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戴国の政治腐敗が生み出した闇と向き合う2巻 「十二国記 白銀の墟(おか) 玄(くろ)の月 #2」 著者:小野不由美 〈書評・レビュー・感想〉

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評価:85/100
作品情報
著者 小野不由美
発売日 2019年10月12日

短評

 
 たい国の現状について立ち止まって事細かな説明がされる場面が多かった1巻に比べ、権力の中枢に迫る泰麒たいきと、行方不明の驍宗の足取りを追う李斎りさい、別行動を取るそれぞれの視点が前に進み続け格段に読みやすくなった。
 
 この巻もまだまだ序盤の序盤で、たい国を覆う不吉な影の正体はまるで判明しないが、1巻より話に勢いがついたため面白さは遙かに増している。
 

権力の中枢と末端の僻地、国の両端から戴に巣くう闇に迫る

 
 前巻は初登場となる人物たちの紹介と、6年ぶりにたいに帰還した泰麒たちが荒廃した戴の現状を突きつけられるという話に終始し、話があまり前に進んでいるように見えませんでした。しかし、前巻の終わりから別行動を取りだした泰麒たいき李斎りさいそれぞれの話が動き出すため今巻から格段に面白味が増します
 
 敵のふところである王宮に飛び込み権力の中心に肉薄するスリルが堪能できる泰麒の視点と、国の中央が腐りきりまつりごととどこおった影響で治安が悪化する僻地を旅する李斎りさいの視点という、たい国の中心とはし、二つの話が交互することで、1巻より遙かに読みやすくなりました。
 
 特に李斎りさい側の、神農しんのうという地方の村々に薬を売り歩く行商人たちの情報網や、貧しい者たちに施しを与える道観という宗教組織の横の繋がりを頼りに驍宗ぎょうそうの手がかりを追うというアイデアは秀逸で、読み進めるのに苦労した1巻とは異なり、2巻はあっという間に読み終えてしまいました。
 
 李斎りさい驍宗ぎょうそうの行方を追い各地を旅し、その土地で暮らす者たちの知恵を借りながら一歩ずつ驍宗ぎょうそうの痕跡に迫っていくという流れは、本作のコンセプトであろう貧しさを極める戴国の民たちの暮らしに読者を立ち会わせるという方向性とも完璧に合致しています。
 
 貧困にあえぎながらも弱者を見捨てず踏ん張り続ける薬売りや導士たちの助力を得ながら李斎りさいたち一向が驍宗に迫る展開は、興奮を覚えると同時に戴国への理解も深まり一切の無駄がありません。
 
 土匪どひという戴の鉱山を取り仕切るヤクザのような集団も、『黄昏の岸 暁の天』を読んだ際は驍宗に刃向かう悪党の集まり程度にしか見えなかったものが印象が一変。実は驍宗が王となる以前に国を荒廃させた驕王時代の政策の失敗が土匪どひ誕生の遠因だったと分かり、信じていた善悪の価値観がことごとく揺さぶられ、なぜ戴の国土と人心がこれほどまでにすさんだのか、あれこれと思考させられます。
 
 泰麒たいき側の視点で中央の腐敗を見せつけられ、その結果である地方の困窮ぶりや、家族を生かすために追い剥ぎに身を堕とす者たちの事情が李斎りさい側の視点で語られと、原因と結果が交互される展開は、王や麒麟きりんといった為政者側を自然に描ける十二国記シリーズの強みを生かしており、無類の面白さがあります。
 

2巻から目立つ登場人物が多すぎるという問題

 
 ストーリーは1巻に比べると格段に面白くなりましたが、問題は視点がコロコロ変わるのに、それが誰なのか把握しづらいという点です。
 
 名前が伏せられて少女とか少年という抽象的な書き方で語られる視点があったり、敵勢力側の武将やその家臣の視点が次々出てきたりと、途中から視点が変わるごとにその人が誰なのか前のページに遡って調べなくてはならず非常に手間取ります。
 
 単純な登場人物の数も非常に多く、兵士や役人が取っ替え引っ替え登場し、薬売りの行商人が何人も出てきて李斎りさいと絡み、道観という宗教組織も複数の派閥の道士がいるなど、無意味にこんがらがるようなことが多く、物語と関係ない部分で煩わされることが多々あります。
 
 『風の海 迷宮の岸』では泰麒たいきの世話をする女仙にょせん、『丕緒の鳥』でも役人が複数いても見分けが付かないということは一切無かったので、この混乱するほどの登場人物の多さは地味に疲れました。
 

最後に

 
 前巻同様に派手さは皆無で先の見えない登り坂を歩き続けるような感覚ですが、1巻を読んで歩くペースに慣れたのと、道の傾斜がやや緩くなったことで負担は大幅に減りました。
 
 全体的に話の勢いが増し、ラストはここで終わったら何がなんでも次の巻を読みたくなるだろうという衝撃の場面で終わるため、ここまで読むともはや止まらなくなります。
 

十二国記シリーズ