PV
評価:75/100
放送期間 | 2019年1月~3月 |
話数 | 全12話 |
アニメ制作会社 | GEMBA |
アニメの概要
この作品は、『ガールズ&パンツァー』でお馴染みの水島努監督が手掛けるオリジナルのTVアニメです。
第二次世界大戦時の日本軍のレシプロ戦闘機というレトロな兵器を題材としている点はガルパンと同様です。
レシプロ戦闘機同士の空戦は音響の作り込みが細かく、しかも派手さを求めない非常に乾いたタッチで斬新でした。
しかし、西部劇風の世界観設定は見た目だけで、キャラクターもまったく掘り下げられず、ストーリーもほぼあってないようなものなためストーリーは退屈です。
総じて、作り手がこだわりたい部分だけこだわり後はやっつけなため極めてバランスが悪く、戦闘機同士の戦いを長時間見せられ続けるだけの人を選ぶ作品になっています。
レシプロ戦闘機 9 : その他要素 1の戦闘機を描くことにしか興味がないアニメ
本作は最初から最後まで主役はレシプロ戦闘機で、ほとんど旧日本軍の戦闘機好きが作った同人作品のようなノリでした。
同じ水島努監督作品でも、ミリタリー&美少女ジャンルとしてバランスが整っていて見やすい『ガールズ&パンツァー』とは完全な別物です。
ただ、その分細部のこだわり具合は半端ではなく、特に機体の軋む音や機銃の発射音や着弾時のSE、レシプロエンジンの音など音まわりは一体何種類の音のパターンを使い分けているんだろうと思うほど豪華で耳を楽しませてくれます。
本作の音作りのこだわりは、ロボットアニメなどメカが登場するアニメはサウンドデザインにこだわればまだまだ新しいことに挑戦できるのではないかと気付かせてくれるほど刺激的でした。
他にも、同じCGの戦闘機が主役の劇場アニメである『スカイクロラ』と比べ、戦場をやや引いたような視点で捉える、派手さを抑えたカメラワークで見せるため非常に乾いたタッチに仕上がっており、こちらも新鮮です。
本作を見た後に『スカイクロラ』を見直したら、海外ドラマの『ギャラクティカ』のようなズームを多用する派手なカメラワークで、淡々としたドラマパートに対し、戦闘機が登場するシーンはこんなに画面がやかましかったのかと改めて気付きました。
ドッグファイトがど派手な『スカイクロラ』のほうが遙かに見やすいものの、レトロなレシプロ戦闘機という素材の味を生かすため、極力味付けを削っているこちらのほうが見せ方が新しく見えます。
しかも地味になり過ぎないように、狭い渓谷を高速で駆け抜けるとか、市街地を建物スレスレで飛ぶなどスリルに特化したシーンも用意されており、硬軟 問わずこだわりを感じさせてくれます。
戦闘機まわりは見れば見るほど、これまでの似たジャンルの作品と差別化しようとする情熱が見て取れ非常に好感触でした。
勢いだけで作ったような設定やストーリー
本作は戦闘機の見せ方のこだわりに特化し過ぎており、それ以外は褒める箇所がほとんどなく、体感としては非常に無味乾燥です。
一見普通の酒場から始まる1話の冒頭はガルパンのTVシリーズの1話と構造としては同じことをやっているのに、あまりにもヘタすぎて最初意味が分かりませんでした。
このただの酒場だと思ったら実は・・・という部分は、見る者に違和感を与える描写が足りず、せいぜい外は昼間っぽいのになぜか灯りが付いているくらいで、いくらなんでも事前の描写が足りていません。結局、その後の展開であっさり流れてしまいアイデアとしてややスベっています。
設定もキャラクターもストーリーもなんとなく雰囲気だけで成立しており、地に足着いた安定性が皆無で何をやってもどんな事件が起こってもどれほど変人が登場しても別段興味が持てません。
特に酷いと思ったのは序盤に主人公のキリエと因縁が生じる謎の凄腕パイロットの正体です。あんなに引っ張っておいてビックリするほど本筋と関係なく、正体が明らかになった瞬間ただの脇役化するのでその適当さに呆れました。
西部劇風の世界と言っても『トライガン』のようなスチームパンクを混ぜた独自の魅力があるわけでもなく、ミリタリー愛に比べるとただのオマケにしか見えません。
野原しんのすけとひろし親子が運び屋な世界
キャラクターは、基本はセルルックCGなもののたまに手描きの部分もあり、これがごちゃ混ぜで同じキャラなのになぜこの部分はCGでこっちは手描きなのかなど、たまに意図が分からない部分もあります(コスチュームを変えたいから?)。
さすがにキャラクター同士の掛け合いはリズム感が突出している水島監督が音響監督もしているため、演技指導が行き渡っておりリズミカルで心地良さすら感じます。
しかし、主人公のキリエは最初から空が好き、飛行機大好きと言い続け、それが悪い意味で一貫しており、結局キリエもコトブキ飛行隊のメンバーも始まりと終わりで人物イメージに変化が無く、まるで好きになれませんでした。
とにかく出てくる登場人物ほぼ全員空回り状態で、作品に深みを与えるためではなく、作りの浅さを煙に巻くために喋り続けるため、聞いていて何の感情も生じません。
運び屋に用心棒として雇われたコトブキ飛行隊の敵となる積み荷を狙う空賊たちも存在感がゼロです。いっそのことガルパンと同じで全員美少女パイロットだらけにして、高額な賞金首の凄腕パイロットを出すといったほうが西部劇風なノリと相性が良く、見た目とのギャップが生じたと思います。
似たような西部劇風のコミカルタッチな設定の作品で言うと『ゾイド新世紀/ゼロ』のように個性的なチームを出すなり、フリーランスの凄腕ゾイド乗りがいるとか、いくらでも面白く出来そうなのに空賊も飛行機乗りも何の印象にも残りませんでした。
最後に
優れた部分とそうでない部分の差が激しく、サービス精神はあるのにそれがうまく機能しておらず、決して見やすい作品ではありません。
ただ、レシプロ戦闘機の魅力を最大限引き出してあげたいという作り手の飛行機愛はひしひしと感じられ、しかも最終話の市街地戦は劇場版のガルパン並の狂ったようなアクションシーンの連続で一瞬たりとも目が離せないほどの密度など、見応えがあるシーンは多数あります。
ガルパンのような弱小部活が勝ち上がっていくようなスポ根要素や、戦車にトラウマがあった主人公が仲間と戦う内に徐々に過去を克服し失った自信を取り戻していく話など、もう少し飛行機意外にも取っかかりがあれば文句ありませんでした。
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