評価:75/100
著者 | 三津田信三 |
発売日 | 2006年2月28日 |
短評
小説全体が惨劇の舞台となる神々櫛 村に対する説明で埋め尽くされており、物語を読んでいるというよりも説明を読まされている気分になるほど異常な量で読みづらいことこの上ない。
説明の多さに加え、語り手が必ずしもありのままの真実を述べていない箇所があるミステリーとしては凝りに凝った作りで一度通して読んだだけだと隅々までトリックが理解しきれない難物でもある。
ホラー小説としてゾッとする場面はいくつもあるが、ミステリーとしては奇抜な手法に走りスッキリしない終わり方なため、ややどちらのジャンルとしても中途半端さが否めず煮え切らない作品。
説明で始まり説明で終わる、主役は説明文な小説
この小説は、太平洋戦争が終わって間もなくの頃、神々櫛 村という、神櫛 家と谺呀治 家という2つの旧家が対立する古き因習に縛られた僻村 で起こる怪事件を刀城言耶 という怪奇幻想作家が推理し、真相に迫っていくというホラーミステリーです。
作風は金田一耕助シリーズなど横溝正史作品の影響が濃く、古い因習に囚われ未だに神隠しが当たり前のように起こる不気味な村が舞台と、共通点が多くあります。
しかし、ホラーやミステリーというジャンルうんぬんよりも、この小説で一番異様なのは度を越したほどの説明量の多さです。小説全体の7割~8割は舞台となる村に纏わる歴史や地理の説明で埋め尽くされており、物語を読んでいるというよりも、ひたすら作者が考えたオリジナルの設定を読まされ続けるといった趣向で、読んでいてとにかく疲れます。
しかもホラーとミステリーの中間を狙ったような作風がマイナスに作用し、小説を最後まで読み終えても曖昧な箇所が多く残り釈然とせず、そのせいで大量の説明の山を読まされたという徒労感しか残りませんでした。
本の頭から中編クラスのボリュームの小説一本分の説明が続き、その後事件が起こってもまだ説明が続き、結局最後まで説明が途切れることはなく、小説を読む際のリズムやテンポというものを完全に無視して説明に徹するため、普通の小説とは読んでいる際の感触がまるで異なります。
説明に埋もれてあやふやなままな事件の全容
この小説は起こった出来事が怪奇現象(ホラー)なのか人の作為(ミステリー)なのかという事実を曖昧なまま進めそのまま明解な答えを出さず終わるため、煙に巻かれるような読後感でスッキリしません。
主人公が怪事件を推理しても、長々と説明した挙げ句にただの勘違いでしたというオチや、憶測が混じったまま話が流れて結局何が真実なのかハッキリしないまま推理時間が終わるなど、事件を解明しているはずなのに、推理を聞けば聞くほど真実から遠ざかっているような気分にもなり、一番興奮するはずの謎解きが盛り上がりませんでした。
ホラー小説ならまだ事件の全容が明らかにならずとも気になりませんが、ミステリーの形式も入っていると、あれほどとてつもない量の説明をしておいて結局何がなんだかよく分からない、世の中には不思議なこともあるもんだねという結論で片をつけられると到底納得できません。
相当な人数が怪死しているのに驚くほど淡々としているので、あまり人が死んでいるという実感や、事態が深刻になっているという危機感もなく、作中で魔女狩りが起こるかもしれないとか、このままでは村がパニックに陥ると言われても何の説得力もなく、結局この話をどう転がしたいのか最後まで意図が掴めませんでした。
最後に
ホラー小説としては人ならざるものと遭遇するシーンなど本気でゾッとする箇所や、気味の悪いエピソードが多数ありそこそこ楽しめました。
ただ、説明調の文体も相まって単純にいち小説としての面白さはそこそこといった程度で、ホラーとミステリーの融合もあまりうまくいっているとは思えず不満が多く残る内容です。
刀城言耶シリーズ
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