発光本棚

書評ブログ

発光本棚

【PS4】神話のごとき死と再生の旅 |『奪われし玉座 ウィッチャーテイルズ』| レビュー 感想 評価

f:id:chitose0723:20200826215931j:plain

トレーラー

評価:80/100
作品情報
ジャンル シングルプレイ用カードゲーム
発売日(日本国内) PC版 2018年10月23日
PS4版 2018年12月4日
開発(デベロッパー) CD Projekt RED
開発国 ポーランド
ゲームエンジン Unity

ゲームの概要

 
この作品は、『ウィッチャー3』に収録されていたミニゲーム、グウェントを利用したスピンオフタイトルです。
 
『ウィッチャー』シリーズの時系列で言うと原作小説版と同じ時代で、ゲーム本編から見ると過去のエピソードとなります。
 
本編のミニゲームを再利用するという一見安易そうなコンセプトとは裏腹に、内容はCD Projekt RED作品らしく非常に硬派で妥協のない出来です。
 
特にシングルプレイ用カードゲームとしては破格なまでのシナリオの完成度と、長編に匹敵するほどの大ボリュームがあります。
 
ただ、カードゲーム部分はデッキ編成の自由度が低く、ほとんど似たようなデッキで戦い続けるため早々にマンネリ化しやすいという致命的な弱点があります。
 

オマケのミニゲームから本格的な対戦仕様へと生まれ変わったグウェント

f:id:chitose0723:20190801182241j:plain

 

本作は『ウィッチャー3』に収録されていたカードゲーム型のミニゲームであるグウェントを本編から抜き出し、一本のゲームに仕上げたようなウィッチャーシリーズのスピンオフタイトルです。
 
グウェントは最初に引いた手札を変えず連続で3ラウンド戦い、2ラウンドを先取すれば勝利という変わったルールなため、自分に有利な状況を作ってわざと敗北し、次のラウンドに戦力(手札)を温存するという駆け引きがありシンプルながら奥深いミニゲームでした。
 
しかし、本作のグウェントはオンライン対戦用に作られた『グウェント ウィッチャーカードゲーム』のほうをベースにしているため、シングルプレイ用だったミニゲーム版とは比べものにならないほどルールが複雑化し難易度が上がっています
 
自分と対戦相手が毎ターンカードを出し合い、場に出されたカードの合計戦力ポイントが高い方が勝ちという基本ルールはミニゲーム版と同じです。
 
それ意外は、ほぼ全カードに固有のアビリティ(カードを場に出す際に発動するものや、任意のタイミングで発動するものなど)が設定されたせいで、膨大な数のアビリティを把握しなくてはならず、『ウィッチャー3』のミニゲーム版とはほとんど別のゲームと言ってもいいほどハードルが上がりました。
 
そのせいで『ハースストーン』のように、予期せずアビリティが他のアビリティを誘発し、何重にも重なって発動する状況が頻発するため、どのアビリティがどのカードと呼応しているのか確認しなければならず、常に神経を使います。
 
その分、ただ強力なカードを集めて強い順にデッキに組み込めば良かった3のミニゲーム版と比べ、アビリティ同士のコンボを考え、デッキのコンセプトを練る面白味が生まれたため、最終的な面白さではこちらのほうが勝りました。
 

シングルプレイ用カードゲームの常識を超えたストーリー

f:id:chitose0723:20190801175323j:plain
 
ウィッチャーシリーズの年表で言うと本作は1267年と原作小説版と同じ時代で、ゲーム本編から見ると過去のエピソードです(ゲームの前日譚というよりは、原作小説版のサイドストーリーと言った感じです)。
 
ちなみに、ゲーム版のウィッチャー本編は年表で言うと一作目が1270年、2が1271年、3が1272年の話なため、1の3年前(3からだと5年前)の出来事です。
 
プレイする前は主人公がゲラルトどころかウィッチャーですらないスピンオフということもあり、ほとんどグウェントのほうを目当てとし、ストーリーには期待していませんでした。
 
しかし、蓋を開けてみるとテーブルトークRPG風の語り口(似たようなゲームだと『ドラゴンズクラウン』のようなスタイル)ながら、そこらの大作ゲームと比較してもなんら見劣りしない堂々たる内容で良い意味で予想を裏切られました。
 
 

f:id:chitose0723:20190801181716j:plain

 
まず、主人公である北方諸国に属する小国ライリア&リヴィアの女王メーヴが家臣の反乱によって祖国を追われ、北方諸国の各地を流浪しながら戦力を蓄え、自らの祖国を反逆者から奪還するという貴種流離譚きしゅりゅうりたん風味な基本部分が丁寧で、この時点でぐっと話に引き込まれてしまいます(吹き替えを担当している朴ロ美さんの演技力も素晴らしすぎます)。
 
それにニルフガード帝国の侵略行為で国土を焼かれ、屍肉目当ての怪物で溢れ返る国や、怪物と疫病に支配され兵士が奇病で死んでいくおぞましい湿地帯など、メーヴが辿る過酷な旅を、神話において英雄へ課される怪物退治の試練のように見立てているため、カードゲームのシナリオとは思えないほど重厚です。
 
メーヴの旅の面白さ意外でも、ウィッチャーがこの世界ではどれほど異端な存在なのかが認識できる視点の置き方も非常に優れています。
 
本編シリーズでも遺伝子が変異し、身体能力が異様に高く、人間には毒である霊薬を飲み肉体を強化し怪物と戦うウィッチャーたちがどれほど人間離れした奇妙な存在なのかをムービーで見せたり、アニメーションで説明したりと、何とかイメージを固めようと工夫していました。
 
それに対し本作は、最初にメーヴたち怪物退治の素人が怪物たちにほぼ無策で挑む様をしつこく体験させることで、プレイヤーに染みつく異形の存在と戦い慣れたウィッチャー視点を一端洗い落とし、無知な一般人の視点に戻します。
 
その過程を経てからようやく怪物の生態や弱点に精通するウィッチャーが登場するため、「ウィッチャーってこの世界の人間の目にはこんなに頼もしくて博識に映るんだな」と、怪物に対して無知な一般人の視点から怪物を知り尽くしたウィッチャーたちを観察するという貴重な体験ができました。
 
ここら辺の見せ方は非常にスマートで、メーヴ率いる一団は人間相手の戦には非常に長けているのに怪物相手だと素人同然という対比がなされ、そんな戦争のプロであるメーヴすら尻込みする怪物にまったく臆すことのないウィッチャーの異常さが際立ち、初めてウィッチャーというもののイメージを明確に捉えられました。
 
さらに、他国を侵略するニルフガード帝国が侵略先の国で怪物と遭遇し、兵の消耗を避けるためにウィッチャーを金で雇い退治させるという、見方によってはウィッチャーが侵略の手伝いをしているようにも取れる話の展開にすることで、怪物退治のプロとして頼りになるのと同時に、やはり金さえ貰えばどんな汚い仕事でも請け負うウィッチャーはこの世界で忌み嫌われる存在でもあるという点もすんなり納得がいきます。
 
本作はこのようなあらゆる国や組織、人物の表と裏を描き相対化させることが徹底されており、その一貫ぶりは本編に引けを取りません。
 
メーヴの祖国ですらニルフガードの侵略の被害者であるという側面と、エルフやドワーフなど非人間族に対して比較的寛容なニルフガードよりも差別が酷く人権意識が低いという加害者の側面、その両面が情け容赦なく描かれ、旅を通じて様々な価値観に触れる度、この世界の見え方が次々と変容し非常に刺激的でした。
 

ウィッチャー本編より洗練された選択肢の重み

f:id:chitose0723:20190801181003j:plain

 

f:id:chitose0723:20190801181351j:plain

 

本作はウィッチャーシリーズのスピンオフということで、ゲーム版の本編にある多数の要素(マップを散策可能なことや、ファストトラベルポイントを見つけながら進んでいく作り、など)が再現されているものの、中でも一際存在感があるのが、正解も不正解もない選択肢の重みです。
 
ウィッチャーの本編はモンスタースレイヤーであるゲラルト視点の話なので、基本的には政治・軍事に影響が大きい選択肢は希です。
 
しかし、こちらは女王であり、かつ大軍を率いる将という重責を担う立場なため、選択肢が常に自軍全体に影響するものだらけで、ハッキリ言って本編よりも遙かに選択肢の作りが洗練されています。
 
本作は敵に慈悲を与えるとか、この世界で差別される非人間族であるエルフやドワーフに同情するといった選択肢を選んだとしてもほとんど報われません。それどころか、ヘタをすると寝首をかかれ自軍に被害が出るという、恩を仇で返されるような最悪な結果を招く局面も多く、選択がどう転ぶのかまるで予測できません
 
そのような善行・悪行にさして正解を決めず、全てをプレイヤーの選択に委ねるという態度が最も強くゲーム的に現れているのは、味方のユニットが自軍に残るか去るか、選択肢に絡める手法です。
 
このゲーム内では、カードは全てこの世界の人間や兵器とイコールという設定なので、主人公であるメーヴに味方してくれる固有の名前が設定されている人物は、ストーリー展開上自軍から去ると同じ名前のカードも使えなくなります。
 
この固有の名前を持つキャラクターカードは、たった一枚で危機的な状況をひっくり返せるほどの性能を有する者もおり、戦闘では大変重宝します。
 
しかし、このあまりにも強力過ぎるという特徴はただカードバトルで有利に働くだけでは終わりません。強い人物はその強さに比例するように強固な信条や、国家や種族、血筋への揺るがない帰属意識を持っており、それに反するような言動を取ると即自軍を去ってしまいます。
 
そして、最悪なのがそのような信条に触れるような状況というのがほとんどの場合、捕虜や罪なき者への虐殺のような倫理的・道徳的に許されないような局面が多いこと。
 
今までそのユニットに何度も窮地を救われ、いつしか自軍の中核にまでなっていたのに、ある時虐殺や倫理に反するような行動を要求(または関与)し、その提案を断ったり罰したりすると自軍を去ってしまうという展開は、精神的にかなりキツイものがありました。
 
現状の戦力を維持しようとすると非人道的な行いに目をつぶる必要に迫られ、かと言って断罪すると戦力が激減するという、強力なユニットを人質に、意に沿わない選択を強要してくる本作のえげつなさは本編のウィッチャーシリーズを軽々と凌駕しています。
 
このような選択肢の情け容赦の無さはもちろん、マップのそこらに転がっているサブイベントにすら倫理感を揺さぶるような状況設定が徹底されており、改めて本編同様、CD Projekt REDのシナリオライターの優秀さに感激させられるばかりでした。
 

不満あれこれ

f:id:chitose0723:20190801183104j:plain

 
本作で一番不満を覚えたのは、ストーリーに凝りに凝りまくっている弊害で、デッキ編成の自由度がほとんど存在しない点です。
 
本作は、3のように作中の人物たちがグウェントというカードゲームで遊んでいるのではなく、ウィッチャーの世界で起こる戦争をグウェントで再現するという主旨なので、厳密にはカードゲームですらありません。
 
そのため、カードは全て実際の人間や兵器という体で、基本的に敵勢力のカードは使用ができず、好きな勢力でデッキを組むこともできません。なので、終始同じようなカードを使い、中盤くらいで必勝の戦略も固定され、それ以降はひたすら同じような戦い方を繰り返す作業と化します。
 
デッキに組み込むカードも、特殊なルールが課されるイベントバトルではどうしても相手の場に出されたカードを攻撃する必要があり、攻撃用のアビリティを持ったカードで固めないとそもそもゲームを先に進めることすら出来ません。この、攻撃アビリティを持ったキャラを強制的に使わされるという点もデッキ編成の幅を狭める原因の一つになっていると思います。
 
戦闘はほとんど作業な上に、対戦中の処理もやや重く、度々処理落ちするため戦闘のテンポはよくありません。
 
さらに、意味がまったく分からない不具合は、デッキ編成画面で十字キーでカーソルを操作しようとするとデタラメな挙動をするという現象です。十字キーを押すと突然カーソルが消えて、遠くに移動したり、下のカードを選ぼうとしてもカーソルがてこでも動かなくなったりと、きちんとテストプレイしたのか疑問に思うほどでした。
 
多分、元がPC用のゲームでマウス操作を前提としているのを無理矢理ゲームパッド用に変換しているため、不具合が発生しているのだと思います。
 
この不具合は致命的な問題とまではいかないものの、デッキ編成する度に軽いストレスに悩まされました。
 
それに選択肢が膨大な数あるのに二周目への引き継ぎはなく、周回プレイをしようとしてもデッキ編成の自由度がほとんどないことと相まってモチベーションが上がりません。
 

最後に

 
クリアまで約32時間ほど(途中のメインストーリーと関係ないサブイベントをあらかた飛ばせば30時間もかかりません)。
 
最初はグウェント目当てで始めたのに、むしろスピンオフなのにも関わらず妥協無く仕上げたシナリオと本編を凌駕するほどセンスの良い選択肢の重みにこそ魅了されました。
 
ゲラルトが主人公ではなくアクションゲームですらないスピンオフタイトルなどと侮っているとCD Projekt REDの圧巻のシナリオ力に打ちのめされる地味な名作でした。
 

ウィッチャーシリーズ

タイトル
ハード
ウィッチャー2 王の暗殺者 PC
ウィッチャー3 ワイルドハント PS4
 

ドラマ版

 

 

 

TOP