著者 | 池上彰 |
出版日 | 2020年6月10日 |
難易度 | 普通 |
オススメ度 | ☆ |
ページ数 | 約280ページ |
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本の概要
この本は、ジャーナリスト池上彰さんが世界中の時事問題に対し、そもそもなぜこのような問題が起こったのか、その根っことなる部分まで遡って懇切丁寧に解説する『知らないと恥をかく世界の大問題』シリーズの11作目です。
このシリーズが扱う問題は、アメリカ、EU(西ヨーロッパ)、ロシア(東ヨーロッパ)、中東問題(イスラエル、サウジアラビア、イラン、イラク、シリアなど)、中国を中心としたアジア情勢、そして日本の政治についてが主でほぼ全巻これらの問題が繰り返し繰り返し説明されます。
そのため、シリーズを全巻読んでいると説明の重複箇所だらけとなっていくという問題もあります。
11巻はこれまでのシリーズで語ってきた国際情勢のおさらい色が濃く、新しい情報はやや不足気味でした。安定して面白い反面あまり過去シリーズから情報は更新されません。
ただ、池上彰というジャーナリストの教育問題への熱い想いが読み取れる箇所があり、教養がいかに国際問題解決に必要なのか学べる一冊でもあります。
混迷する国際情勢を読み解くシリーズ11作目
シリーズ11作目となる今巻はこれまでのおさらい色が濃く、過去に何度もされた説明が再び繰り返されるため、正直シリーズの中で情報量は平凡と言ったところでした。
いい加減、毎回同じ問題の解説にページを割くくらいなら過去シリーズで解説した問題は“○巻の何ページを参照”で済ませてもいいのにと思うほど重複箇所が目立ちます。
ただ、その分これまでのシリーズを一切読まずにこの巻から読み始めても各問題に対する解説がそこそこ充実しているという利点もきちんとあります。
相変わらず個々の時事問題の解説は分かりやすく、アメリカがイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害した事件の背景や、香港で言論の自由を求める運動が活発化する理由、中国の強引な領土拡大政策の危険性など、理解が浅かった政治問題を整理できるため読んで損は絶対にありません。
池上彰の過去から教訓を学ばない現代人への嘆き
このシリーズ11巻目は、過去シリーズでは解説に徹していた池上さんの本音が透けて見え、教養というものを軽視する現代に対する不満が随所で読み取れます。
過去シリーズで、街に本屋がたくさんあり若者が熱心に本を読んでいる発展途上国は後々成長するという持論を展開するなど、教育がいかに国の柱であり発展に重要なのかを語っていたのに、現実は子供たちの将来にとって最も大切な教育費は削られる一方。そんな日本の現状に対する失望と怒りが文章から滲み出ており、池上彰という人間の生の感情がひしひしと伝わってきました。
世界の大問題と言っても、資源や地球規模の環境など人間の手に余る問題もあれば、単に教養が足りないだけで各国の教育レベルが高ければ話し合いで十分解決できるケースも多々あります。
池上さんの本を読むと何よりも大切なのは教育であり、一人一人の教養を深めることが国際問題解決そして成熟した世界への近道であると思えます。
民主主義を支える一人一人の教養という社会の根幹たる大切なものをどこかに置き忘れてきてしまった結果、いつしか経済格差や教育格差、移民・難民の排外主義として噴出するという最悪な事態を招いてしまい、それを世界中あちこち取材しては肌で感じてきた池上さんが語ると説得力がありました。
今巻を読むと世界全体に蔓延する問題の根幹は教養不足であり、今の日本に一番足りないものも教養と、改めて教養を磨くことの重要性に思いが至ります。
最後に
1巻からずっとこのシリーズを読み続けてきて、ようやく池上さんの過去の悲劇を繰り返させないためなんとか日本の教養を底上げしたいという想いが理解できるようになり、ぐっと言葉に重みを感じるようになりました。
教養が欠けた世界には悲惨な未来が待ち受けるのみという大切なことを教えてくれる一冊です。
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