評価:60/100
公開日 | 2000年1月22日 |
上映時間 | 94分 |
映画の概要
この作品は、貴志祐介デビュー作であるホラー小説『十三番目の人格 ISOLA』の実写版です。
原作小説は阪神・淡路大震災の被災者でもある貴志祐介さん自身の被災体験を踏まえて書かれており、映画版もホラー映画というジャンルにしては非常に硬派でおふざけなしの誠実な作風です。
阪神・淡路大震災直後の被災地を丁寧に再現し、本当に震災直後に見えるなど、原作小説に登場する景色や建物の再現度はかなり高めで、原作を読んでいるとより満足度が上がります。
しかし、原作小説からミステリーのオチにあたる部分の理解に必要な情報だけを抜き出し強引に話をまとめているため、ただ話の筋が分かるだけで原作で面白かった箇所はほぼ全て消え失せており、映画だけ見ても何も面白くはありません。
原作の内容を削り過ぎてなんの味もしなくなった映画版
映画の冒頭から驚かされるのは、阪神・淡路大震災の直後という原作小説の設定に説得力を持たせる瓦礫が散乱する崩壊した街の景色でした。
しっかり震災の直後に見える街並みや避難所以外も、原作小説に出てくる非常に重要な場所である地震で五階部分が潰れた大学の建物内部もかなり忠実に再現されており、そこまで潤沢な予算があるわけでもないのに絵的にはかなり豪華に見えます。
ただ、正直セットの作り込み以外の部分は、2000年に公開された映画なりの古くささが目立ちます。
CGの技術が今と比べ劣るのは仕方ないとしても、恐怖シーンになる度にしつこく鳴る下品なSEの使い方や、同じく何かある度に役者に対してダサいズームを多用する撮影、今見るとどこかぎこちない編集リズムなど、単純な映像作品としてはあまり魅力を感じません。
しかし、水谷監督のクセなのか、本筋とほぼ何の関係もない、震災のショックで太平洋戦争の記憶がフラッシュバックした老人が見る戦場の風景を少しだけ挟んだり、ストーリー上重要となる『雨月物語』を説明するためだけに別個にサイレント映画風の映像(VHSなのにアスペクト比が16:9なのが変)を作っていたりと、そこに映像素材を用意しても作品的には別段なんの影響もないという箇所にわざわざ手作りの映像を挟みたがる無駄な凝り具合は若干笑ってしまいました。
全体的に映像部分は可もなく不可もなくといった程度のものですが、本作最大の問題は脚本です。
原作の優れた部分をすくい取るのではなく、ミステリーのオチにあたる部分を理解するためだけに必要最低限の情報だけを拾ってコンパクトに並べるという手法を取っているため、ハッキリ言って映画版は一切面白味がありません。
ISOLAという凶悪な人格を持つ多重人格の少女とのカウンセリングを通した心の交流やそれを利用したミスリードも無くなり、かなりぶっ飛んだオチに説得力を持たせるため必至となる説明も全て取っ払われと、ただひたすらオチに向かって一直線に進むだけの紆余曲折が皆無な話し運びで面白がる余地が一つも存在しません。
特にカウンセリングという行為は、多重人格の少女の中にいるISOLAの正体を突き止めるという目的以外にも、被災者の心をケアし寄り添うというテーマ性にもそのまま繋がっているため、この部分を大幅に削ってしまっている映画版は原作に比べると遙かに物足りなく感じてしまいます。
最後に
ここまでオチに関係しない人物や情報を全て排してしまうと、もはやミステリーにならないというか、逆にミステリーって大量の無駄な情報やミスリードによって面白さが生じているんだなと改めて考えさせられるような映画でした。
原作小説を読んでいれば最低限ダイジェスト版として見ることができ、小説に登場した場所を本当にセットを作って再現しているという感動がありますが、映画だけ見たら多重人格の少女にまったく役割がなく、面白さは皆無な出来です。
小説版
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