発光本棚

書評ブログ

発光本棚

【小説】説明過多の度が過ぎる伝奇ホラーミステリー 『厭魅(まじもの)の如き憑くもの 刀城言耶シリーズ #1』 著者:三津田信三 〈書評・レビュー・感想〉

f:id:chitose0723:20211130192356j:plain

評価:75/100
作品情報
著者 三津田信三
発売日 2006年2月28日

小説の概要

 
 この小説は、太平洋戦争が終わって間もなくの頃、神々櫛かがぐし村という僻村へきそんで起こる怪事件を怪奇幻想作家である刀城言耶とうじょうげんやが推理するというホラーミステリーです。
 
 作風は横溝正史作品(金田一耕助シリーズ、など)の影響が濃く、神櫛かみぐし家と谺呀治かがち家という2つの旧家が対立する古い因習に囚われ未だに神隠しが当たり前のように起こる不気味な村が舞台と、共通点が多くあります。
 
 ただ、小説全体が惨劇の舞台となる神々櫛かがぐし村に対する説明で埋め尽くされており、物語を読んでいるというよりも説明を読まされている気分になるほど異常な量で読みづらいことこの上ありませんでした。
 
 村の説明量に加え、語り手が必ずしもありのままの真実を述べていない箇所があるなど、ミステリーとしては凝りに凝った作りで一度通して読んだだけだと隅々までトリックが理解しきれない難物でもあります。
 
 ホラー小説としてはゾッとする場面はいくつもありますが、ミステリーとしては奇抜な手法に走り過ぎで、ややどちらのジャンルとしても中途半端さが否めず煮え切らない作品でした。
 

説明で始まり説明で終わる、主役は説明文な小説

f:id:chitose0723:20210826123857j:plain

 
 この作品は、神々櫛かがぐし村の特異な地形を利用し、怪事件が人の犯行なのか人ならざる怪異の仕業なのかをぼかすことで、ホラー要素とミステリー要素を融合させてしまうというアプローチを採用し、それ自体は非常に惹かれるものがあります。
 
 しかし、ホラーやミステリーというジャンルうんぬんよりも、この小説で一番異様なのは度を越したほどの説明量の多さです。小説全体の7割~8割は舞台となる村に纏わる歴史や地理の説明で埋め尽くされており、物語を読んでいるというよりも、ひたすら作者が考えたオリジナルの設定を読まされ続けるといった趣向で、読んでいてとにかく疲れます
 
 しかもホラーとミステリーの中間を狙ったような作風がマイナスに作用し、小説を最後まで読み終えても曖昧な箇所が多く残り釈然とせず、そのせいで大量の説明の山を読まされたという徒労感しか残りませんでした。
 
 本の頭から中編クラスのボリュームの小説一本分の説明が続き、その後事件が起こってもまだ説明が続き、結局最後まで説明が途切れることはなく、小説を読む際のリズムやテンポというものを完全に無視して説明に徹するため、普通の小説とは読んでいる際の感触がまるで異なります。
 
 それ以外も、谺呀治かがち家にはサギリという名前の女が5人も6人も登場し煩わしい上に、読者を混乱させるためだけに作られたような紛らわしい漢字の固有名詞が読む者を惑わせと、複雑な設定を複雑なまま放り投げられ、しかも設定が面白さに直結しておらず、とてもストレートに楽しいと思える小説ではありませんでした。
 

説明に埋もれてあやふやなままな事件の全容

f:id:chitose0723:20210826124107j:plain

 
 この小説は起こった出来事が怪奇現象(ホラー)なのか人の作為(ミステリー)なのかという事実を曖昧なまま進めそのまま明解な答えを出さず終わるため、煙に巻かれるような読後感でスッキリしません。
 
 主人公が怪事件を推理しても、長々と説明した挙げ句にただの勘違いでしたというオチや、憶測が混じったまま話が流れて結局何が真実なのかハッキリしないまま推理時間が終わるなど、事件を解明しているはずなのに推理を聞けば聞くほど真実から遠ざかっているような気分になり、一番興奮するはずの謎解きがちっとも盛り上がりませんでした。
 
 ホラー小説ならまだ事件の全容が明らかにならずとも気になりませんが、ミステリーの形式も入っているとあれほどとてつもない量の説明をしておいて結局何がなんだかよく分からない、世の中には不思議なこともあるもんだねという結論で片をつけられると到底納得できません。
 
 相当な人数が怪死しているのに、驚くほど作風が淡々としている点も気になりました。あまり人が死んでいるという実感や、事態が深刻になっているという危機感もなく、作中で魔女狩りが起こるかもしれないとか、このままでは村がパニックに陥ると言われても何の説得力もなく、結局この話をどう転がしたいのか最後まで意図が掴めませんでした。
 

最後に

 
 ホラー小説としては人ならざるものと遭遇する場面など本気でゾッとする箇所や、気味が悪く尾を引くエピソードが多数あり、十分楽しめます。
 
 ただ、説明調の文体と相まって単純にいち小説としての面白さはそこそこといった程度で、ホラーとミステリーの融合もうまくいっているとは思えず不満が多く残る内容でした。
 

刀城言耶シリーズ

タイトル
出版年
凶鳥(まがとり)の如き忌むもの #2
2006年
首無の如き祟るもの #3
2007年
山魔(やまんま)の如き嗤うもの #4
2008年
水魑(みづち)の如き沈むもの #5
2009年
幽女の如き怨むもの #6
2012年
 

TOP