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【ホラー・ミステリー小説】シリーズ慣れすることで真価を発揮する二作目 |『凶鳥(まがとり)の如き忌むもの』 刀城言耶シリーズ #2 | 三津田信三 | 書評 レビュー 感想

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作品情報
著者 三津田信三
出版日 2006年9月4日
評価 80/100
オススメ度
ページ数 約576ページ

小説の概要

 
この小説は、怪奇幻想作家である刀城言耶とうじょうげんやが怪事件を推理するシリーズ二作目です。
 
今作は、兜離とりの浦という漁村の沖合にある孤島、鳥坏島とりつきじまを舞台に、鳥人の儀と呼ばれる謎の儀式の最中、次から次に密室内で人間が消失していくというストーリーです。
 
前作が、ホラーとミステリーの配合バランスが半々だったのに比べ、今巻は大きくミステリーに傾き、結果ホラー小説としての尾を引く不気味さは薄まったものの、集中して謎解きに取り組めるため読みやすさは段違いに向上しました。
 
それに前作を読んでいることで、ホラーとミステリーが融合した刀城言耶シリーズの楽しみ方に体が慣れているため物語にすんなりと入り込め、素直に楽しいと思える続編でした。
 

前作のホラー5 : ミステリー5の配分から、ホラー 2:ミステリー 8となり密室ミステリーへと変貌を遂げる

 
シリーズ一作目である前作は、作者が気合いを入れすぎたのか、惨劇の舞台となる村に対する歴史や地理、風習といった大量の説明群で埋め尽くされておりとても読みやすい作品ではありませんでした。
 
今作も序盤から中盤にかけてはほとんど似たような作りで、兜離とりの浦の歴史や、その他民俗学的な雑学やらなんやらでうんざりするほど説明を読まされ、前作から何も変わっていないのではないかと不安を抱きます。
 
しかし、説明が一通り終わった後に舞台が孤島に移り鳥人の儀が始まると空気が一変。外界から遮断された孤島で完全な密室状態から人間が消失するという怪事件が起こり、鳥人の儀へ意識が釘付けにされるため続きが気になり読むのが楽しくて仕方がありませんでした。
 
前作がいつまでもダラダラと村の歴史を説明し続けるため、奇っ怪な殺人事件が起こっても事件そのものにあまり集中できなかったのとは対照的に、こちらは邪魔の入らない孤島でしかも登場人物の数も限られているため一度事件が始まってしまうとその件だけに描写が絞られ読みやすさが段違いです。
 
視点も複数の人物の間で行ったり来たりしていた前作に比べシンプルに主人公のみに絞られており、これのおかげで初めて訪れる土地で危険な匂いのする謎めいた儀式によそ者として立ち会うという、右も左も分からない状況に感情移入しやすく好ましく感じました。
 
序盤の兜離とりの浦に対する大量の説明も読んでいる時は苦痛なのに、鳥人の儀が始まってしまうと迷信深い土地柄や珍妙な儀式そのものへの説得力に変換されるため、中盤まで読むとこの序盤の説明量も必要だったなと納得できます。
 

豪快な密室トリックに押され、やや控えめとなったホラー小説としての怖さ

 
小説としては今作のほうが遙かに読みやすくはなったものの、ホラー風味は削られてしまい、あまり恐怖を感じる瞬間はありませんでした。
 
前作がヘビにまつわる話だったため、ヘビに似た何か得体の知れない怪異のようなものを目撃するとか、地面を這うヘビを意識させるためか語りの視点を下へ下へと誘導するような工夫が凝らされていたのに対し、今作は鳥にまつわる土地なのに、あまり鳥に関連させた恐怖体験がなく、しかも空へと意識を向けさせる工夫もないため味気なく感じます。
 
事件そのものも密室から人間が消失してしまうという大がかりなイリュージョンのトリックを暴くような話なため、どうしてもホラーと言うよりも根本のシチュエーションがミステリー過ぎてホラーミステリーというには恐怖が足りません。
 
ホラーとしての緊張感がないため、主人公が単独で行動する際や事件現場を調査する際に自分の身にも何か危険が及ぶのではないかという恐怖が生じませんでした。ここは前作のほうが村そのものに薄気味悪さを覚えたのであの濃密な緊張が懐かしくなります。
 
それと、ラストがあっさりとした終わり方でエピローグを長めに取って事件の軽いおさらいをするとか感傷に浸るといった心地よい間がなくややせかせかし過ぎなのも不満でした。これだと前作にはあった事件後に実はあの時に遭遇した何気ない出来事が怪異の仕業だったのではないかと気付きゾッとするという、良い意味で後味が悪いホラー小説の醍醐味が堪能できません。
 
読んでいる際の楽しさで言うと今作が上なのに、読み終わった後強烈に記憶に刻まれるのは、実はとてつもなく危ない目に遭遇していたことに後で気付かされる前作のほうでした。
 

最後に

 
ホラー色が薄まったのは残念でしたが、前作ではやや上滑っていた大量の説明は鳥人の儀という奇妙な儀式に説得力を与えるという役割を果たしており、しかも儀式が始まってからの先が気になる中毒性は前作を軽く凌駕するほどです。
 
今作で、大量の説明により奇妙な舞台や怪事件に厚みを加え荒唐無稽なだけの話に陥る愚を避けつつ、ホラーとミステリーを同時に疑いながら読むという刀城言耶シリーズを読む際の作法が分かりこのシリーズがぐっと好きになりました。
 

刀城言耶シリーズ

タイトル
出版年
厭魅(まじもの)の如き憑くもの #1
2006年
首無の如き祟るもの #3
2007年
山魔(やまんま)の如き嗤うもの #4
2008年
水魑(みづち)の如き沈むもの #5
2009年
幽女の如き怨むもの #6
2012年

三津田信三作品

 

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