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【サイエンス】植物は万能薬にあらず |『植物はなぜ薬を作るのか』| 斉藤和季 | 書評 レビュー 感想

本の情報
著者 斉藤和季
出版日 2017年2月17日
難易度 難しい
オススメ度
ページ数 約240ページ

本の概要

 
この本は、植物が生成する薬の原料となる化学成分にはどのような種類があるのか、植物はそもそもなぜ薬として利用できる化学成分を体内で生成するよう進化するに至ったのか解説されています。
 
そしてそこから導き出される植物(自然)は人間に恵みを与えてくれるものという勝手な思い込みをひっくり返す、植物が外敵に対して備えた攻撃的な防衛機能こそが薬として有用な成分になるという事実は衝撃的でした。
 

植物や薬へのイメージが変わる植物の啓蒙本

 

この本は、植物や薬へ漠然と抱いていたイメージが一変するほど刺激的な内容ですが、植物が体内で生成する化学成分やその働きに対する堅めの説明が本の大半を占め、あまり読みやすくはありません
 
それに、タイトルである『植物はなぜ薬を作るのか』という説明の核心部分は一章程度で済むほどあっさりです。それでも、なぜ植物が人間が使用する薬の元となる化学成分を体内で生成するように進化したのかという話は目から鱗なほどの面白さでした。
 
読んでいて最も心惹かれたのは薬の元となる成分というのは、そもそも植物が自分を捕食しようとする外敵から自己を防衛するために生成されている攻撃的な成分という部分です。
 
一部の植物は、自身を捕食しようとする他の生物に対し防衛のため相手を殺す毒や、神経を麻痺させる成分、相手の細胞分裂を止めることで死に至らしめる成分を体内で生成し蓄えています。
 
この成分を植物から抽出し人間に害が出ないよう改良し薬として利用すると、人間に害をなす細菌を殺す薬になったり、神経を麻痺させて痛みを和らげる麻酔になったり、がん細胞の分裂を阻止する抗がん薬になったりと、人間にとっての薬へと変貌を遂げます。
 
つまり、薬として効果が高い化学成分を生成する植物というのは、自己防衛のために自身を傷つけようとする捕食者を苦しめたり殺したりする有毒な成分を体内で生成するよう進化を遂げた毒性が強い植物が多いということ。
 
この本を読むと、地に根を張り自ら移動する手段を捨てた植物は、長い時間をかけて体内で外敵に対する強力な毒性を持った化学成分を生成するように進化し、その成分を抽出すると今度は人間を害する病原菌などを殺す薬にもなるという、いかに薬というものが攻撃性に特化しているものなのかが分かります。
 
抗がん薬が、がん細胞と同時に健康な細胞も区別せず分裂を止め殺してしまうように、薬を摂取しすぎると危ないというのはこういうことなのかと理解できました。
 
植物が太古の昔から生存のため体内で生成し進化させてきた強力な毒を人間は自分たちの外敵を殺すために抽出して利用するという共存関係はやや恐ろしくもあり、この本を読むと植物(自然)が地球からの恵みであるかのような錯覚は消し飛んでしまいます。
 

最後に

 
確実に読む前と後で植物や薬に対する見方が変わってしまうほどためになる一冊でした。
 
 

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