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【ミステリー小説】相変わらず密室の中は空っぽな短編集 |『鍵のかかった部屋 防犯探偵・榎本シリーズ #3』| 貴志祐介 | 書評 レビュー 感想

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作品情報
著者 貴志祐介
出版日 2011年7月26日
評価 75/100
オススメ度
ページ数 約368ページ

小説の概要

 
この小説は、防犯ショップの店長であり防犯コンサルタント(本業は泥棒)の榎本径と弁護士青砥純子のコンビが密室殺人事件に挑む、防犯探偵・榎本シリーズの短編集です。収録されている短編は4つで、今回は書き下ろしがなく、全て雑誌に掲載されたものです。
 
結論から言うと、『狐火の家』とほぼ同じで密室がただ密室というだけでこれといって意味も設定されておらずイマイチです。事件が密室であることにさほど意味もなく、ただ機械的にトリックを破るだけの単調な内容なため深みがまるでありません。
 
ただ、さすがに『狐火の家』ほど陳腐で浅はかな笑いに走ったふざけた内容ではなくそこだけ一安心でした。
 
榎本の防犯コンサルタントという設定もほぼ活用されず、密室だけ作ってドラマを入れ損なうという問題が手付かずのままです。
 

監視カメラも最新のセキュリティも登場しない、ただドアが開かないというだけの密室

 

今作も、登場する密室はどれも読者が前のめりになってしまうほどの吸引力もなく、それを最初から全てを見透かしたような榎本がなんの苦もなく淡々と謎を解いていくだけという内容で読んでいてスリルも興奮もありませんでした。
 
そもそも、貴志祐介さんは細部を作り込み、時間を掛けて物語に厚みを出す人なので、単純に短期決戦の短編に向いていないのだと思います。
 
密室の作り方は『狐火の家』と同様かなり練られており、アイデア自体は素直に驚きました。
 
優秀な理科の教師であり手品が得意な犯人が物理の知識やクロースアップマジックの視線を誘導するテクニックを応用した密室とか、人が住めないほどの欠陥住宅の欠陥部分をあえて利用した密室殺人といった念入りに計画されたものが多く、ここは偶然密室になりましたという話だらけの『狐火の家』とは異なり一応は犯人の経歴や得意分野が反映された内容で、安心して読めます。
 
ただ、やはり『狐火の家』と同じで、そもそもこれらの密室事件を解く探偵役が防犯コンサルタントである必要性がまったく感じられません。
 
自分が読みたい防犯探偵は監視カメラの映像をどう誤魔化すのかとか、最新のセキュリティをどう突破するのかとか、ベテランの泥棒の榎本でないと見えない、犯人すら見落とした不審な証拠や、普通この場面でそのような手順で動かないという違和感を発見するなど、本当に防犯コンサルの専門知識や泥棒の経験を総動員した内容です。
 
このようなドアに鍵がかかっただけのコテコテな密室ではないので、前作同様どこか主旨がズレているなという違和感が拭えませんでした。
 

もううんざりな劇団「土性骨」

 

今作もまた劇団「土性骨」というふざけた劇団員たちが程度の低いスラップスティック的なドタバタ劇を繰り広げるという話が収録されており、読んでいて勘弁して欲しいと思うほど苦痛でした(しかもボリュームが増えている)。
 
どうして貴志祐介さんは防犯探偵・榎本シリーズになるとこんなセンスの欠片もないお笑い芸人が作った低レベルのコントみたいな笑いに走るのか理解に苦しみます。
 
コメディというのは勢いではなく知性や計算で作るものであり、こんなふざけたキャラを出して暴れさせるだけのくだらない内容で笑えるはずもありません。
 
この劇団が出てくるだけでげんなりし、もうほとんどのページを読み飛ばしたい欲求に駆られました。
 

最後に

 
どの事件も容疑者は一人だけで犯人は最初から確定済み。しかも動機もほとんどが金銭目的でなんのひねりもなく、ただただ作者が苦労して考えた密室トリックを解説されるだけで、話としての面白味はほぼありませんでした。
 
一応、『悪の教典』の蓮見っぽいサイコパスの教師が登場するなど、他の貴志祐介作品を読んでいるとセルフパロディ的な楽しみ方も出来ますが、それもオマケの域を出ません。
 
笑いに走りすぎていた『狐火の家』に比べるとやや落ち着きはしたものの、相変わらず探偵が防犯コンサルタントである必要性がほぼ感じられず、読んでいてもしっくりこない違和感だけが残ります。
 

防犯探偵・榎本シリーズ

タイトル
出版年
硝子のハンマー #1
2004年
狐火の家 #2
2008年
ミステリークロック #4
2017年

貴志祐介作品

 
 
 
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