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【伝奇小説】伝奇小説から喜劇への変貌 |『陰陽師 鬼一法眼 -朝幕攻防篇- #2』| 藤木稟 | 書評 レビュー 感想

作品情報
著者 藤木稟
出版日 2000年12月1日
評価 75/100
オススメ度
ページ数 約286ページ

小説の概要

 
この作品は鎌倉時代の初期、陰陽師である四代目鬼一法眼きいちほうげん)(作中では鬼一おにいち法眼)(作中では鬼一おにいち法眼)が、鎌倉の都を怨霊たちから守るべく奮闘する伝奇小説の二巻です。
 
この巻は、全体の7割が鎌倉幕府朝廷内など権力の中枢にいる人物の関係性の説明に費やされるため、物語はまったく前進せずやや物足りない巻でした。
 
全編にわたり次の展開へ向け念入りに仕込みをするだけで、この巻単体での面白味はほぼありません。
 

説明、説明、説明……いつまでも終わらない説明

 

前巻は、凄腕の陰陽師である鬼一法眼が夜な夜な鎌倉の都を跋扈する怪異を鎮めたり、兄・源頼朝よりともへの恨みを抱き怨霊として蘇った牛若丸(源義経よしつね)と対峙したりと、しっかり見せ場を用意していましたが、この巻ではそのような盛り上がる展開は皆無です。
 
全編にわたり鎌倉幕府内における源氏の派閥や北条家の説明、朝廷の後鳥羽ごとば上皇や側近の源通親みちちかが鎌倉幕府をどう打倒するかの密談など、感想を書けと言われても困惑するほど誰と誰が信頼しあい、誰が誰を嫌っているかといった登場人物の関係性の説明政治的な策謀だけで埋めつくされています。そのため、目立った話の起伏に乏しく面白味はほぼありません。
 
それに前巻が、怨霊が蔓延はびこる腐った町に相応しく、鎌倉の都におどろおどろしい雰囲気が漂っていたのに対し、今巻はひたすらコメディに振り切っているため同じシリーズとは思えないほど作品から受ける感触が別物です。
 
極めつけは、今巻から登場人物が普通に会話内で“インテリ”とか“パイプ”などカタカナ語を使い出すのでマジメに伝奇小説として読むことが困難になりました。怨霊として蘇った強大な敵のはずの牛若丸や後白河上皇はコントのようなコミカルなやり取りをくり広げ、鎌倉時代なのに人間も怨霊も日常的に英語を話すので、もはや前巻のホラー風味は完全に消え去り、自分は一体何を読んでいるのか見失うことが幾度かありました。
 
前巻でも会話以外の部分でカタカナ語はちょいちょい出ていたのが今巻では完全におふざけとして会話内で使われ出し、しかもこの鎌倉時代の人間や怨霊たちが当たり前のように英語を話すという趣向があまり小説のスタイルとして機能もしておらず、単に失敗しているようにしか見えません。
 

ただの悪ふざけですね

 
今巻は陰陽師である鬼一法眼の活躍はまったく描かれず、作風もひたすらおふざけに突っ走っており、まるで前巻とは別の作品を読んでいるかのような気分になります。
 

最後に

 
硬派な伝奇小説を期待していたのに、今巻から作風をコメディに振り切ったのが個人的にかなりマイナスで、これから先大丈夫なのかと不安を抱く巻でした。
 
単純に鬼一法眼が式神や陰陽師としての知識でもって怨霊を退治したり、怪異を鎮めたりといった活躍を期待していたので、そのような描写が一回たりとも存在しないというのはさすがに不満が残ります。
 
鎌倉幕府や朝廷の野心渦巻く複雑な人間関係を把握していく楽しさや、鎌倉より荒れ果てた京の都、特に芥川龍之介の小説でお馴染み羅生門らしょうもん羅城門らじょうもんが登場するなど、見所はあるため読んでいて退屈ということはありませんが、かといって盛り上がる箇所も皆無でした。
 

陰陽師 鬼一法眼シリーズ

タイトル
出版年
陰陽師 鬼一法眼 -義経怨霊篇- #1
2000年
陰陽師 鬼一法眼 -今かぐや篇- #3
2001年
陰陽師 鬼一法眼 -切千役之巻- #4
2002年
陰陽師 鬼一法眼 -鬼女之巻- #5
2003年

藤木稟作品

 

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