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【ホラー・ミステリー小説】説明過多の度が過ぎる伝奇ホラーミステリー |『厭魅(まじもの)の如き憑くもの』刀城言耶シリーズ #1 | 三津田信三 | 書評 レビュー 感想

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作品情報
著者 三津田信三
出版日 2006年2月28日
評価 75/100
オススメ度
ページ数 約624ページ

小説の概要

 
この小説は、太平洋戦争が終わって間もなくの頃、神々櫛かがぐしという僻村へきそんで起こる怪事件を怪奇幻想作家である刀城言耶とうじょうげんやが推理するというホラーミステリーです。
 
神櫛かみぐし谺呀治かがちという2つの旧家が対立する古い因習に囚われた不気味な村が舞台と、横溝正史作品(金田一耕助シリーズ、など)の影響が濃いものの、ホラーとミステリーという二つのジャンルを融合を目指した作風は斬新でした。
 
ホラー小説としては身の毛がよだつような箇所がいくつもあり読み応えがあります。ただ、小説全体が惨劇の舞台となる神々櫛かがぐし村に対する説明で埋め尽くされており、物語を読んでいるというよりも説明を読まされ退屈と感じる時間が長く、ストレートに楽しいという作品ではありませんでした。
 

説明で始まり説明で終わる、主役は説明文な小説

 
この作品は、神々櫛かがぐし村の特異な地形を利用し、怪事件が人の犯行なのか人ならざる怪異の仕業なのかをぼかすことで、ホラー要素とミステリー要素を融合させてしまうというアプローチを採用し、それ自体は非常に惹かれるものがあります。
 
しかし、ホラーやミステリーというジャンルうんぬんよりも、この小説で一番異様なのは度を越したほどの説明量でした。小説全体の7割~8割は舞台となる村に纏わる歴史や地理の説明で埋め尽くされており、物語を読んでいるというよりも、ひたすら作者が考えたオリジナルの設定を読まされ続けるといった趣向で読んでいてとにかく疲れます。
 
しかもホラーとミステリーの中間を狙ったような作風がマイナスに作用し、小説を最後まで読み終えても曖昧な箇所が多く残り釈然とせず、そのせいで大量の説明の山を読まされたという徒労感しか残りませんでした。
 
本の頭から中編クラスのボリュームの小説一本分の説明が続き、その後事件が起こってもまだ説明が続き、結局最後まで説明が途切れることはなく、小説を読む際のリズムやテンポというものを完全に無視して説明に徹するため読み進めることが作業に感じてしまいます。
 
それ以外も、谺呀治かがち家にはサギリという名前の女が5人も6人も登場し煩わしい上に、読者を混乱させるためだけに作られたような紛らわしい漢字の固有名詞が読む者を惑わせと、複雑な設定を複雑なまま放り投げられ、しかも設定が面白さに直結しておらずとてもストレートに楽しいと思える小説ではありませんでした。
 

説明に埋もれてあやふやなままな事件の全容

 
この小説は起こった出来事が怪奇現象(ホラー)なのか人の作為(ミステリー)なのかという事実を曖昧なまま進めそのまま明解な答えを出さず終わるため、煙に巻かれるような読後感でスッキリしません。
 
主人公が怪事件を推理しても、長々と説明した挙げ句にただの勘違いでしたというオチや、憶測が混じったまま話が流れて結局何が真実なのかハッキリしないまま推理時間が終わるなど、事件を解明しているはずなのに推理を聞けば聞くほど真実から遠ざかっているような気分になり、一番興奮するはずの謎解きがちっとも盛り上がりませんでした。
 
ホラー小説ならまだ事件の全容が明らかにならずとも気になりませんが、ミステリーの形式も入っているとあれほどとてつもない量の説明をしておいて結局何がなんだかよく分からない、世の中には不思議なこともあるもんだねという結論で片をつけられると納得がいきません。
 
相当な人数が怪死しているのに驚くほど作風が淡々としている点も気になりました。あまり人が死んでいるという実感や事態が深刻になっているという危機感もなく、作中で魔女狩りが起こるかもしれないとかこのままでは村がパニックに陥ると言われても何の説得力もなく結局この話をどう転がしたいのか最後まで意図が掴めませんでした。
 

最後に

 
ホラー小説として読むと、人ならざるものと遭遇する場面など本気でゾッとする箇所や気味が悪く尾を引くエピソードが多数あり十分楽しめます。
 
ただ、説明調の文体と相まって単純にいち小説としての面白さはそこそこといった程度でホラーとミステリーの融合もうまくいっているとは到底思えず不満が多く残る内容でした。
 

刀城言耶シリーズ

タイトル
出版年
凶鳥(まがとり)の如き忌むもの #2
2006年
首無の如き祟るもの #3
2007年
山魔(やまんま)の如き嗤うもの #4
2008年
水魑(みづち)の如き沈むもの #5
2009年
幽女の如き怨むもの #6
2012年

三津田信三作品

 

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