予告
配信日 | 2022年6月~7月 |
話数 | 全8話 |
評価 | 85/100 |
国 | アメリカ |
映像配信サービス | Amazonプライム・ビデオ |
ドラマの概要
このドラマは、Amazonプライム・ビデオ限定シリーズ『ザ・ボーイズ』のシーズン3です。
シーズン3は、コメディ色が薄れ登場人物が苦悩し続ける退屈な場面だらけだったシーズン2とは打って変わり、先が気になり続けるサスペンスフルな展開の連続に、シーズン1を彷彿とさせる下品に振り切ったブラックな笑い、そして『ザ・ボーイズ』という作品全体に通底する家族を巡る物語と、それぞれがバランスよくまとまっており遙かに見やすくなりました。
ただ、シーズン2の新ヒーローであり物語を掻き回す役割を担っていたストーム・フロントに比べシーズン3の中心人物となるソルジャー・ボーイは単にホームランダーと同等の強さという程度の地味さで行動動機もぱっとせず、新キャラにしてはややインパクト不足という不満も残ります。
呆れるほど下劣な笑いが復活したシーズン3
一つ前のシーズン2は、シーズン1の品性を疑うような下品極まりない最低な笑いの連続に比べ過激さが控え目となり退屈でした。しかし、シーズン3はこの点が大幅に改善されており、どうしたらここまで酷いアイデアが思い付くんだという強烈な笑いが散りばめられ、毎話と言っていいほどゲラゲラ笑いました。
ヒーローが特殊能力で体を小さくし男の尿道内に入る変態プレイとか、ヒーローをモチーフにした大人のおもちゃ(バイブ)を武器代わりにして戦う血みどろアクション、B級ヒーローたちが各々の能力をフル活用する乱交パーティ、シーズン1からずっと謎のヒーローとして登場していたブラック・ノワールの妄想が全てカートゥーン風のアニメーションという恐ろしく手間がかかった悪ふざけなど、極限まで知能指数が低く抑えられた笑いが溢れており常に深刻ぶっていたシーズン2よりは確実に楽しめます。
全力で笑いに走っている場面以外でも、マジメな会話シーンの背景にうっすら笑いを配置することで会話が単調にならないような工夫が施されているなど、シーズン2が退屈で眠くなる場面が多々あり途中で何度も視聴を中断したのに対しシーズン3は終始楽しくほぼ一気見しました。
ただ、シーズン1の衝撃に匹敵するかと言われるとそこまでではありませんでした。なぜなら、シーズン3のコメディパートは事前にいかにもこれからバカなことが起こりそうな気配を漂わせてしまっており、不意打ち的に強烈な笑いをお見舞いさせられたシーズン1に比べると体感のインパクトはどうしても劣ります。
シーズン3まで続くと良くも悪くも『ザ・ボーイズ』とはこういうものという型のようなものが出来てしまい、たまに試行錯誤が暴走していたシーズン1ほどの爆発力はありません。
右翼ヒーロー大暴れのシーズン3
シーズン3は、どう見てもマーベルのキャプテン・アメリカのパロディであり、ホームランダーが登場する前はアメリカNo.1ヒーローであったソルジャー・ボーイの死の真相を追うという先が気になる展開が用意されており、単純な中毒性はシーズン2より上でした。
それに、ソルジャー・ボーイのかつてのチームメイトだったガンパウダーがアメリカの銃社会の元凶でもある全米ライフル協会を模した“ヴォート・ライフル協会”に雇われているなど、シーズン1のキリスト教を布教するヒーローと近いような政治ネタも盛り込まれており、シーズン2の上っ面だけのナチスいじりよりは遙かに知的です。
ソルジャー・ボーイを中心とするかつての右翼ヒーローチームの話は、実際の歴史を下敷きにしたポリティカルサスペンス色もあり、実はニカラグア内戦(コントラ戦争)で親ソビエト政権のサンディニスタと戦うコントラを支援するためヒーローチームが極秘にニカラグアに派遣されていたとか、冷戦に絡めたワクワクするような設定もあります。しかし、終わって見るとこの部分は中途半端さが目立ちイマイチな出来でした。
このソルジャー・ボーイという20世紀的な古いアメリカの価値観を体現するヒーローは、やりようによっては下品な方向の笑いとは別の政治的な笑いを担当させることもできたのにうまく機能しておらずそこは惜しいなと思います。
例えば、ドラマ内にある冷戦時代で時が止まっているせいで9.11同時多発テロのことを知らず未だにソ連との戦いを支援したアフガニスタンを味方だと勘違いしており米軍がアフガニスタンから撤退したことを不思議がる場面のように、情報が40年前で止まっているという設定を利用していくらでも笑いを生み出せたのに実際は単に粗暴な人物なだけで残念でした。
なぜワールドトレードセンターが跡形もなく消えているのか不思議がる不謹慎な笑いとか、オバマ大統領の医療保険制度改革(オバマケア)のような政策を知ってアメリカはいつから社会主義の国になったんだとブチ切れるとか、冷戦時代のゴリゴリ右翼である人物が現代のアメリカを見てショックを受ける様をユーモラスに描くといった知的な笑いも充実していれば文句ありませんでした。
最後に
シーズン3は、登場人物が苦悩する様を延々見せられ退屈だったシーズン2に比べ、悪ふざけと各キャラクターが抱えるトラウマと向き合うドラマパートのバランスが改善され遙かに見やすくなりました。
ただ、シリーズを重ねるごとにヒーローたちのメディアでの発言のデタラメさが増す一方で、こんなに毎回コロコロ主張が変わったらもはや誰も話を間に受けなくなるだろうとか、ザ・ボーイズのリーダーであるブッチャーは妻のレベッカの件がシーズン2で終わったのでもはやヒーローを憎む動機が消滅しヒーローへの憎悪と何の関係もない弟との回想を入れてそれっぽくしているだけとか、見ていて違和感を覚える箇所が徐々に増えており、やや次のシーズンに対して懸念も残ります。
ザ・ボーイズ シリーズ
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