著者 | 藤岡換太郞 |
出版日 | 2012年1月20日 |
難易度 | 普通 |
オススメ度 | ☆☆ |
ページ数 | 約240ページ |
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本の概要
この本は、ごく身近な存在である山がどのようなメカニズムで作られるのか、その仕組みを分かりやすく解説します。
前半部は山を理解する上で必要となる基礎知識を固め山への思い込みを解きほぐし、そこで学んだ知識を元に、後半部は本題である山が作られる仕組みを一気に解説する二部構成のような作りです。
同じ著者が書いた『三つの石で地球がわかる』とまるでシリーズもののように内容が繋がっており、こちらを先に読んでいるとより理解がより深まります。
形が単純な様で、実は複雑な山の作られ方を知ることで特大の知的興奮が味わえる地学の楽しさがこれでもかと詰まった一冊です。
前半 山に関する紆余曲折の議論史
前半は、山に関する基礎知識(山の高さの決め方など)の勉強や、過去の研究者達がどのような論争を重ね山への理解を深めていったのか、その確認作業に費やされます。
そのため、この本を読む目的である山がどうして出来るのかという結論が先延ばしされ続け前半部はやや退屈に感じる瞬間もありました。
ただ、前半部は山に関する議論が発展していく過程を学び直すことで、山を科学する対象として捉え直すという準備段階として用意されており、山を理解するには必須の工程です。
それに、有名なウェゲナーの大陸移動説のような革新的な理論ですらも、発表当初はただのトンデモ論だと受け止められ再評価されるまで長い年月を費やされたという話は単純に面白く読めました。
前半部で特に印象的なのは、山の全容をたった一人の研究者が解き明かすのはほぼ不可能という地球科学のスケールの大きさです。
科学者にどれだけ功名心があっても、山に足を運び地層を直接観察する者、海の底に潜り海底を調査する者、地震波を測定し地球のマントル内部の構造を読み解く者と、様々な研究分野から得られる情報を持ち寄らないと到底地球の仕組みを解明することは不可能で、自分の理論を否定されてもそれを証明する手立てが自分自身の研究分野には存在しないということもあり得る、地球科学の途方も無さに圧倒されます。
大陸移動説を否定されても個人ではどうすることも出来なかったウェゲナーの心中を思うとさぞ悔しかっただろうと同情します。
同時に、科学が先に進めるかどうかは世界中の国が連携して情報を共有し、科学者達が常にチームプレイで研究に挑める環境を整えられるかどうかが重要で、世界平和と科学の発展とは切っても切れない関係であることもより強く意識させられます。
後半 ようやく語られる山が山になる理由
前半部は、基礎知識を叩き込むために多少の忍耐を強いられるのに比べ後半部は一転。山が出来る理由の解説が面白すぎてページをめくる手が止まらなくなります。
出版順は逆ですが、同じ著者の『三つの石で地球がわかる』という本を先に読んでいたことも功を奏し、玄武岩や花崗岩といった石の話が登場してもなんら支障をきたすこともありませんでした。
この二冊の本はほとんど前後編と言ってもいいほど内容が繋がっており、余裕があるなら先に『三つの石で地球がわかる』を読むのがオススメです。
『三つの石で地球がわかる』は岩石の話で、こちらはその岩石で出来たプレートや岩石が溶けたマグマの話が登場するので、基礎知識が入った状態で読めます
この著者は、知識を暗記させるのではなく、地球の仕組みを流れで理解させる解説力に秀でており、読み進める過程で頭の中で地球内部の動きがシミュレーションできるようになる点も同様でした。
そして、地学からもたらされる知的興奮の度合いで言うとコチラの本が圧倒的に上です。
プレートが沈み込む海溝から水が入り込み、岩石の融点が下がり岩石が溶けマグマとなりそれが地表に吹き出す一連の流れや、陸プレート同士がぶつかり海の堆積物が乗り上がり巨大山脈となる流れなど、プレートテクトニクスやプルームテクトニクスの影響で巡り巡って陸や海底に山が作られる仕組みはダイナミックで感動します。
間違いなくこの本を読んだ後は山というものがそれまでのなんとなくの認識とは異なり、地球が生み出す芸術作品のような存在であると認識が変化します。
この本は山が作られるプロセスが分かるというだけでなく、地球規模の壮大なスケールを持つ地学の奥深さや、科学的に物を観察するとはどういうことなのかという科学者の視点の持ち方も学べ、事前の期待を上回る収穫がありました。
最後に
読んでいて楽しいは楽しいものの、ブルーバックスらしく難解でとてもスラスラ読めるような類の本ではなく、内容を理解するのに多少の忍耐が必要という点だけ注意が必要です。
山という身近に存在するものから地球内部のメカニズムが読み取れるという非常にスケールの大きい内容で、読んでいる最中は世界の見え方が変わっていく興奮でテンションが上がりっぱなしでした。
地学の楽しさがこれでもかと詰まった至福の一冊です。
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