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【SF小説】殺人ゲームの犯人は人間かそれとも・・・ |『継ぐのは誰か?』| 小松左京

作品情報
著者 小松左京
出版日 1970年6月
評価 85/100
オススメ度 ☆☆
ページ数 約324ページ

小説の概要

 
この作品は、IQの高い天才大学生たちが謎の殺人ゲームに巻き込まれたことをキッカケに、人類が人間なのかどうか定かではない特異な存在と接触するというSFミステリー小説です。
 
前半は人間離れした謎の犯人とそのトリックを追うwho・howダニットで、後半はなぜ犯人は人類を試すような殺人ゲームを行ったのかその動機を調べていくというwhyダニットになっています。
 

ただ、難解さが付きまとう小松左京作品なので犯行のトリックがあまりにも難しすぎて説明されてもほぼ意味が分からないため、ミステリーと言うよりはSFです

 
人類の行く末をうれう天才大学生たちが主役の青春小説であり、人類が未知の存在と接触するSFであり、殺人ゲームの犯人とその動機を追う謎多きミステリーであり、南米の歴史や神話に絡めた伝奇でもあるという多岐にわたるジャンルを含む、博覧強記の小松左京らしさ全開のSFミステリーでした。
 

天才しか登場しないSFミステリー

 
まず、この小説の最大の特徴とも言えるのが、登場人物のほぼ全員IQの高い天才たちという設定なため小説全体の会話が非常に難解なことです。
 
この作品は、一応ミステリーと紹介されていますが、あまりにも会話が難しすぎるため読んでいる感覚は完全にSFです。
 

会話だけならほとんどハードSF級の難しさです

 
主人公たち大学生グループは学生だけにまだ人間としては未熟なものの、知識量は大人とまったく遜色なく、しかも登場する大人たちも世界的に著名な学者やら、国際的な警察機関のトップなど、地位が高い人だらけです。
 
その地位とIQが極めて高い人物たちの知性に説得力を持たせるため、どの人物も自分の専門とする分野に関しては手加減無しの持論を述べるためサラッと読むだけだと会話にまるで付いていけません。
 
この、読者を完全に置いてきぼりにしようとも知性の高い登場人物たちの会話に制限を加えないという思い切ったアイデアのため、序盤は若干退屈ですが、慣れてくるとほんの些細な情報までも知的興奮に満ちていることでむしろ普通のミステリーより楽しく読めます。
 
ただ、この情報量の多さや難解さのせいでミステリー要素はほとんど機能していません。犯人が使ったトリックが明かされても単純にその分野に対する最低限の知識がない人間には意味が分からない上に、そもそも犯人の正体が普通の人間ではないためミステリーとしては反則気味と、ミステリー小説として読む場合は欠陥が多くイマイチです。
 

様々な謎を解明していくと現在の人類とは異なるもう一つの人類の姿が浮かびあがってくるという点においては『星を継ぐもの』にも通じるものがあります

情報が踊る、SFとミステリーと伝奇のダンス

 
この小説は読み進めるごとにジャンルが変化していくため、最後までどんな物語なのか全容が把握できません。
 
最初は世界のいくつかの大学で同時に発生した謎の殺人ゲームの犯人探しから始まり、それが終わると今度は強固なセキュリティを持つ国際警察機関のネットワークに一切の証拠を残さず改ざんされた痕跡が発見され犯人は人間ではほぼ不可能な犯行をどのように行ったのか調査が始まり、最後は南米の歴史や神話に絡む伝奇となっていくという、博覧強記である小松左京の持ち味が存分に発揮されています。
 
特に驚かされるのがインターネットが存在しない時代にこれが書かれたという事実です。
 
世界中が目に見えないネットワークで繋がり情報化社会となったことをキッカケに、人類より遙かにネットへの高い適応力を持った種が台頭しようとするというアイデアは、ネット社会のその先に待ち受けるであろう電脳化社会まで見越しているようで、その発想力の凄まじさに圧倒されます。
 

インターネットが誕生する前にネットが当たり前になった世界のその後に起こるであろう情報化社会に適応できなかった種が適応した種に淘汰されるかもしれないという未来を描くって意味が分かりません

 
さすがに今読むと古めかしい設定や描写が多々あります。
 
しかし、SF小説として、過去にはそれほど有効でなかった生物のとある機能が、ネットワーク社会となった現在においては既存の人類に取って代わるほどの効果を発揮するようになるなど、一見なぜそのような機能を有するか理解できない生物の特徴が社会状況が変化することで突然大化けするかもしれないという可能性を提示するというアイデアは刺激的でした。
 

おわりに

 
この小説はかなりスロースターターで、本格的に面白くなるのが中盤以降なのでそれまでは我慢してでも読み進めたほうがいいと思います。
 

序盤は正直かなり退屈で、何度か読むのをやめようかと悩みました

 
終盤がやりたいオチから適当に逆算した展開で雑だなという不満も残りますが、他の小松左京作品と比べて知名度が低いのが不思議なくらい刺激的なアイデアを堪能できるSFでした。
 

これは小松左京作品でなかったら普通に名作扱いになってもおかしくないと思います。少なくても『エスパイ』よりは圧倒的に上の完成度です

 

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