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頼朝、雑に死す 『陰陽師 鬼一法眼 -切千役之巻- #4』 著者:藤木稟 〈書評・レビュー・感想〉

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評価:75/100
作品情報
著者 藤木稟
出版日 2002年3月30日

小説の概要

 
 この小説は、鎌倉時代の初期、はぐれ者の陰陽師・四代目鬼一きいち法眼ほうげん(作中では鬼一おにいち法眼)が、武士の都・鎌倉を舞台に、怨霊おんりょうが起こす事件を解決するシリーズの4作目です。
 
 今巻は陰陽師として怨霊と対峙するような活躍はほとんどなく、鎌倉幕府内の北条家と比企ひき家、梶原かじわら家が関わる政治的な密談や駆け引きなど、武家同士の権力争いの話が主であまり伝奇要素はありません。
 
 2、3巻で苦手だったあまりに安易な笑いに走りすぎなコミカルな作風は今巻では落ち着きほぼ気にならなくなったのと、これまで政治から距離を取っていた鬼一法眼が鎌倉幕府内で繰り広げられる政治闘争に巻き込まれる展開など、個人的に好きな箇所もあります。
 
 しかし、死んだ頼朝が地獄に落ちるのを救出するというエピソードはじめ、全体的にどの話も内容が薄く軽く、前巻の設定が良く出来ていた「今かぐや姫」の話に比べると盛り上がりに欠けます。
 
 今巻もまた次の展開への準備段階といった感じで、この巻単体での魅力はさほどありません。
 
 

相互に関係していないエピソードの羅列

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 このシリーズも4巻目なのに、今作も伝奇小説としての見せ場は用意されておらず、延々と政治的な密談が続くのみの地味な巻です。そのため、またもや感想を書けと言われても困るような内容でした。
 
 シリーズの中で伝奇的な大見せ場があったのは、怨霊として復活した牛若(源義経よしつね)と激しい戦いを繰り広げた1巻と、かぐや姫のアフターストーリーが挿入された3巻と、過去2作だけです。なので、いくらなんでもシリーズを通して何も事件が起きないという不満が溜まってきます。
 
 この巻では、ついに鎌倉幕府のトップである源氏の棟梁・源頼朝よりともが謀殺されるという大きな出来事がありますが、そこも大して盛り上がりません。
 
 しかも、なぜか成仏できず地獄に落ちかけた頼朝の魂を鬼一法眼が救うという展開になるものの、閻魔えんま大王と博打で勝負し頼朝を助けるという展開になんら緊張感もなく、しかも他の話と大して関わりもないため非常に薄く軽い出来事という印象しか残りませんでした。
 
 それに、陰陽師・鬼一法眼が怨霊をしずめる話と、鎌倉幕府と朝廷との権力闘争の話もあまり密接には絡んでおらず、この巻どころか、シリーズ通して相互に関係していないエピソードが雑に並んでいるとしか思えません。
 
 鬼一法眼サイドの怨霊に関する話も、鎌倉幕府サイドの権力争いを巡る政治的な駆け引きの話も両方それぞれ面白いのに、問題はこれらが特に絡みもせず相乗効果を生まないことで、明らかにシリーズ通して全体の構成がガタガタで迷走しているように見えます。
 
 もう4巻目でクライマックスに近づいているのに、未だにこのシリーズは何を面白がらせたいのかイマイチよく分からず、読んでいて困惑する瞬間が多くありました。
 
 主人公、鬼一法眼が自身の特殊な出生に悩むアウトローでありながら困っている人を見捨てられずつい救いの手を差し伸べてしまうというダークヒーロー的なたたずまいは魅力的なのに、見せ場らしい見せ場が用意されていないせいで終始飼い殺しのような扱いで、もやもやします。
 

最後に

 
 この巻も延々と次の展開に向けて準備をするだけで、単体の魅力はほぼありません。
 
 正直、4巻はあとがきが一番面白い巻でした。あとがきは作家がどのように史料から伝奇小説のアイデアを膨らませるのか、その思考が垣間見えるような内容で最も読み応えがあります。
 

陰陽師 鬼一法眼シリーズ

タイトル
出版年
陰陽師 鬼一法眼 -義経怨霊篇- #1
2000年
陰陽師 鬼一法眼 -朝幕攻防篇- #2
2000年
陰陽師 鬼一法眼 -今かぐや篇- #3
2001年
陰陽師 鬼一法眼 -鬼女之巻- #5
2003年
 
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