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【歴史】教育者、池上彰の本音 |『知らないと恥をかく世界の大問題12 -世界のリーダー、決断の行方-』| 池上彰 | 書評 レビュー 感想

本の情報
著者 池上彰
出版日 2021年7月9日
難易度 普通
オススメ度
ページ数 約280ページ

本の概要

 
この本はジャーナリスト池上彰さんが世界中の時事問題に対し、そもそもなぜこのような問題が起こったのか、その根っことなる部分まで遡って懇切丁寧に解説する『知らないと恥をかく世界の大問題』シリーズの12巻目です。
 
今回扱う問題は、アメリカの元大統領ドナルド・トランプが残した負の遺産と、新大統領であるジョー・バイデンが果たすべき課題。
 
イギリスのブレグジット(EU離脱)がもたらした大混乱とその原因や、ますますプーチンの独裁が強まり未だに問題解決を暴力に頼るロシアといったヨーロッパ情勢
 
トランプの影響で世界中の国々が親イスラエル化し、孤立するイランをはじめ、相変わらずテロが止むことがないイスラム過激派の問題を抱える中東情勢
 
ウイグル人チベット人など少数民族への弾圧や、香港の民主化デモを力尽くで妨害する中国や、軍事クーデターで国内が大混乱のミャンマーを中心としたアジア情勢
 
そして、コロナ禍が浮き彫りにする、ハンコを貰いに会社に出社するサラリーマンはじめ、完全に世界のデジタル化に取り残されデジタル後進国と成り果てた日本の問題など、これまでと同じく、アメリカ、ヨーロッパ(EU、ロシアなど)、アジア、中東の情勢など、世界中の時事問題を俯瞰し分かりやすく解説する内容となっています。
 
今回も時事問題の解説と共に、池上さんの教育への熱い想いが語られ、ジャーナリストというより実際に大学で学生相手に講義をする教育者としての顔が前面に出ているのが特徴です。
 

コロナ禍の対策から見る各国リーダーの能力

 

今回も、内容が過去シリーズと被る部分が多く、前アメリカ大統領ドナルド・トランプが残した分断の傷跡や、コロナ禍が巻き起こす混乱など、めぼしい新情報はありませんでした。これはコロナ禍が長期化しているので仕方がなく、どうしても前回と似たような話題を繰り返しているように感じられます。
 
今巻で最も印象的なのは、サブタイトルにもなっている、コロナ禍という先が見えない時代だからこそ鮮明に浮き上がる各国リーダーの存在感でした。
 
独裁色が濃く何でも暴力で解決を図ろうとする強引な中国・ロシア。
 
不要な対立を煽り混乱を撒き散らしただけのドナルド・トランプと、その後処理に奔走するアメリカ新大統領ジョー・バイデン。
 
カンペ棒読みな上に優柔不断で頼りない国民の生活なんて興味なさそうな日本の管首相に、ソ連の支配下であった東ドイツで育ち自由を制限される苦労を知っているからこそ心に響くスピーチが出来たドイツのメルケル首相と、直接選挙で選ばれたかどうか関係なく、リーダーの危機に対する姿勢がそのまま国民性を映す鏡になっている現状が興味深いなと思いました。
 

アメリカは、ブッシュがイラク戦争やアフガニスタン紛争を始めたせいでイスラム国を生み、オバマがその後処理に精を出し、今度はトランプが黒人差別を助長し、次はバイデンがアメリカの分断修復に奔走すると、ここ数十年ずっと同じことを繰り返していますね

 

教育とは自分の頭で考える術を学ぶこと

 
前回の巻でも、日本全体が深刻な教養の低下へ陥っている現状への危機感を語っていましたが、今巻もその点は同様です。
 
それどころか国を引っ張っていくべき自民党の政治家すら教養が皆無で、しかもコロナ禍で日本が深刻なデジタル後進国と成り果てた惨状も露呈し、国の未来に対して何一つ希望が持てない絶望感がより加速しました。
 
個人的に、各国リーダーの存在感から透けて見える課題は、その国の国民性の体質が若いか老いているかの違いだと思います。日本は明らかに国全体が老化しており、何もかも保守的で変化を嫌い思考停止に陥り、先進的な仕組みを導入することに前向きなEUに比べ一回り“年寄りの国”といった印象しか持てません。
 
思考停止に関連するのが、池上さんが時事問題を分かりやすく解説すると、今度は何でもかんでも池上さんの解説を無批判に受け入れるだけの従順な人間が生まれてしまい、そのことに対し池上さんが感じる危機意識も当事者ゆえに生々しさがあります。
 
このシリーズを読んでいると、日本全体が政治や歴史に無関心となり、誰も彼も自分の視座も意見も持たない中身が空っぽの右に倣えの人間ばかりで、この国の教育の在り方はどこかで致命的な間違いを犯したとしか思えません
 

最後に

 
シリーズを重ねれば重ねるほど、池上さんがジャーナリストというよりは教育者になっており、真剣に教育問題をどうにかしなければ日本に未来はないという信念が伝わってきます。
 
ただでさえ読書量が減っているところにネットではバカが金儲けのためにフェイクニュースを大量に垂れ流し、もはや物を教える以前にネットで得た間違った情報を正すところから始めないといけない手間まで増え、本当に日本の未来は大丈夫なのか不安になってきます。
 

池上彰の著作

 

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