る舞いをする指導者が後を絶たないという話題が多く扱われています。
独裁政権による弾圧や言論統制、終わりがまるで見えない民族・宗教対立、それによって生まれる大量の難民に、コロナ禍によって拡大する一方の富裕層と貧困層の経済格差と、世界中が戦争の火種だらけで読むと憂鬱な気分になりますが、過去シリーズと同様に現在の時事問題について理解が深まる一冊でした。
20世紀から続くロシアとウクライナの確執
今巻はなぜロシアがウクライナに侵攻したのかをロシアとウクライナ共通のルーツであるキエフ公国まで遡り解説してくれるため、この本一冊を読めばロシアのウクライナ侵攻の大筋が分かります。
特に興味深かったのが、キリスト教の教派の一つである東方正教会の流れを汲むロシア正教会とウクライナ正教会の確執でした。
テレビの報道番組を見ているとウクライナの教会がロシア軍の攻撃で破壊されたというニュースをよく見かけますが、なぜキリスト教徒が多いロシアがわざわざ軍事拠点でもない教会を執拗に破壊するのか疑問でした。
ロシア軍は他にも学校などの施設にも攻撃を加えているため単純に無差別攻撃の一環なのかと思っていたら、そもそもロシア正教会とウクライナ正教会は仲が良くない上に、ロシア正教会のトップとプーチンは共通の価値観を持っているという解説を読むと、あの教会への破壊行為はウクライナ正教会への見せしめかもしれないと想像できるようになります。
ロシアのウクライナ侵攻の陰には、ナチスドイツに蹂躙された怒りや憎しみを抱え自分たちの虐殺を正当化しようとする被害者意識や、レーニンがロシア帝国を倒すためウクライナの民族意識を利用しロシア帝国と戦わせたのち国家として認めずそのままソ連の一部としてウクライナを吸収するという二枚舌や、クリミア半島の帰属を巡る両国の対立など、約束の反故 や宗教戦争、領土争いなど、どこかパレスチナ問題にも通じる根の深さがあり、今後も争いが長引きそうという重い絶望だけが残ります。
建国の父・毛沢東に憧れる中国の独裁者、習近平
ロシアのウクライナ侵攻の解説に次いで強烈なのが、今後は第二のロシアになりかねない中国の独裁者・習近平の野望に関する話題でした。
習近平は、中国建国の父・毛沢東が平等な世の中を作ろうと行った、中国全土を血に染め、夥しい数の死者を出した政治闘争“文化大革命”を再び現代でやろうとしているという解説を読んでいると人類の愚かさに虚しくなります。
ロシアや中国など、独裁者が生まれやすい国に共通する問題は、やはり自国の負の歴史と向き合わないため、巡り巡ってそのツケが回ってくるということに尽きると思います。
自分たちに都合が悪いからと過去の失敗を隠蔽し無かったことにすると、過去から教訓を学ぶ機会を失い、またしばらくすると同じような過ちを繰り返すというパターンがあらゆる独裁国家に共通し、やはり国にとって最も大事なのは教育なのだと気付けます。
教育において何よりも大切なのは自分たちの失敗をキチンと次の世代に伝えることであり、恥ずかしい過去を隠蔽すればするほど結局次の世代が過去の失敗から何も学べず同じ間違いを繰り返す無限ループ状態に陥るだけというのが、独裁国家という失敗例から読み取れる唯一の学びだと思います。
最後に
読んでいると文章から池上さんの教育者としてのため息が聞こえてくるほど、人類の愚かさに対して虚無感しか覚えません。
世界中のほとんどの問題は教育で解決するのに、紛争地域の人たちは子供に学問より人の殺し方や敵の憎み方を教え、平和な先進国の人たちは教養より金の儲け方や資産の増やし方を教えることを優先しと、解決策は分かっているのに実行に移すことはできず、ズルズルと何十年、何百年と解決が先送りされ続ける現状は狂っているとすら思います。
結局、愚かな人が多い方が一部の賢い人が得をしてしまう状態が最大の問題ですね
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