著者 | 山口周 |
出版日 | 2017年7月19日 |
難易度 | 普通 |
オススメ度 | ☆☆☆ |
ページ数 | 約228ページ |
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本の概要
この本は、論理や理性に走るばかりでそれと同じくらい大切な感性を置き去りにする現代社会に警鐘を鳴らすビジネス書です。
ネットやAI、SNSと高度なテクノロジーの発達により、過去の経験がまるで役に立たず、未知の問題に対する柔軟な想像力のほうが重要になった現代においてどのようなことに注意して生きるべきか、示唆に富む一冊です。
センスの良い人、センスの良い企業が、なぜそう感じさせるのか理由が分かる一冊
この本の内容を端的に述べると、重要な物事の決定の際に論理や理性ばかり優先し、美意識や感性といった直感をないがしろにし過ぎる現代へ警鐘を鳴らすというもの。
しかも、論理や理性と言った思考力や分析力を頭ごなしに否定するのではありません。そもそも論理と美意識という両方揃って初めて正しい判断が可能となる基準のうち、片方の美意識だけが大きく欠けているという点を強調しており、この辺の論理展開は例えも分かりやすく、すんなりと腑に落ちました。
この本を読むと、美意識を鍛えなければ現代を生き残れないと身が引き締まると同時に、なぜ世の中に魂が不在の中身がない商品や作品、サービスが氾濫しているのか手に取るように分かるという副次的な効果まで得られます。
本の主旨は非常に普遍的で、かつ現代にはびこる問題の核心をつくような鋭い切れ味なため、これはもっと若い頃に読み、この本の内容を人生の訓戒としたかったなという叶わぬ願望を抱いてしまいました。
安土桃山時代のイノベーター
この本を読んでいて一番興奮した部分は、高い美意識を持つ代表として何度も名前が挙がるアップルの設立者の一人であるスティーブ・ジョブズと似た存在として千利休 が登場することです。
安土桃山時代に織田信長や豊臣秀吉のクリエイティブオフィサーとして、侘 びで日本人の美意識に革命をもたらした千利休は、現在で言うとスティーブ・ジョブズのような存在なのだという例え話が面白すぎて、ここだけで心を鷲掴みにされました。
この本は歴史と特に関係のある本ではないものの、歴史上の人物を現代のカリスマで例えられると歴史の見方に新しい視点が生まれ新鮮だなと、妙な発見がありました。
美意識の危うさ
この本の内容は概ね素晴らしいと思うものの、やはりどうしても美意識を優先すると自己陶酔と紙一重という危うさを孕み、慎重さも必要だなと感じました。
美意識を優先し過ぎた独善的な暴走を今度は論理で抑える必要もあり、やはりこの本の主旨である、論理と美意識は両方同時にバランス良く持つべきという結論が至極正しいなという考えに至ります。
この本を読むと、どうしても美意識というアクセルを踏みたくなりますが、論理というブレーキが壊れている場合は暴走するだけなので、今度はこの本を読んだ人間が勘違いして美意識に偏重し出すのではないかという懸念も抱きます。
最後に
内容自体は革新的なことが書かれているわけではなく、論理ばかりに偏重する物の見方を改め、基本に立ち返り、判断のバランス感覚を取り戻そうという非常に明快なものです。しかし、そんなシンプルな内容が、美意識の不在という、現代においてあらゆる分野で広範囲に渡り存在する深刻な問題について考えを改めさせられる大変いいキッカケとなります。
新しい知識を得るというよりも忘れていた大切なことを思い出すような感覚で清々しい読後感があり、大変有意義な一冊でした。
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