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【ミステリー小説】六人のはずなのに一人増えている・・・ |『七人の鬼ごっこ』| 三津田信三 | 感想 評価 レビュー 書評

作品情報
著者 三津田信三
出版日 2011年3月
評価 70/100
オススメ度
ページ数 約502ページ

小説の概要

 
この作品は、自殺志願者の男が生命いのちの電話という自殺予防のためのボランティア団体にかけた一本の電話がきっかけで起こる連続殺人事件を主人公の作家が推理していくというミステリー小説です。
 
ホラーとミステリーを融合させた作風を得意とする三津田信三作品にしてはホラー要素はゼロに近く、ほぼミステリー小説として書かれています。
 
命を救うための団体に電話をしたことが逆に凄惨な連続殺人事件を招いてしまうという設定は非常に魅力的ですが、事件そのものは大して盛り上がりもせず登場人物も印象が薄く事件の真相にも興味が持てないと、面白くもないがつまらなくもなく、出来が良いというわけでも悪いわけでもないという、全てが中途半端な完成度でした。
 

最後まで興味が持てない連続殺人事件

 
この小説は、自殺志願者の男が小学生の頃に6人の仲良しグループで遊んでいた記憶に存在しないはずの7人目がいたことをふいに思い出したため連続殺人が起こるという設定や、『七人の鬼ごっこ』というこの作品と同名の小説を執筆中の作家が探偵役として事件を推理していくという少しメタっぽい構造など、個々のアイデアは面白くなりそうなのに全体としては薄味でした。
 
特に致命的な問題は事件にまったく興味が持てないことです。他人事として始まりそのまま他人事として終わるような、読者が自分の話だと受け止めるような取っかかりが一つも存在せず、誰が死んでも、誰が犯人でも、事件の真相がどうだろうと何の興味も湧きません。
 
原因は複数あり、まず三津田信三作品にしてはホラー要素がほぼ存在しないため読んでいる自分にも禍々しい災厄が降りかかるかもしれないという緊張感がないこと。他の作品はホラーが強めに効いていることで恐怖という感情を登場人物と共有するため否が応でも話にのめり込んでしまうのに対し、本作はそこが欠けており登場人物が最後まで他人にしか思えませんでした。
 
しかも、あろうことか主人公も連続殺人のターゲット側なのに全体的に呑気のんきな振る舞いが目立ち、自分の命が狙われているという危機感が一つも伝わってきません。次の連続殺人の被害者になるかもしれない登場人物がのほほんとしているのに読者が緊張するはずもなく話が弛緩しかん気味です。
 
次に気になったのは興味の焦点を絞れていないこと。三津田信三作品は人ならざる怪異を興味の中心に置き、話の推進力に利用することが多めですが、この作品は怪異が一切登場せず事件を先導し物語に集中させる役が不在です。
 
これらの不満はどれもお馴染みのホラー要素が欠けているため生じたものが多く、いかに三津田信三作品の先が気になる中毒性はホラー部分が支えていたのかが分かります。
 
別段ホラーを抜いたとしても、小学生の頃に仲良しだった6人グループにまぎれ込んでいた謎の7人目の正体は誰なのかという興味で引っ張り続けるとか、もしくは顔馴染みの6人の中に連続殺人の犯人がいるのではないかという疑心暗鬼でサスペンスを演出するなど、いくらでも事件に興味を持たせられる設定なのに、実際に読むと緊張感も切実さも足りない淡々とした事件だったという不満だけが残ります。
 

ミステリーとして雑

 
本作の最大の不満は単純にミステリーとして細部の作りが甘すぎることです。いかにもミステリーの仕掛けのためだけの人間の血が通っていない人工的な事件にしか感じず、何ひとつ響くものがありませんでした。
 
大きな要因の一つがホラー要素をほんの少しだけ残してしまっていること。
 
三津田信三作品の特徴であるホラーとミステリーを融合させるという作風をそのままやっているならホラー部分は欠点どころか長所に感じられ、特に気になりません。
 
しかし、本作はミステリーなのにややオカルト寄りの設定が僅かに存在することであろうことかミステリーの説得力を削いでおり、結局事件の真相の大事な部分はよく分からないままというずさんな終わり方でホラー要素を残してしまったことが完全に裏目に出たとしか思えません。
 
本作には、30年前主人公が小学生だった頃に起こったとある事件と、その事件に端を発した現在進行形で起こる連続殺人事件と、二つの主要な事件が存在しますが、30年前の事件が今となっては真相は闇の中というホラー的な細部のぼかし方をしているせいで現在の連続殺人側の話になんら重みを感じませんでした。
 
普通に考えて、真相が曖昧なままぼかされているだけの事件に端を発した連続殺人事件が盛り上がるはずもなく、土台の部分で失敗しているとしか思えません。
 
同じ三津田信三作品である『禍家まがや』は、ミステリーとしての整合性がホラーとしての超常的な現象を陳腐化させていましたが、こちらはホラーとして非現実的な存在をちらつかせるという手法がミステリーとしての謎解きの快感を妨害しており、丁度真逆といった感じです。
 

 
このミステリーなのに事件の真相の大事な部分を曖昧に誤魔化すという問題以外にも、垂麻たれま家という事件のカギを握る旧家が雰囲気だけで説得力がないとか、あまりにも事件の重要人物同士が不自然に知り合いすぎて話の進行がほぼ偶然まかせでしかないなど、不満を挙げだすとキリがありません。
 
どれも致命的な問題というほど酷くはありませんが、一つ一つの欠点が確実に足を引っ張っており、全体としてはまるで説得力が無い話にしか思えませんでした。
 

最後に

 
精神的に追い詰められた自殺志願者の男が生命いのちの電話にSOSを訴えたことがキッカケで連続殺人が起こってしまうというアイデアは非常に魅力的で、冒頭部分はこれから面白い話が始まりそうというワクワク感があります。
 
しかし、いざ事件が起こっても面白くもないしつまらなくもないというニュートラルな状態がひたすら続くだけの薄味のストーリーで、三津田信三作品としては可もなく不可もなくといった出来でした。
 

500ページオーバーとそこそこのボリュームがある割に内容は薄いと、ページ数と話の厚みが極端に釣り合っていない一冊でした

 

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