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【海外ドラマ】スリラーの名手がフェイクドキュメンタリーに挑戦→打ち切り |『ザ・リバー 呪いの川 シーズン1』| レビュー 感想 評価

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トレーラー

評価:70/100
作品情報
放送期間(アメリカ) 2012年2月~3月
話数 全8話
アメリカ
ネットワーク ABC

ドラマの概要

 
この作品は『蝋人形の館』や『エスター』、『アンノウン』、『フライトゲーム』、『ロストバケーション』、『トレインミッション』といった名作サスペンス映画を数多く撮るジャウム・コレット=セラが監督(1・2話のみ)・プロデューサーとして関わったTVドラマです。
 
普通の形式ではなく、全話フィクションを実際にあった出来事のように描くフェイクドキュメンタリー(モキュメンタリー)スタイルで作られており、映像は全て同行しているカメラマンや船の監視カメラが録画した映像を繋ぎ合わせたという体となっています。
 
しかし、全体的にフェイク・ドキュメンタリー形式の利点を活かせておらず、通常のドラマとそれほど大差がないという中途半端さが否めません。
 
過去に犯した罪や己の弱さと向き合う家族の再生物語としても、アマゾンを舞台にした怪奇現象もののホラーサスペンスとしても完成度が低く、突出した魅力がありませんでした。
 

ジャウム・コレット=セラのフェイク・ドキュメンタリー連続ドラマ

 
このドラマのストーリーは、アメリカで絶大な人気を誇る架空の冒険ドキュメンタリー番組“コール博士の未知の世界”の主役であるコール博士が南米アマゾンを探検中に行方不明となり、博士の家族がTV局に捜索のための費用を負担して貰う代わりに、捜索そのものをドキュメンタリー番組として撮影していくというものです。
 
このドラマの見所は二つあり、一つは世界中を旅したベテランの探検家であるコール博士がなぜアマゾンのボイウナで行方不明となったのかという謎を全8話通して解明していくストーリーパート。
 
二つ目は終盤を除き一話完結型のスタイルを取る、コール博士を捜す捜索隊がアマゾンで毎話異なる超常現象(凶悪な悪霊に襲われたり、永遠に死ぬことが許されない罪人と出会ったり、生者を求めボイウナを彷徨う幽霊船に遭遇したり、など)に見舞われるというアクションサスペンス要素です。
 
結論を言うと、両方とも満足にはほど遠い完成度でした。しかもラストは打ち切りドラマでは典型的な謎を全部ほったらかして適当に終わらせる内容なため、視聴後は結局この話は何が言いたかったんだという若干時間を無駄にした後悔が残ります。
 

フェイク・ドキュメンタリーのなり損ない

 
このドラマの最大の売りはスリラーの名手であるジャウム・コレット=セラが関わっているという点ですが、そのジャウム・コレット=セラが監督をする1話と2話がビックリするくらい脚本が荒く、フェイクドキュメンタリーとしてもヘタクソで退屈なため、このドラマは大丈夫なのかと冒頭から不安しかありませんでした。
 
ジャウム・コレット=セラ監督のサスペンス映画はどれも設定や映像が凝っているものの、アイデアはぶつ切りで雑な印象なものが多く、本作においては弱点のほうが目立ちます。やはり手数の多さで押し切るタイプの人で、フェイクドキュメンタリーのような一つ一つのディテールを徹底的に突き詰めるような手法にはまったく向いていないのだと思います。
 
フェイク・ドキュメンタリーと言っても捜索に同行するカメラマンが撮影した映像や船に設置された監視カメラの録画映像のみを繋いで作ってあるという、本当にそこのルールを守っているだけで、実際は話す相手を普通にアップで撮ったり、場面に応じてカメラワークが自然に入ったりとほとんど普通のドラマと変わりません
 
そのせいで端から作り物めいており、フェイクドキュメンタリーならではの予想外のトラブルが偶然カメラに映りこんでしまったという生々しい迫力はほぼ皆無でした。
 
しかも、この捜索隊は一体カメラを何台持ち歩き、船はどれだけ監視カメラだらけなんだと思うほど視点が細かく切り替わったり、ありえない角度や場所から撮影している映像が混じったりと、自然であることが重視されるフェイクドキュメンタリーとは思えないほど粗が目立ちます。
 
特に、化け物がうじゃうじゃいる場所を、銃を持った人物を先頭にして進んでいるのにその銃を持った人間のさらに前方にカメラマンがいて平然と後ろ向きで撮影している場面は「そんなところにいたら一番最初に犠牲になるし、そもそも化け物に背を向けるような格好でカメラを回して怖くないのか?」という具合に呆れました。
 
フェイクドキュメンタリーという、本来は低予算で安っぽい映像という欠点を逆に臨場感として利用するアイデアや、それを成立させるための練りに練った脚本が売りのジャンルにおいて、その両方とも適当なのでこのジャンルとしての魅力はほとんどありません。
 
ストーリーも、バラバラだった家族の絆が再生していくという話に見えて別段それほど家族間に問題があるようにも見えず、捜索隊のメンバーが抱える過去のトラウマや犯した罪、己の弱さをアマゾンが課す心霊現象という試練が浮き彫りにし、それを各々が克服していくという話にしても中途半端と、脚本は練り込み不足にしか見えません。
 
特にアマゾンの大自然そのものが意志を持つかのように捜索隊の心を揺さぶる試練を課してくるという設定は好きだったのに、終盤己の心の弱さを克服したと思った人がやはりただのしょうもない悪人で反省なんてしていませんでしたという、せっかく積み上げてきた物語を台無しにするようなことをし幻滅します。
 
やはりアマゾンをフェイクドキュメンタリー形式で探検していく連続TVドラマを作ろうという基本コンセプトを考えただけで、そこから特にアイデアを煮詰めもせず適当に作ってしまったというのがこのドラマの最大の失敗要因だと思います。
 
強力な悪魔が気味の悪い音を発しそれに正しい応答をしなければ残虐な手法で処刑されるという恐怖が延々続くというホラー展開や、コール博士が撮影した映像を発見しその場所に向かうと映像で映っていた場所が変貌しているという衝撃展開。何か得体の知れない秘密が隠されているっぽい原住民の設定など、面白いと感じる箇所はいくつかありました。なので一概に全部ダメというワケではないものの、どうしても全体としてはこだわりが細部まで行き届いていないという不満のほうが多く残ります。
 

最後に

 
全8話なのにも関わらず、本格的にストーリーが面白くなり出すのが6話以降で、5話までは退屈と、これは1シーズンで打ち切りになるのも当然だろうと納得せざるを得ない完成度の低さです。
 
昔に記録された映像が後に発見されそれを編集したものがこの作品というファウンドフッテージの体裁なのに、この終わり方だと誰がこの映像を見つけて編集したのかさっぱり分からないという疑問も残り、何から何まで雑すぎです。
 
自分はフェイクドキュメンタリーのホラーが大好きなので、このような方式で連続ドラマをやるというだけでワクワクするため多少退屈でも最後まで見られますが、フェイクドキュメンタリーという手法に興味がなく、かつ全ての謎を放り投げて終わる後味が最悪なラストが嫌なら特に見る必要もないと思います。
 
 

 

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