著者 | 山口周 |
出版日 | 2017年5月3日 |
難易度 | 普通 |
オススメ度 | ☆☆☆ |
ページ数 | 約161ページ |
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本の概要
この本は、仕事や勉強、余暇の過ごし方、人間関係に関してスジの良さ・悪さに焦点を当てながら時間ポートフォリオを見直し、スジの悪い行動を断捨離しようと提案するビジネス書です。
スジの良い行動とは将来のためにプラスになる行為(自身の成長や評価の向上につながる)、スジの悪い行動とは将来のためにならないこと(自己満足)という非常にシンプルな分け方がされています。
単純にビジネス書としても優れていますが、それと関連する話題としてなぜ教養ブームが起こるのかという考察も鋭く、自分自身に当てはめハッとすることが多々ありました。
山口周さんの本の中でもヘタをすると『世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか?』より読む価値があるのではないかと思うほど有益なことしか書かれておらず、世の中に散乱するビジネス書を片っ端から読むくらいならまずこの本を最初に読むのがオススメです。
基本の基本!! “やるべき努力”・“やるべきでない努力”の仕分け方
この本が有益なのは、スジの良い・悪いという判断基準で優先的に取り組むべき行動と、絶対にやってはいけない徒労なだけの行動を教えてくれる点です。
ビジネス書において基本であり極意と言えることは、やるべきこと・やる必要のないことの仕分け作業であり、この時間ポートフォリオ(時間配分の組み方)を間違えるとその後の行動が全て無駄という悲惨な結果を招くため、本書のようなビジネス書はなるべく初期のうちに読んでおくべきだと思います。
本の主張は、時間とはお金そのものであり時間配分こそが人生そのものを決めるという、ビジネス書としてはオーソドックスなものです。
特に、人生の中でも非常に大きなウェイトを占める仕事、勉強、プライベート、人間関係、日々の思考法という各要素のスジの良い・悪い行動の具体例がどれも役立つものだらけで、読んでいるだけでスジの悪い行動を自然と洗い出すことができます。
正直、他のビジネス書と被っている内容も多くこの本独自という考え方はそれほどありません。しかし、スジの良い・悪い行動が具体例や自分自身の過去の失敗談と合わせて端的にまとめられており、読むだけで自分のムダな努力を発見でき改善に活かせます。
繰り返しますが、ビジネス書としては基本的な努力の方向性や、正しい努力・間違った努力を洗い出すことに終始しており、応用的な話はほぼありません。
山口周さんのビジネス書は基本から応用まで幅広く用意されており、まずこの本を読み基本を抑えてから『世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか?』など、応用に進んだほうが効果的です。
間違った努力は人を攻撃的にする
この本の中で最も興味深いと思ったものは、実はビジネス書的な部分ではありませんでした。
それは、間違った努力をする人は正しい努力をする人を攻撃するという指摘や、なぜリベラルアーツ(教養)ブームが起こるのかという社会のメカニズムの話です。
間違った努力をする人は実は自分の努力の方向性が間違っているということに薄々感づいており、そのような人は自身の行動を正すのではなく正しい努力をする人を攻撃することによって憂さ晴らしするという指摘は、勝間和代さんの『まじめの罠』で書かれている、マジメな人(愚直にムダな努力をする人)は自分より社会的に成功する不真面目な人(効率的な努力をする人)を攻撃するという指摘とまったく同じであり、驚かされました。
それに加え、教養ブームが起こるのは、間違った努力をする者が正しい努力をする者に対して評価軸をずらし「あいつは仕事が出来るかもしれないが教養が欠けている」とマウンティングすることで自分の間違った努力から目を背け現実逃避するためという指摘も目から鱗でした。
特に、いちいち評価軸をずらし自分のほうが優位に立とうとする愚かな行為には自分自身思い当たる節がいくつもあります。
「あの人は頭が良いが映画の良し悪しが分かっていない」とか、「あの人は成功しているが歴史の知識が無さ過ぎる」など、自分のほうが相対的に優位な分野にスライドさせ相手を下に見ようとする行為が、実は間違った努力を無意識的に理解しそこから逃避するための精神的な自衛策だったと思い至りました。
勝間和代さんの『まじめの罠』と同様に、いかに間違った努力が人を不幸にし、不幸な自分から目を背けるために他者を攻撃しだし、結果日本全体が他人の足を引っ張る者だらけになるという、個人の努力の方向性が間違っているだけでここまで深刻な事態を引き起こすというメカニズムは、今の日本を理解する上で非常に役に立ちます。
ミニマリズムとはスジの悪い習慣の断捨離
ここからはミニマリストとしての余談です。
自分は今現在ミニマリストですが、ミニマリストになって不思議だったのは家中の不要な物を全て処分しミニマルな暮らしを意識したら日々の幸福度が爆上がりしたことです。
元々ミニマリストになる前は、ミニマリズムとは不要な物や習慣を手放すことで本来やりたいことに全力で集中するための手段であると理解していたため、人生の目的を達成したら幸福になれるのかと思いきや、なぜかミニマルな暮らしという手段の段階で幸福度が上がるという状態が不思議でした。
しかし、この本に書かれているスジの良い・悪い行動や努力が幸福度すら左右するという考え方を知ると、実はミニマリズムとはスジの悪い習慣そのものの断捨離なのだと気付け、ミニマリストになって心底良かったと思えます。
ミニマリストになる前の自分は典型的なオタクで、アニメや映画、ゲームやら漫画が人よりそこそこ詳しいことに優越感を覚えていましたが、ミニマリストになると他者と比較するというくだらない習慣をやめ、自身の目的達成(つまり将来のため)のことしか考えなくなるせいで幸福度が上がるのだと、今なら理解できます。
ミニマリストの中にはどれだけ家に物が少ないのか競い合うようなことをしているバカも多いですけどね
このスジの悪い行動や努力をやめるという判断はビジネスだけでなく人生そのものに関わってくる重大な問題であり、それをこの本一冊読むだけで理解できるなら非常にお得です。
おわりに
将来のためにならないスジの悪い行動はビジネスシーンだけでなく人生そのものを破壊し、現実逃避や憂さ晴らしのため今度はスジの良い行動や努力をする人を攻撃するようになるなど、人生そのものを左右するほど深刻な問題を引き起こすため、出来るなら早めに読んでおきたい一冊です。
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