著者 | 佐藤航陽 |
出版日 | 2022年3月31日 |
難易度 | 普通 |
オススメ度 | ☆☆☆ |
ページ数 | 約256ページ |
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本の概要
この本は、メタバースとはどのようなものなのか解説されるビジネス書です。
著者はメタバース関連のビジネスを行っているため、この本もメタバース全肯定の内容ですが、世間のメタバースに対しての冷めた反応も織り込み済みで、その部分はバランス感覚がしっかりしています。
メタバースの本質はVR(ヴァーチャル・リアリティ)ではなく、あらゆる情報が2次元(平面)から3次元(立体)になることであるとか、メタバースは現実のシミュレーターとして活用でき、未来では現実社会がメタバース空間でシミュレーションしたデータに基づいて運用されるであろうなど、非常に刺激的な内容の連続で、知的興奮が味わえる一冊でした。
メタバースとは情報が2次元から3次元になること
この本でまず衝撃を受けたのが、メタバースとはVRゲームのことではなく、情報の3次元化が本質であるという指摘でした。
本を読む前はてっきりゲームの『ファイナルファンタジー11』や『ファイナルファンタジー14』、『ソード・アート・オンライン』に登場するVRMMOゲーム群、映画の『レディ・プレイヤー1』の仮想世界オアシスや『サマーウォーズ』の仮想空間OZ、『竜とそばかすの姫』の仮想世界〈U〉のようなゲームの形を取ったものをメタバースだと思い込んでいたので、いかに自分のメタバース認識がゲームに偏りすぎていたのか気付けます。
メタバースで重要なのは、情報を本やTV、スマホやPCのディスプレイなど平面で見ることから、3次元の仮想空間で立体として触れることであるという指摘は最初はピンと来ませんでした。
しかし、この本を読んだ後、漫画の『スプリガン』を読み直していると、降臨というエピソードに数億年前の地球の環境・生物・遺伝子がデータバンクとして保存されそれらの情報を立体映像で見ることができ、過去の地球の生態系を再現することすら可能になる古代文明の装置が登場し、あらゆる情報を3次元で保存するとはこんな感じなのかと漠然とながら理解できました。
このあらゆる情報が3次元で保存され閲覧可能になることで、情報を2次元で認識する古い世代とは別の価値観を持った新しい世代が育つだろうという仮説や、後述する現実を模した世界を仮想空間内に創造しその中で現実を模したシミュレーションを行い、そのシミュレーションに従って現実社会が運用されるであろうという未来予測は衝撃でした。
現実を模していたはずの仮想世界が現実に先立つと言われても最初はちんぷんかんぷんです
シミュレーション化する未来
この本で著者が最も主張したいことは、将来メタバースは現実のシミュレーターになるであろうという未来予測だと思います。
『ソード・アート・オンライン』で例えるとアンダー・ワールドのような、大規模な仮想空間のシミュレーター内で兵器を実験しデータを現実にフィードバックするとか、現実だと様々な制約があって行えない実験も仮想空間内なら自由自在で、結果現実社会はメタバースでのシミュレーション結果を模倣するようになるだろうという大胆な予測が語られます。
あらゆる情報が3次元化されるということも、仮想空間内でより精度の高いシミュレーションを可能とするための準備にすら思え、このメタバース=(イコール)現実に先立つ高度なシミュレーターという考え方は自分の未来観を根本から変えるほど衝撃的でした。
この本を読むと過去のSF作品にシミュレーションの重要性を語る作品はいくらでもあったということに気付き、つくづく小説や漫画、映画にアニメにゲームと様々な媒体のSF作品に触れていて良かったと思えます。
人間の創造力が生み出した物語も未来を予測するためのシミュレーションの一種であったのだと発見できます
買い物する際にネットでレビューを確認してから購入するとか、初めて行く店の場合細かい情報をネットで先に調べてから訪れるなど、日常のあらゆる行動はまずネットで他者の体験をシミュレートしてから始まるように、今後は政治や経済もメタバースで先行してシミュレーションを行いそのデータを現実がなぞるようにフィードバックするのが当たり前になっていくと考えると、今後世界のシミュレーション化がますます加速していくのだという考え方ができるようになりました。
この本を読んで真っ先に思い浮かんだアイデアが福島第一原発はじめ世界中の原発を仮想空間内に完全再現しその中で廃炉作業のシミュレーションや建物の劣化のシミュレーションを安全に行うことでした
おわりに
メタバースとはVRゴーグルを頭にかぶってゲームをやるとかボイスチャットすることだと勘違いしている人ほど、読むとメタバース認識が一変すると思います。
佐藤航陽さんの本は過去2冊とも刺激的な内容でしたが、個人的にこの本が過去最高の出来でした。
この本を読むと世界最先端のゲーム会社はEpic Gamesだと思えます
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