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【伝奇小説】我が子のため鬼となる母、鬼となり我が子を捨てる母 |『陰陽師 鬼一法眼 -鬼女之巻- #5』| 藤木稟 | 書評 レビュー 感想

作品情報
著者 藤木稟
出版日 2003年7月25日
評価 75/100
オススメ度
ページ数 約228ページ

小説の概要

 
この小説は、鎌倉時代の初期、はぐれ者の陰陽師・四代目鬼一きいち法眼ほうげん(作中では鬼一おにいち法眼)が、鎌倉幕府の3代将軍の座を争う比企ひき北条家の権力闘争に巻き込まれるシリーズ5作目です。
 
この巻もひたすら鎌倉幕府内の武家同士の権力争いの話が続き、もはや伝奇要素はオマケです。巻を追うごとに鬼一法眼の存在が薄くなり、たまに登場しては陰陽道のウンチクを垂れるとか、怪異が起こす小規模な事件を適当に解決するだけで歴史的な出来事のほうが優先されます。
 
本筋は亡き頼朝よりともの遺児である千幡せんまん(後の源実朝さねとも)をようする北条家と、2代将軍・源頼家よりいえとその長男一幡いちまんようする比企ひき家との、鎌倉幕府の次期将軍の座を巡る政治闘争です。
 
陰陽師が怨霊おんりょうしずめる話としても、頼朝亡き後の鎌倉幕府の次期トップを決めるべく有力な武家同士が権謀術数けんぼうじゅっすうを図る政治劇としても中途半端で、これといって面白味がありませんでした。
 

薄い・浅い・軽い政治劇

 

この巻もまたしても前巻と同じく鬼一法眼が活躍するような伝奇小説としての見せ場は皆無で、もはや鎌倉幕府内の武家同士の権力争いを通じて、鎌倉時代の歴史を勉強するだけのシリーズになっています。
 
では、鎌倉幕府内の北条家や比企ひき家、梶原かじわら家が水面下で互いを蹴落とそうとする政治的な駆け引きが面白いかというと、これも物足りませんでした。
 
このシリーズは1巻から基本的に各勢力や人物のパワーバランスが固定されており、強い人はいつも強い、弱い人はいつも弱い、賢い人はいつも賢い、間抜けはいつも間抜けと、最初に登場した際の印象から特に動かないため、政治劇としてのスリルも人間ドラマとしての繊細さも何一つありません。
 
ある時は政治的に有利な立場にいるのに何か一つの失策で坂道から転げ落ちるように権力を失うとか、最初は不利な立場なのに徐々に逆転していくなど、情勢のめまぐるしい変化も希薄で、淡々としているだけです。
 
肝心の権力に固執する描写も弱く、野望がついえてこれまで積み上げてきたもの全てを失うはかなさもなければ、謀略の餌食えじきになりこころざし半ばで散る悲哀も感じられず、ただ次から次へと実際の歴史をなぞるように敗者が脱落していくだけで、そこに情感が湧きません。
 
唯一、北条政子が徐々に人間性を脱ぎ捨て、鎌倉幕府という自らの夢を守るため修羅と化していくという部分に一欠片の面白味がありますが、それ以外の登場人物がペラペラでそこまでドラマも深まらず、盛り上がりません。自らの野望のために可愛い我が子である頼家を見限り暗殺を図るという本来なら切ないはずの話も、頼家があまりにも記号的な暴君でしかなく、親子の情を捨てるという決断に特に心揺さぶられることもありませんでした
 
全体的に登場人物の内面や、関係性の描き込みが足りず、それぞれが予想していなかった意外な一面を覗かせハッとさせられるといった驚きもなく、各々の野望が火花を散らす様に鬼気迫るような迫力を感じません
 

最後に

 
この巻は、鬼一法眼のそれらしい活躍は特に無く、しかも重要人物が次から次に謀殺されるのに淡々としているだけで誰が死んでも何も感じず、過去作含めワースト級に退屈でした。
 

陰陽師 鬼一法眼シリーズ

タイトル
出版年
陰陽師 鬼一法眼 -義経怨霊篇- #1
2000年
陰陽師 鬼一法眼 -朝幕攻防篇- #2
2000年
陰陽師 鬼一法眼 -今かぐや篇- #3
2001年
陰陽師 鬼一法眼 -切千役之巻- #4
2002年

藤木稟作品

 

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