発光本棚

書評ブログ

発光本棚

【洋画】マクドナルドは俺のモノ |『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』| レビュー 感想 評価

f:id:chitose0723:20191018200204j:plain

トレーラー

評価:85/100
作品情報
公開日(日本) 2017年7月29日
上映時間 115分

映画の概要

 
この作品は、マクドナルドの創業者(ファウンダー)であるレイ・クロックがいかにマクドナルド兄弟からマクドナルドの経営権を奪い、会社を乗っ取ったのか、その顛末が描かれる伝記映画です。
 
伝記映画としては、楽しい・分かりやすい・勉強になる(考えさせられる)とバランス良く三拍子揃った非常に良質な映画でした。
 
映像作品としては尖った表現への挑戦などが無い分ややあっさり気味という不満はあるものの、それ以外は欠点らしい欠点もなく安心して見られ確実に一定の満足を得られる良く出来た映画です。
 

レイ・クロックことパルパティーンにより、マクドナルドという名の銀河共和国が乗っ取られ帝国化するようなお話

 
まず、本作と似たような映画を挙げると、『アビエイター』や『ソーシャル・ネットワーク』(後は、スティーブ・ジョブズ関連の映画)で、やや似ている程度だと『マネーボール』、『マネーショート 華麗なる大逆転』などです。
 

とにかく、アーロン・ソーキンが脚本を書いている映画とそれに類するものです

 

他人に認められたいと願う野心家の主人公が、やや乱暴な手法で成功していくものの、成功と引き換えに人として大切なものを徐々に失っていき、最後は巨万の富を得るものの切ない余韻が残る、というやや苦い後味のフォーマットを持つ作品群の中の一作となります。
 
ジョン・リー・ハンコック監督作品は初めて見たものの、どことなくハリウッド黄金時代映画すら彷彿とさせるほど無駄のない語り口と、絶対に映画的な間を外さないリズム感に惚れ惚れしました。
 
印象的なのが映画全体が何よりも教訓が詰まった魅力ある物語をテキパキ語ることを優先し、これ見よがしな演出テクニックのひけらかしがないことです。
 
ただ、その分やや映像的に退屈に感じる部分もあります。
 
まるで難解な漢字に片っ端からふりがなが振られ、分かり辛い部分には注釈と挿絵が付けられた本のように、序盤から物語理解に必要な情報を過不足なく提示し、誰も物語に置いてきぼりを食わないよう丁寧な配慮がなされています。
 
優れた映画によくありがちな、映画内のモチーフと、映画から受ける手触りが似るという現象がそのまま本作にも当てはまり、この映画自体がお客さんを喜ばせることだけを考える劇中のマクドナルド兄弟のハンバーガー店へのこだわりそのもののように、見る者を楽しませることを優先して作られているため内容を咀嚼しやすいです。
 
見やすいだけで何も残らないかと言うとそんなこともなく、結果的にマクドナルドを乗っ取ることとなる、現実にはどこをどう見ても悪人でしかない主人公を必ずしも絶対悪としては描かないスタンスも好感が持てました。
 
実際、映画を見ていると何か新しいことをやろうとする主人公の足を引っ張り続ける保守的なマクドナルド兄弟のほうにイライラする場面が多くありました。
 
小さい幸せだけで満足しもっと高い目標があるのに躊躇して重い腰を上げない職人気質で慎重なマクドナルド兄弟と、どんなに汚くても己の野望に素直でひたすら前進し続けるビジネスマン気質で大胆な主人公を対比させることで、どちらの姿勢にも一定の理解を示すような賢明なスタンスで描かれ観終わった後も色々と考えさせられます。
 
特に主人公のレイ・クロックは、他人に認められたいという強い動機を原動力としているという描写がちょくちょくされるため、人の欲望(野心)というのはそれ自体は清潔なものでなくとも、何か大きなこと(夢と言い換えてもいい)を成し遂げる際には燃料として必要にもなるというメッセージにも見え、職人的な閉じた自己満足に警鐘を鳴らしているようにも見えました。
 
自分はどちらかと言うと、可能性があるのに挑戦しないマクドナルド兄弟より、世界を変え得るかもしれない斬新で優れたシステムをローカルで終わらせるなんて勿体ない、これで世界を変えてやらないと気が済まないという主人公のほうに感情移入してしまったので、最後はマクドナルド兄弟に申し訳ない気分になりました。
 
現実はさておきレイ・クロックは『ハウス・オブ・カード』のフランク・アンダーウッドであり、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』のダニエル・プレインビューであり、『ナイトクローラー』のルイス・ブルームでもある(後、スティーブ・ジョブズ感もある)ので、こと映画内の存在感や魅力で、ただの優等生でしかないマクドナルド兄弟に勝ち目はないなと妙に納得もしてしまいます。
 

最後に

 
テキパキとしているだけで挑戦がない映像面にやや不満もあるものの、それ以外は文句の付け所のない、誰が見ても楽しめるマクドナルドの歴史が学べる一級の伝記映画でした。
 
 

 

 
TOP