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古き戴国の落陽、新しき戴国の曙光 「十二国記 白銀の墟(おか) 玄(くろ)の月 #4 最終巻」 著者:小野不由美 〈書評・レビュー・感想〉

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評価:85/100
作品情報
著者 小野不由美
発売日 2019年11月9日

短評

 
 ついに李斎りさいたちが偽王を討つため蜂起し、勝ち目の薄い絶望的ないくさに挑む。終幕に向けこれまで泰麒たいき李斎りさいたちに協力してくれた者たちが容赦無く戦場で命を散らし、十二国記シリーズ中最も悲壮で苛烈を極める戦が繰り広げられる。
 
 しかし、敵側は頭が悪い記号的な悪者しかおらず、しかもほとんどの設定が投げっぱなしで終わり、期待していた久方ぶりの再会を果たすキャラクター同士の積もる話もほぼ聞けず終いと、納得の行く最終巻にはほど遠い内容
 
 それでも、宙ぶらりんだった泰麒たいきたい国を巡る話に決着がつき感慨深さは一入ひとしお
 

戴国を偽りの王から解放すべく、仲間たちの屍の山を踏み超える過酷な決戦

 
 最終巻である4巻は李斎りさいたち驍宗ぎょうそうしたう兵士がついに7年という長きに渡る潜伏を経て偽王を討つべく蜂起し偽王朝に反乱を起こすという内容です。
 
 いくさと言っても『月の影 影の海』の様な結果のみ伝えるとか、『風の万里 黎明の空』の『水戸黄門』的な身分の高い人間が相手の悪事を暴き平和的に解決といった大規模な争いを省略してきた過去作と違い、勝ち目がほぼないと言ってもいい絶望的な戦いが真正面から描かれます。
 
 十二国記シリーズは天が定めたルールにより他国に侵略できないという制約があるため、これまで直接大規模な戦いが描かれることはなく、戴国の内戦といってもこの死屍累々の合戦は衝撃でした。
 
 生半可さを嫌う小野不由美さんが戦争を描く以上妥協など一切無く、戦力差を気合いで埋めることなど不可能な、兵士の数で勝り装備が充実している陣営が絶対に勝つという厳格さが徹底され、偶然も奇跡も入り込む余地がありません。
 
 驍宗ぎょうそうを探す李斎りさいたちに協力してくれた旅の仲間も次から次に犠牲となるのに、華々しく戦って死ぬことは皆無です。いきなり不意打ちで名も無き雑兵に惨殺され、戦場で行方不明になりそのまま生死すら不明で終わる人物が半数近くと、十二国記シリーズで最も耐え難い無慈悲な場面ばかりです。
 
 これまで民の目線を通して戴の惨状を見てきたように、今度はろくな装備も持たず、それでも背水の陣で偽王の軍勢と戦わざるを得ない李斎りさいら兵士の目線を通して修羅場を体験するという、読者を当事者としてその場に立ち会わせる態度が貫かれています。
 
 李斎りさいたちがどれだけ大切な者を無残に殺されようが仲間の屍を踏み越え、偽王を倒すため血反吐をはいて戦い続けなければならないという状況が果てしなく続き、過去のどの十二国記シリーズと比較しても悲痛さが突出しています。
 
 『白銀の墟 玄の月』は王や麒麟きりんすらも雲の上の存在として特別扱いせず、自ら率先して汗を流し手を血で汚すという、各々が自分に出来る最善の行動を取り続けることでしか現状を良くすることなどできないという主張を一切ぶれることなく描き切っており、これぞ甘えを許さない小野不由美作品の醍醐味だなと感じました。
 

悲痛な戦いを繰り広げる敵はマヌケばかりというずさんさ

 
 偽王の軍勢との戦いそのものは過去の十二国記シリーズの中で最も苛烈さを極め迫力があるのに、肝心の戴国の未来を賭けて戦っている相手は頭の悪い記号的な悪者ばかりで、正直ここはまったく乗れませんでした。
 
 互いに大儀を掲げ、どちらの大儀が正しいのかを争うのではなく、一方が完全に善で一方が完全な悪なため単純な勧善懲悪にしか見えず、深みがまったくありません。
 
 ずっと爪を隠し機会を窺っていたとある官吏かんりの一人が特に有能でもなくあっさり役目が終わったり、そもそも最大のライバルである偽王すら弱者をいたぶって面白がるただのサディストの小悪党に成り果てていたりと、敵側に悪としての魅力が皆無で何ら盛り上がりませんでした。
 
 しかも、烏衡うこうが命令違反で民間人を虐殺し、そのことに兵が反発しているという話は途中からうやむやになること始め、色々な設定が投げっぱなしで終わるので、後ろに行くにつれ「あれ、あの件どうなったんだっけ?」と疑問が増えていくばかりでした。
 
 それに、驍宗ぎょうそうは戴国の民に愛されていたはずなのに突然簒奪者呼ばわりすることに民が簡単に同調するという首をかしげる展開もあり、4巻になったら突然戴国全体の知能指数が下がったような違和感があります。
 

7年ぶりの再会とは思えないほどの淡白さ

 
 この巻というか、このシリーズ全体を通して最も不満だったのは、キャラクター同士が積もる話をしてくれないことです。
 
 泰麒たいき蓬莱ほうらいに飛ばされ戻ってくるまで6年、そこから『白銀の墟 玄の月』内だけでさらに1年が経過しているため、計7年ぶりの再会を果たすキャラクターが多くいるのに、特にそこをまったく盛り上げないので落胆しました。
 
 みんな艱難辛苦の時を耐え抜きようやく再会を果たしたのにもっとしみじみ身の上を語り合ってくれないかなと思うほどあっさり流れ、肩透かしでした。
 
 李斎りさいが部下と再会する場面を何度も何度もくり返し情感を込めて描いていたのに、本当に肝心の人物同士のやり取りはほぼ無いので、ここまで焦らしてそれはないだろうと呆然とさせられました。
 
 ラストの読者が知りたい情報を一行に凝縮して語るキレの良い締め方は最高でしたが、読み終わった後はもう少し主要キャラ同士の掛け合いを味わいたかったという未練が残ります。
 

最後に

 
 初登場時からずっとカリスマ性の塊のような驍宗ぎょうそうを天性の傑物としてではなく、一つ一つの苦渋の決断と行動によって臣下や民の信頼を勝ち取ってきた等身大の人間として描き直していることなど、十二国記シリーズで最も泥臭いと言ってもいい『白銀の墟 玄の月』を最後まで妥協無く描き切った点は賛辞しかありません。
 
 ただ、同時にもう少し全体の構成を丁寧にして欲しかったことや、キャラクターに積もる話をさせて欲しかったという不満も多く残ります。
 
 それでも『魔性の子』から約30年という歳月を経てようやく戴国の混乱に決着がつき読み終えた後は心地良い脱力を覚えました。作者の小野不由美さんにも泰麒たいきにもお疲れ様ですという言葉しかありません。
 

十二国記シリーズ