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【アメリカ映画】スリラーの名手が撮った二流ホラー映画 |『ベルベット・バズソー -血塗られたギャラリー-』| レビュー 感想 評価

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トレーラー

評価:70/100
作品情報
配信日(ネットフリックス) 2019年2月1日
上映時間 113分

映画の概要

 
この作品は、アメリカロサンゼルスを舞台とするサスペンスホラー映画です。
 
ダン・ギルロイ監督と撮影監督ロバート・エルスウィットコンビが撮った『ナイトクローラー』、『ローマンという名の男』に次ぐ三作目の映画です。そこに監督デビュー作である『ナイトクローラー』でも倫理観のぶっ壊れたパパラッチ役を見事に演じきったジェイク・ギレンホールも合流し、ダン・ギルロイ監督らしい変人が画面上で活き活きと輝く映画に仕上がっています。
 
いつも誠実なテーマの映画を撮るダン・ギルロイ監督らしく、芸術を金儲けの道具としか見ないアート業界を風刺的に描くという内容な点は好感が持てます。
 
しかし、脚本が散漫なのと、ホラー映画としてもセンスが二流以下で、ダン・ギルロイ監督作品の中では最も完成度が低い映画でした。
 

あらすじ

 
舞台はロサンゼルス。美術商の元で働く新人のジョセフィーナは、ある日アパートの上階で急死した老人の第一発見者となる。老人はヴェトリル・ディーズという名で身内がおらず自分が死んだら持ち物を全て廃棄して欲しいと遺言を残していた。
 
ジョセフィーナが亡くなったディーズの部屋を訪れると、そこにはアート業界を揺るがすほどの絵画が山のように眠っていた。
 
この業界で成功を収めたいジョセフィーナはじめロサンゼルスの美術商や芸術評論家たちはこぞって絵画を高値で売ることばかり考え、ディーズの遺言を無視し絵を金儲けの道具にしてしまう。
 
しかし、ディーズという無名の画家がなぜこれほどまで見る者の心を鷲掴みにする絵画を描けたのか、その謎が明らかになるにつれ徐々にディーズの絵に群がるアート業界の人間たちに奇妙な怪現象が起こり始め・・・。
 

誠実なクリエーター、ダン・ギルロイ

 
『ナイトクローラー』では報道に刺激ばかり求め暴走するメディアの問題。二作目の『ローマンという名の男』では弱者救済と公民権運動に人生を捧げてきた男のファイティングスピリットが次の世代へ受け継がれる話と、見た目はスリラーで登場人物は変人ばかりなのに中身は誠実なテーマの映画ばかり撮るダン・ギルロイ監督らしく、今作もホラーというジャンルを借りたアート業界への痛烈な風刺というメッセージ性が強い内容です。
 
ただ、前作の『ローマンという名の男』同様に脚本が練り込み不足で、全体的にアート業界への風刺というテーマと、ホラー映画というジャンル要素がうまく噛み合わず、何もかもがとっ散らかってまとまりがありません。
 

カラッと明るいロサンゼルスとすこぶる相性が悪いホラー

 
本作はホラー映画にしては看過できない問題点で溢れかえっています。
 
まず、主要登場人物の数が無駄に多く、しかも主人公格の人物が一人に絞られず複数存在するため、序盤から視点があっちこっちの人物に忙しなく飛び続けいつまで経っても誰の話なのかさっぱり分かりません。
 
そのため、誰が死のうと特に何とも思わず、そもそも一体誰に対して何を怖がればいいのか皆目不明です。
 
犠牲者となるアート業界の人間も複数人が美術商という職業で被っており、被害に会う側に差異が無く退屈でした。
 
この視点がグラグラでホラーなのに誰目線で怖がればいいのか不明という脚本上の問題も深刻ですが、それよりも酷いのがホラー映画にも関わらずホラーのセンスがゼロなこと。
 
明らかにこの映画の作り手たちはホラー映画というものを感覚的に理解しておらず、何となくホラー映画っぽい記号を模倣しているだけで真に迫った恐怖表現がありません。
 
多分ホラー映画としての恐怖よりもアート業界の人間が自分たちが金儲けの道具にしてきたアートに殺されるという皮肉なメッセージのほうを際立たせようとしたためだと思いますが、この部分にセンスが無さ過ぎてメッセージが大して響きません。
 
それどころか、ホラーというそれ自体優れた技やセンスが要求されるジャンルをアート業界の人間たちを懲らしめるためのただの道具として使うので、アート業界がアートを金儲けの道具にしたように今度はこの映画がホラーをただの気に喰わない人間を殺すための凶器として利用するため、若干不快に感じました。
 
優れたホラー映画はどれだけ暴力的でも、その暴力の裏に哀愁やもの悲しさが漂うのにこの映画にはそれが一切ありません。
 
脚本家出身であるダン・ギルロイ監督はスリラーの名手であり、ホラーという映像作家としての高い能力を要求されるジャンルは極端に苦手なのだと本作を見て分かりました。
 
撮影監督が天才のロバート・エルスウィットのため、あまり高くない予算で作られている割に映像は全体的に品が良く、しかもところどころハッとさせられるような鮮烈な場面もあり、むしろヘタクソなホラーシーンよりも通常のシーンのほうが見応えがあるほどです。
 
これを言い出すと台無しですが、本作はお粗末なホラー要素を全部抜いてアート業界の裏側を描くクライムサスペンスにしたほうが数倍面白かったと思います。
 

最後に

 
アートやアート業界の欺瞞を描くという内容では『アートスクール・コンフィデンシャル』やドキュメンタリー映画の『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』などの傑作には遠く及びません。
 
ただ、役者陣の演技は概ね良く、特に評論家役のジェイク・ギレンホールや、芸術家役のジョン・マルコヴィッチなどは役者として貫禄があり、アート業界という特殊な設定を成立させるのに大きく貢献していると思います。
 
それに、ジョン・マルコヴィッチがいて穴がどうたらこうたらという話が出てくるのはさすがに『マルコヴィッチの穴』を思い出し笑いました。
 
本作は全体的にホラー映画のわりに笑える要素が多めで、終盤の『ターミネーター』のパロディみたいなシーンも怖いというよりは笑ってしまい、なんだかんだでホラー映画なのによく笑ったなという変な感触が残る作品でした。
 
ダン・ギルロイ監督は映画を作るごとに段々脚本の荒さが増してきているのでそろそろ引き締めないと『ナイトクローラー』の貯金が尽きてしまいそうです。
 

ダン・ギルロイ監督作品

映画タイトル
ナイトクローラー
ローマンという名の男 信念の行方
 

 

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