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【洋画】列車はサスペンスがお好き |『トレイン・ミッション』| 感想 レビュー 評価

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トレーラー

評価:80/100
作品情報
公開日(日本) 2018年3月30日
上映時間 105分

映画の概要

 
この作品は、会社をリストラされた保険セールスマンが、10年間利用した通勤電車で不可解な犯罪に巻き込まれるというサスペンス映画です。
 
『エスター』や『アンノウン』、『ロストバケーション』など、名作サスペンス映画を数多く撮ってきたジャウム・コレット=セラが監督をしており、『バルカン超特急』など傑作列車サスペンス映画を撮ったヒッチコック作品へのオマージュに溢れるのが特徴です。
 
主人公が毎日通勤のため利用した電車を犯罪空間に仕立てるというアイデアや、冒頭の10年分の思い出を凝縮し時間感覚を麻痺させるかのような編集テクニックも素晴らしく、良質なサスペンス映画に仕上がっています。
 

あらすじ

 
元警官の保険セールスマンであるマイケル・マコーリーは会社からリストラを通告される。
 
絶望の中、10年間乗り続けた通勤電車で帰路につくマイケルだったが、突然謎の女に声を掛けられ「いつもこの時間に通勤電車にいないはずのある人物を探し出せたら10万ドルの報酬を渡す」と不可解な提案を持ちかけられる。
 
怪しい依頼に戸惑うマイケルだったが、息子の学費のためどうしても現金が入り用なマイケルは女の指示通り見慣れない乗客探しを開始するのだが・・・。
 

サスペンスに磨きをかける美しい編集

 
映画の冒頭、いきなり度肝を抜かれたのが10年という月日の移ろいを若いマイケルと現在のマイケルをカットバックさせることで表現する、大胆さと繊細さが入り混じる斬新なテンポの編集テクニックです。
 
それも『クレヨンしんちゃん オトナ帝国の逆襲』や、『カールじいさんの空飛ぶ家』のような月日の流れを説明するための時系列が整理されているものではなく、マイケルたち家族の10年の歩みを凝縮させ、過去なのか現在なのか次第に時間感覚が麻痺し足元がおぼつかなくなるような編集であり、これに心底魅了されました。
 
この編集テクニックがサスペンス映画としては極上で、マイケルの10年を追体験することで家族ドラマとしての上品さを確保し感傷的なムードを形成しながら、同時に時間感覚が狂うことで不穏な気配が作品に漂い、この後によからぬことが起こるであろうという心構えもさせるという役割を果たし、そのサスペンス的機能美に惚れ惚れしました。
 

『フライトゲーム』の飛行機を電車に置き換えただけ

 
作品の冒頭部分はこれまでのジャウム・コレット=セラ監督作品の中でも最も好きなシーンでしたが、正直本編の印象は『フライトゲーム』とさほど変わりませんでした。
 
この監督はとにかくサスペンスが手数勝負なので、せわしないだけで起こることは底が浅くいまいち話にのめり込めません。
 
それになまじテクニックに優れているためか、明らかにヒッチコック作品を意識して作っているのに撮影や編集、音など単発で処理しようとし過ぎてサスペンスが打撃技っぽく、ヒッチコック的な見る者の興味の運動エネルギーそのものを利用する投げ技や、話に絡めとられる寝技のようなねっとりとした粘り気が足りません。
 
ほとんどの客が顔見知りというホームグラウンドのような通勤電車の中で、見知らぬ乗客を探し出すというアイデアは『フライトゲーム』より格段に優れ興味を惹かれるものの、やはりやっていることは『フライトゲーム』の退屈な反復にしか見えずイマイチでした。
 
あと、個人的にサスペンス美意識的に許せないのが電車が止まってもまだ映画が終わらないことです。
 
主人公の不安な精神状態をトレースするように走行中グラグラ画面が揺れているというサスペンスにはこの上なく打って付けの舞台である電車が停止してもまだ話がだらしなく続くため、終盤は興味が完全に失せ、早く終わって欲しいと願うばかりでした。
 
多分ヒッチコック監督の『バルカン超特急』の終盤、敵に列車を包囲されて緊迫した状態になるというシーンの再現がしたかったのでしょうがただの蛇足にしか思えません。
 

ラクをし過ぎなキャスティング

 
『フライトゲーム』ではドラマの『ハウス・オブ・カード』で存在感の強かったピーター・ルッソ議員役のコリー・ストールを起用し、本作では同じくドラマの『ブレイキング・バッド』(もしくは『ベター・コール・ソウル』)のマイク・エルマントラウト役のジョナサン・バンクスを起用と、この監督は傑作ドラマの中の濃いキャラをそのまま自作に引っ張ってこようとする癖があり、若干こずるさを感じます。
 
『フライトゲーム』のコリー・ストールは『ハウス・オブ・カード』のルッソ議員とは別人だったものの、本作のジョナサン・バンクスは気怠そうに見えて実は鋭い観察力を持っているという、どこからどう見ても『ブレイキング・バッド』のマイクそのままなので、出てきた時は「マイクじゃん!!」とツッコミを入れたくなりました。
 
一応頼りがいのある人に見せ、それを中盤の絶望展開に利用するという、『エグゼクティブ・デシジョン』のスティーヴン・セガールっぽい使い方をしているものの、結局主演のリーアム・ニーソン以外で本作で一番印象に残ったキャラはマイクっぽいジョナサン・バンクスだったので、借り物みたいなキャラが一番目立つという状態はさすがにダメだろうと不満でした。
 

最後に

 
冒頭の時間感覚が狂う編集が本編で最もサスペンスフルで、ここは文句なしの出来映えでした。
 
しかし、それ以降はこの冒頭の凄さを超えることは一切なく、常に蛇足感が付き纏いイマイチでした。
 
ただ、見知った通勤電車内をサスペンス空間にしてしまうというアイデアは非常に秀逸で『フライトゲーム』よりは確実に楽しめました。
 
 

 

 
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