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再び息を吹き返したHBOの傑作刑事ドラマシリーズ 「トゥルー・ディテクティブ シーズン3」 〈レビュー・感想〉

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トレーラー

評価:85/100
作品情報
放送期間 2019年1月~2月
話数 全8話
アメリカ
ネットワーク HBO

短評

 
 35年に渡って未解決だった児童失踪事件を、1980年・1990年・2015年という三つの異なる時代を同時に描きながら、複眼的な視点で真相に迫っていくサスペンスドラマ……かとおもいきや、最終的にはそこから飛躍して物語論にまで発展するトリッキーな展開に驚かされる。
 
 飛び抜けて傑作すぎるシーズン1に匹敵するほどではないが、完成度が低いシーズン2は軽々と凌駕する、主演のマハーシャラ・アリの好演光るHBOらしい質の高い刑事ドラマ。
 

三つの時代を行き来させる語り口ブーム?

 
 今作は『トゥルーディテクティブ』シリーズのシーズン3ですが、このシリーズはそれぞれがリミテッドシリーズのように話が独立しており、しがらみに縛られていた刑事が、最終的には組織ではなく自分が真に正しいと思う正義に従って行動するという一貫した内容以外はなんら関係性はありません。
 
 シーズン3は、オーソドックスに近い汚職警官ものだったシーズン2とは異なり、再びシーズン1のようなすでに刑事職を辞した主人公が、自身の刑事人生を振り返りながら、当時は見落としていた情報を発見し、改めて因縁の事件の真相に迫っていくというストーリーです。
 
 シーズン1は刑事を辞した現代と、現役の刑事だった頃の回想が行き来するシンプルな構造だったのに、今作はネットフリックスのオリジナルドラマである『ダーク』に影響を受けたのか、1980年・1990年・2015年という三つの時代が同時進行で描かれながら、それぞれ情報の欠けた三つの時代が互いに補完し合うという語り口となりました。
 

 
 この三つの時代が同時進行するという構造は、単純にサスペンスドラマとして緊張を生む役割とテーマ性に関わる部分があります。
 
 サスペンスとしては、ヘイズが語る事件の内容に嘘が含まれており、それによって事件を聴取する聞き手に嘘がバレないかという緊張が生じるスリル。それに、単純に未来の視点で過去の捜査中に何か衝撃的な事件が起きたことが断片的に語られ、過去に視点が戻るとそれがどのタイミングで起こるのか分からず不安にさせるという時系列を入れ替えるテクニックなどが主です。
 
 テーマ性に関わる部分は、当時はきちんと理解していなかった関係者の素顔が後に出てきた情報で分かること。差別や偏見が酷かった時代には気付けなかった、実は自分は無意識的に相手を傷つけるような差別的な発言をしていことに気付かされ反省させられることなどです(同性愛に対して理解が無かった時代に同性愛者を傷つけることを平気で言っていて、後にそれが間違っていたと気付くなど)。
 
 前者はシーズン1でもやっていましたが、そもそも主人公が過去について語っている以上、何が起ころうと主人公が生き延びることは確定しており、それほどうまく機能しているとは思えません(話を順繰りに語っていっていきなり衝撃的な事件が起きるほうがむしろショックが大きいはず)。
 
 後者はこのシーズン3が真にやりたい、事件関係者に出会った際の印象と、その人自身を深く知ると見えてくる本当の顔が異なるというテーマ性を際立たせるのに効果的でこちらは見応えがありました。
 
 特に失踪した子供の父親は、初見時はただのやや短気で乱暴な人間くらいの印象だったのに、この人の抱える悩みが時代を追うと明らかになってくるため、根本的にこの人の人物像を見誤っていたことに気付かされるなど、偏見というものについて深く考えさせられます。
 

シーズン1越えしているかもしれない1話の巧みさ

 
 本作は映像作品としては一級で、特に1話の完成度は凄まじいものがあります。
 
 わざわいが息を殺して獲物を狙っているかのような、失踪する直前の子供たちが自転車で道を駆けていく様を不穏さ全開で見せていくシーンはサスペンスドラマの冒頭としては100点。
 
 このドラマの主人公が必ずしも真実を述べるわけではないということを一発で分からせてしまうキレ味鋭い回想への導入部は見事としか言いようがありません。
 
 そして、トドメは未来の視点から過去を振り返っているという構造を100%活かした、各回ごとに無茶な終わらせ方が出来るドラマでないと難しいような、言葉にできない感情に襲われる、主人公が暗闇に消えていくラストシーンなど、単純な映像作品としての凄みは全話の中で一話が突出しています。
 
 「トゥルーディテクティブが蘇った!」という興奮を覚える一話を見たらさすがに最終話まで見届けないといといけないという気にさせられるほど魔性の魅力があります。
 

事件や記憶障害はただのマクガフィン……と思いきや

 
 シーズン1と同じで、事件そのものは真相が明らかになるとそんなものかと思う程度のオチで、それ自体に特に面白味はありません。
 
 事件の真相うんぬんよりも、このパーセル事件が事件に関わった人たちの人生にどのような影響を与えるのかを三つの時代から観察していくほうが肝です。
 
 事件がキッカケで険悪なムードが町に生まれ、元々煙たがられていた人物が誹謗中傷やリンチを受けたり、ベトナム戦争の帰還兵への偏見が露わになったり、失踪した子供の家庭が崩壊したりという悲劇。それとは逆に、この事件が運命の人と出会うキッカケとなり、後に結婚し家庭を持った者もいるなど、事件は人間関係に影響を与えそれを観測するための一種のレーダーやソナーのような扱いで、この作りはある少女の不審死をキッカケに町の暗部が明らかになっていく『ツインピークス』っぽいなと思いました。
 
 なので事件そのものや、主人公のヘイズが2015年に記憶障害という設定などはマクガフィンのようなもので、時代と共に移ろいゆく人間ドラマこそを主体とする話なのかと思って見ていると、ラストのラストで「このドラマはこれがやりたかったのか!」と驚かされる展開があり、それまでの印象が全部ひっくり返りました。
 
 いきなり物語が主人公の手を離れ見ているコチラ側に託されるので、このドラマ全体で語られてきたことの重みが変わり、最後まで見るとこの作品に対して評価がぐっと向上します。
 

不満あれこれ

 
 本作で最大の不満は、2015年に老人になった主人公ヘイズの老けメイクの酷さです。
 
 演じているマハーシャラ・アリは、80年・90年・2015年という35年間に渡る全ての年代で主人公のヘイズを演じるため、2015年の老人役は老けメイクで、完全に他の時代から浮いて見えます。
 
 そのためこの年代だけモーガン・フリーマンのモノマネをしているような外見でふざけているように見え、いくらなんでもここまで違和感があるなら、この2015年だけ違う役者が演じたほうがまだマシでした。
 

最後に

 
 シーズン1で全話監督したキャリー・ジョージ・フクナガ監督の力量と、マシュー・マコノヒーの怪演の凄さを超えることは無理でも、シーズン2が退屈で眠くて眠くて見続けるのすら困難だったのに比べ、今シーズンはシナリオ・映像ともにHBOの刑事ドラマとして文句なしの完成度でした。
 

トゥルーディテクティブシリーズ