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【SF小説】過去作を無に帰す完結編 |『ループ』| 鈴木光司 | 感想 レビュー 書評

作品情報
著者 鈴木光司
出版日 1998年1月23日
評価 80/100
オススメ度
ページ数 約386ページ

小説の概要

 
この小説は、『リング』、『らせん』と続くリングシリーズの続編です。ストーリーは『らせん』から完全に繋がっているので『らせん』を読んでいるのが前提となります。
 
一本のSF小説としては及第点の面白さですが、『リング』、『らせん』で積み上げたあらゆることを台無しにする設定なので、続編としては到底手放しで褒められる内容ではありませんでした。
 
過去二作はジャンルとしてはホラーでしたが、『ループ』は完全にSFのみなので、作風はまったくの別物です。
 
過去二作を超える衝撃作を目指したチャレンジ精神と、『リング』、『らせん』で起こった出来事を無に帰す結果を天秤にかけると後者の失望のほうが勝り、あまり好意的には受け取れない続編でした。
 

禁断のアイデアを採用してしまった報い

 
まず、この小説を読んでいる途中で思ったのは『らせん』を読み終わってすぐにレビューを書いておいて良かったということです。この『ループ』を読んだらもはや『リング』、『らせん』で起こった出来事なんて全てどうでもよくなり、マジメに感想を書くことが不可能になります。そのため『らせん』を読み終わった直後がリングシリーズに対して最も評価が高くなるタイミングであり、その時点で純粋に感じたことを書き残せたのは幸運でした。
 
『らせん』は『リング』の核となるルールを守りつつ、前作で使用したアイデアを封印しそれを超えるものだけで成立させるなど、自らに制約を課したことが非常にプラスに働いており、続編としては文句なしの完成度でした。
 
しかし、この『ループ』はシリーズのルール自体を完膚無きまでに破壊し、ただのなんでもアリにしてしまったため、正直続編としては期待外れでした。
 
ハッキリ言って、今作のようなアイデアは誰でも思いつくし、どんな作品でもやろうと思えば出来てしまう程度の安易なものでしかなく、人気シリーズを作者が自らぶっ壊すという度胸や大胆さ以外で特に何も感じることはありません。
 

やっていることは夢オチと大差ありません

 
今思うと、つくづく『らせん』は『リング』を一切否定しないまま進化させており続編の作り方としては素晴らしかったなと思います。
 
ホラーという車線を走っていた物語を突然SFの車線に変更したら、それはジャンルという車線を強引にまたいだに過ぎず、前に進んだのではなく横にスライドしただけで、『リング』から『らせん』のような加速の高揚感は一切ありませんでした。
 

単体のSF小説としては悪くない完成度

 
本作は『リング』、『らせん』の続編としてはガッカリな出来ですが、単純に一本のSF小説としては及第点の面白さでした。
 
相変わらず肝心な設定の溜めが足りずラストが盛り上がりきらないという弱点はあるものの、世界中に蔓延するウィルスに対して主人公が考えた仮説とネイティブアメリカン(アメリカ先住民)の民間伝承で語られる伝説の地が重なっていき、物語の舞台が日本からアメリカに移っていくという展開は心躍ります。
 
ここはSFと伝奇の配合バランスが非常に好みで、すでに過去二作との繋がり部分で落胆していたのにも関わらず、事件の真相に近付くワクワクだけで一気読みしてしまいました。
 
逆に、SF小説としてはテーマや設定が魅力的なので『リング』、『らせん』と繋がっていない単体のSF小説として書かれていたほうが純粋に楽しめたとすら思います。
 
ただそこまで突き抜けた傑作というレベルには達しておらず、わざわざ名作だった『リング』、『らせん』を台無しにした結果がこれなのかと思うと残念でなりません。
 

おわりに

 
『リング』、『らせん』という過去二作よりももっと読者を驚かせたいという作者の思いは理解できるものの、こういう方向性のものが読みたかったわけではないという失望が勝ってしまうガッカリな続編でした。
 
何よりもこの『ループ』を読んでしまうと『リング』、『らせん』に対する興味が完全に失せてしまい、楽しかった思い出が霞んでしまうのが勿体ないなと思います。
 

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