トレーラー
評価:85/100
公開日 | 2019年2月8日 |
上映時間 | 101分 |
アニメ制作会社 | NUT(ナット) |
アニメの概要
この作品は、TVアニメ『幼女戦記』の続編である劇場用アニメで、ストーリーはTVアニメ版からそのまま繋がっています。
TVシリーズからキャラデザや作風、話のスケールは代わり映えせず、キャラクターはそのまま継続。脚本もTVシリーズ譲りの安定さで、魔導師の空中戦も相変わらず見応え抜群で続き物としては安心して楽しめます。
反面、劇場用からの新規要素は乏しく、『幼女戦記』という作品の印象を書き換えることも汚されることもない非常に安全な出来映えでした。
あらすじ
ターニャ率いる帝国軍203魔導大隊は南方大陸に逃亡したフランソワ共和国軍残党を退けることに成功する。
帰還後間もなく、ルーシー連邦が帝国に対して開戦の準備を進めている動きを察知したため、大隊は急遽連邦への偵察任務に駆り出される。
敵領内で偵察任務の最中、連邦が帝国へ宣戦布告を行ったためそのまま戦争状態に突入。ターニャは機転を効かせ警備が手薄な連邦の首都を奇襲し、敵の戦力を分散させる陽動作戦を実行する。
しかし、そこには多国籍軍の義勇兵として戦争に参加した、存在Xの強力な加護を受け、ターニャをも凌駕するほどの魔力を持つメアリー・スーの姿があった。
『幼女戦記』というタイトルで損している傑作シリーズ
劇場版を見る前に復習としてTVシリーズを全話見直すと、やはりキレ味鋭い会話劇や、圧巻のアクション作画、あまりセリフで説明しすぎない意味を映像に託(たく)して語る無駄のない演出と、その破格なまでの完成度の高さに再び感服しました。
恥ずかしながら初見時には見落としてしまっていた細かい描写(11話でターニャが目撃する子供のケンカが帝国と共和国ないしは世界との関係性の暗示となっている、など)も再発見するなど大変有意義でした。
ラストも絶望的な状況からの、ターニャらしい神への高らかな宣戦布告で終わるなど、締め方もセンスが良く、TVシリーズ版は見れば見るほど評価が向上します。
ただ、その分傑作すぎるTVシリーズから連続して見ると劇場版はやや守りに入っており、TVシリーズほどの衝撃はありません。
TVシリーズでやったことを繰り返す、やや変化に乏しい劇場版
TVシリーズはターニャが軍の偉い人間に認められたくてその場で適当に述べた計画が採用され、203魔導大隊という大部隊を指揮するようになり、徐々に部下とも信頼関係を築いていくなど、物語的な変化がしっかりありました。
しかし、劇場版はTVシリーズで編成された203魔導大隊を別段何もてこ入れもせずそのまま登場させ、TVシリーズと代わり映えしない活躍のさせ方しかせず既視感を覚えます。
一応部隊内の人間関係はより深まり、TVシリーズに比べ各中隊長クラスの魔導師にしっかり活躍する機会が与えられるなど、喜ばしい面もありました。
ですが、同じような面子が出てきて同じようなやり取りしかしないので、どうしてもズルズルTVシリーズから延長しているように見え、もう少し劇場版ならではの手法に挑んで欲しかったです。
敵もTVシリーズで言うとダキア公国のようなひたすら無策な連邦が相手なため、圧倒的な物量という持ち味はあるものの、帝国と肩を並べる賢さの共和国を相手にするような緊張感もなくイマイチ乗れませんでした。
しかも、TVシリーズでもやや気になった過酷な状況にも関わらずあまり部隊が消耗しているように見えないという問題がより浮き上がった感があります。
ラストのティゲンホーフ防衛戦もいきなり敵の全軍を見せてしまうのはせっかちで、ここは戦っている最中に自軍が優勢になったと思ったら敵の増援、押し返したと思ったらさらに敵の大軍勢が登場し絶望するなど、もう少し見せ方に緩急があったほうがより効果的でした。
それに、連邦に協力する多国籍軍の魔導師部隊も世界中から選りすぐりの魔導師を集めた部隊ではなく、単に新兵である義勇兵を寄せ集めただけの集団で203魔導大隊を苦しめる相手としてはメアリー以外は貫禄不足でした。
ここはTVシリーズと同様で、やはり危機感の演出があまり得意ではないという印象は変わりません。
さらに、劇場用アニメなのに集中線を安易に使いすぎて安っぽい画面が多いとか、一部コミカルなシーンの見せ方がつたないとか、演出のキレがややTVシリーズに比べて鈍 くなったとか、戦火が絶えないはずの世界なのに平和な世の中から始まるという冒頭にもう少し不気味さが欲しいなど、細かい不満は多々あります。
・・・ただ、細かい不満があるからといって退屈な瞬間は微塵もなく、最後まで面白さは持続し続けます。
相変わらず集中して耳を傾けないといけない高度な会話劇は知的で楽しく、魔導師の空中戦もTVシリーズ同様迫力があり文句なしで、メアリーとの一騎打ちも破格の豪華さと『幼女戦記』の劇場用アニメとして納得の出来でした。
最後に
そこまで劇場用アニメとして潤沢な予算があるように見えないものの、やはりTVシリーズ同様に作り手のバランス感覚が優れており、ペース配分もばっちりで安心して鑑賞することができます。
全体としては突き抜けた魅力はないものの、退屈することも絶対ない、見たら確実に楽しめるという非常に安全な完成度に仕上がっています。
幼女戦記シリーズ
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