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読者を欺く二重三重の罠の先に恍惚の謎解きが待ち受けるシリーズ第三弾 「首無の如き祟るもの 刀城言耶シリーズ #3」 著者:三津田信三 〈書評・レビュー・感想〉

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評価:85/100
作品情報
著者 三津田信三
発売日 2007年5月7日

短評

 
 ホラーとミステリーが融合する作風を持つ刀城言耶シリーズにしてはほぼミステリー小説化しており、ホラーを期待すると拍子抜けさせられる。
 
 しかし、二転三転どころか四転五転と衝撃の真相が矢継ぎ早に明らかとなる怒濤の謎解きパートの興奮はシリーズでも屈指の完成度。
 
 シリーズ一作目の『厭魅まじものの如き憑くもの』と同様、複数の人物の証言を繋ぎ合わせ事件の真相に迫るスタイルに加え、この小説そのものがかつて同人誌に掲載された小説を後に刀城言耶が再構成したものという体なため、一体何が真実で何がフィクションなのか、その不確かさにも幻惑される。
 

前作からガラッとスタイルを変えた、入り組んでいるのに読みやすい語り口

 
 この小説は、かつて太平洋戦争の戦中・戦後に媛首ひめかみ村で二度に渡って繰り返された怪事件を、当時の証言や資料を元に小説化した同人誌を、さらに後世に再編成したという内容のミステリーで、刀城言耶シリーズの三作目です。
 
 一見して分かる通り、これまでの刀城言耶シリーズの中でも特異な形式を取っています。
 
 怪事件を実際に経験した者の話を聞き、それを小説として書き起こした同人誌版を元に、さらに刀城言耶が後に判明した新たな情報を加えて編集したものという、主人公である刀城言耶本人がほぼ何も事件に関与しない、過去二作とはまったく毛色が異なった内容です。
 
 前作の『凶鳥まがとりの如き忌むもの』は、刀城言耶が事件そのものに立ち会い、主人公目線で謎の儀式に肉薄するような見せ方でした。それに対し、こちらは戦中と戦後にまたがる二つの事件を俯瞰して眺めるような引いた視点を取っており、受ける印象が別物です。
 
 事件を目撃した者たち複数の証言を繋ぎ合わせて真相に迫っていくというスタイルはシリーズ一作目に非常に似ています。さらに、今作は過去二度に渡って起きた惨劇に対する事件後の作者の視点からの解説と、過去に事件を目撃した者の視点が行ったり来たりする構造なため、単純な視点の数はより増えています。
 
 ですが、今作はこのシリーズの味であり難点でもある、舞台や怪事件に説得力と厚みを加える膨大な説明量が冗長にならないように、過去二作に比べ、ストーリーの流れに自然にはめ込まれるという工夫が施されています。視点も誰のものなのか見失わないように整理され、一作目に比べると遙かに刺激的な上に、話も難なく理解でき読みやすいという理想的な進化を遂げています。
 
 怪事件そのものの奇妙さやスケールで引っ張るサスペンス性の強い二作目凶鳥に対して、こちらはなぜ同人誌に掲載された小説を刀城言耶がわざわざ編集し直したのかという、この小説そのものの成り立ちの謎で引っ張るミステリー色強めの作りで、このアイデアが功を奏し、最後まで興味が薄れることはありません。
 
 元々このシリーズは一作目から作品のポテンシャルは非常に高く、そのためうんざりするほどの説明が立ちはだかっても次作も読みたいと思わせるパワーがありました。それがことここに至って説明を読まされる苦痛は消え去り、ようやく眠っていた真の力をいかんなく発揮できるようになり、面白さは過去作とは段違いです。
 

興奮しすぎて読書を中断することすら困難な謎解きパートの快感

 
 この小説は、端から違和感の塊です。
 
 冒頭に刀城言耶から軽くこの小説が生まれた経緯が解説され自分はこの事件に関わっていないという但し書きがあったかと思うと、次にはこの小説の元である同人誌版の本物の作者の解説が入り、この小説は自分が体験したことではないという説明がされと、いきなり小説の冒頭で二人の作家が続けてこの小説は実体験ではないという注意を繰り返すという異様な書き出しをしています。
 
 このため「これは絶対に大がかりなトリックが仕掛けられているぞ」と身構えさせられ、注意力が自然と向上させられる効果があります。
 
 しかも、同人誌版は事件関係者の証言を元に、読み物として読みやすくするためにあえて小説という体を取っているという設定で、実際の証言に作者の手が加えられており、最初から最後まで確かなものがほぼ存在しません。
 
 ただ、この登場人物に感情移入させずに、多層の物語を常に一歩引いて俯瞰で体験させるという作りがホラーとすこぶる相性が悪いのか、ホラーミステリーなのに読んでいて怖さを感じる瞬間はほぼ皆無でした。
 
 その分、この異様な語り口の謎が全て解明されるラストの謎解きパートは過去二作とはもはや別次元の完成度で、一度読み始めると中断なんて不可能なほど引き込まれ、一気に読み終えてしまいました。
 
 この謎解きパートの二転三転ぶりは凄まじく、媛首ひめかみ村で起こった二つの怪事件に対する真相の究明と、さらにそもそもこの小説の異様な語り口の謎も解き明かされと、普通のミステリーの数倍のボリュームがあり、その量に圧倒されます。
 
 謎解きが終わったと思ったら次の謎に移り、それが終わると前に解き明かされた謎の奥に隠された謎が浮かび上がり、その謎を解いている途中でもう一つ謎が生まれ、その謎を解いていると最初の謎の奥のさらに奥の謎が判明しと、疑問が次から次に消失するテトリスのような謎解きの連鎖が快感で仕方がありませんでした。
 
 前作の凶鳥が衝撃的な内容に対して謎自体はシンプルだったので、無意識的にそれくらいのものを予想していたこともあり、怪事件そのものが面白い上に、謎解きも充実しており嬉しい誤算でした。
 

最後に

 
 正直、スッキリするミステリーよりも何も解決せずもやもやしたまま終わり胸焼けのような不快な後味が尾を引くホラーのほうが好みなので、このミステリー特化の作りは手放しでは喜べません。
 
 それでも、一作目で大量の説明を読まされ辟易していたのが嘘のようにシリーズを重ねるごとに作品のキレに磨きがかかり、今作でついに突き抜けた完成度にまで達し、もうこのシリーズの虜になりました。
 

刀城言耶シリーズ