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民を想い続けた賢君と民を拒絶した暴君、その行く末は…… 「十二国記 白銀の墟(おか) 玄(くろ)の月 #3」 著者:小野不由美 〈書評・レビュー・感想〉

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評価:85/100
作品情報
著者 小野不由美
発売日 2019年11月9日

短評

 
 3巻は泰麒たいきの始まりのエピソードであり、十二国記の原点でもある『魔性の子』と重なる瞬間があり、同作を読んでいるかいないかで理解度が大きく変わる構造となっている。
 
 そして長らく謎だった、偽王が驍宗ぎょうそうに対し謀反を起こした動機、驍宗ぎょうそう失踪の経緯、官吏かんりが病んでしまい王宮を彷徨う傀儡くぐつとなる理由が語られ、たい国を蝕む混乱の原因がついに明かされる。
 
 ただ、ここまで真相を引っ張ってきた割にそれほど意外な事実はなく、語りも淡々としておりやや盛り上がりに欠けるのが惜しい。
 

『魔性の子』をリフレインする極めて人間くさい玉座簒奪の動機

 
 2巻までは混迷を極める戴国の現状を民の目線で描くことに努めてきたのが、この巻でついに核心部である戴が荒廃した原因が語られ、話が終局に向け大きく動き出します
 
 これまで長きに渡り沈黙してきた者たちが泰麒たいきの帰還を契機に重い腰を上げるようにそれぞれの心境を吐露し、謎のベールに包まれていた真相が次々と明らかになっていくため、前2巻に比べ読み辛さはほぼ感じなくなりました。
 
 この巻で最も意表を突かれたのは、『魔性の子』のテーマ性をほとんどくり返すような構造です。自分と似た者同士の同類だと感じ一方的にシンパシーすら抱いていた相手が実は自分とは似て非なる高位の存在だと知り、相手に好意を抱いていた分反動で激しい嫉妬心に駆られるという内容がほとんど『魔性の子』そのままで、改めて事前に読んでおいて良かったなと思います。
 
 この巻を読むとなぜ『魔性の子』が十二国記の序章としてシリーズに組み込まれたのか理由がハッキリ分かりました。高里と広瀬の関係が驍宗ぎょうそうと謀反を起こした偽王の関係と重なるように作られており、『魔性の子』を読んでいると内容を咀嚼しやすくなっています。
 
 ここではない別の世界に残してきた大切な人たちを守るため十二国への帰還を強く望んだ高里(泰麒)と、自身の身の安全より戴国の民の安寧を優先する驍宗ぎょうそうの姿が重なり、同時に本当は繊細で優しい心を持っているのに、ここぞというところで他人をないがしろにし利己心を優先させる広瀬と簒奪者であるあの人が重なるという、あまりの完璧なシンクロぶりに読んでいてゾクゾクしました。
 
 十二国記シリーズの原点である『魔性の子』と『白銀の墟 玄の月』が約30年という年月を経て重なり合うダイナミックな構造と、拒絶で終わった『魔性の子』のその先に進んでやるという意気込みなど、さすがに前作から長らく開いた溝を埋めるかのような気合いの入れ方に圧倒されました。
 

「散々引っ張ったわりにこれか……」というあっさり過ぎな真相

 
 この巻で最も残念なのは、前巻まで戴国を覆う不気味な気配の謎で引っ張ってきたのに、明かされる真相が別段事前の予想を超えるほどのものではないという点です。
 
 ほとんどの真相は1巻の時点で容易に予想が付く範囲内のものでしかありません。中には普通に考えれば分かるようなことをあえて論点をズラすように登場人物たちに見当違いな仮説を言わせ、後から実はこうなのではないかと鋭い意見かのごとく真相を語るという酷い内容のものもあり、真相が分かると「そんな程度のことだったのか……」とガッカリすることも少なくありません。
 
 小野不由美作品の特徴である散々布石を用意したわりに衝撃の事実が明らかになる瞬間を特に盛り上げもしないというスタイルが悪いほうにばかり働いており、真相が明らかになる度に物語のスケールがしぼんでいくような感覚すらあります。
 
 この物語の最大の敵として立ちはだかる存在も、驍宗ぎょうそうに比べると明らかに貫禄不足で迫力も覇気もなく小者感が漂い、このせいで驍宗ぎょうそうと並び称されるほどの傑物という設定になんら説得力もありません。
 
 プラス、大して大物に見えないせいで危険な渦中に飛び込んでいるはずの泰麒たいき側の視点に緊張感が生じず、もう少し官吏かんりとの腹の探り合いの会話劇や、抜け道を使って王宮内を調べ回る行為に冷や汗をかくような恐怖があってもいいのにと思いました。
 

最後に

 
 この巻で戴国を覆っていた不気味な影はほぼ霧散してしまい、真相が明らかになるとこんなごく小さい話を大きく見せていただけなのかと気落ちもするため、前2巻と比べ長所と短所が最も目立ちます。
 
 それでも、これまで地道に戴国を民の目線で描いてきたことが功を奏し、皆の心からの祈りがある人に届く感動は一入ひとしおで、ここは思わず目頭が熱くなりました。
 
 謎もあらかた片付けられ、役者も全員出揃い、残すのは最終巻のみというところまできたらもう戴国の行く末を静かに見守るだけしかありません。
 

十二国記シリーズ