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【映画】2の続編としては合格、1本のアクション映画としては凡作 |『ターミネーター ニューフェイト』| レビュー 感想

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トレーラー

評価:75/100
作品情報
公開日(日本) 2019年11月8日
上映時間 129分

映画の概要

 
この映画は、『ターミネーター』シリーズの一作で、話の時系列的には2の続編となっています。そのため1と2を見てさえいれば話は理解可能です。
 
運命を受け入れるのではなくあらがい立ち向かうことを選ぶという2のメッセージを継承しており、シリーズで2が一番好きな人間にはたまらない続編です。
 
ただ、全体的に脚本もアクションも急ごしらえで作ったような詰めの甘さで、到底1本の映画としての完成度では2の足下にも及びません。
 

運命に対するスタンスが2そのもので胸が熱くなる続編

 
この映画は『ターミネーター2』のエンディングから22年後の2020年から物語が始まります。この作品からターミネーターシリーズを見始める人はさすがにいないでしょうが、1作目と2作目は見ている前提で話が進むため視聴は必須です(最低でも2だけは見ていないと会話の意味が分かりません)。
 
ただ、2のエンディングからそのまま話が続いている2の正統続編なため、3以降の続編は一つ前の『ジェニシス』含めて無かった事になっており、見る必要はまったくありません。
 
結論から言うと、今作は3以降のあらゆる続編の中で最も好きな作品になりました。
 
2のメッセージを1%も理解していない3や、あってもなくてもどうでもいい4(サルべーション)やドラマの『サラ・コナー クロニクルズ』、1本の映画としてあまりにヘタクソ過ぎる上にゴミみたいな編集で見るに堪えない駄作の『ジェニシス』と、とにかく散々な出来の作品が続いていたのに、今作はラストで2がフラッシュバックし目頭が熱くなるほどぐっときました。
 
運命をただ黙って受け入れる話だった1作目に対し、運命にあらがい未来そのものを変えるため最後まで足掻あがき続けるという2作目が大好きなので、この部分をしっかり踏襲している今作はそれだけで好感が持てます。
 
人殺しのためだけに作られたターミネーターですら自らの意志や行動で変わることが出来るという前向きなメッセージに至っては2より数段強化され、初見時はT800の姿に「そんなバカな」という違和感を覚えましたが、でもやろうとしていることは概ね2と同じという興奮が混ざり合い、どうしたものか悩みました。
 
しかし、シュワルツェネッガーの役者としても人間としても円熟した佇まいを見るうちに冷徹な機械から贖罪のため戦うカールという一人の人間への変化に説得力を感じ、見終える頃には違和感はほぼ無くなりました。
 
冷徹な殺戮マシンとして完璧な説得力を出せていた昔のシュワルツェネッガーに対し、今度は殺戮マシンですら心を持ち他者を思いやることが出来るという変化もやはり演技で表現しており、シュワルツェネッガーがより役者として好きになれます。
 
今作は明らかに設定やタイムトラベルの辻褄つじつま合わせより、サラ・コナー役のリンダ・ハミルトンやシュワルツェネッガーの老いすら作品の深みとしてしまう演技や、人間はその気になれば過去の自分も暗黒の未来すらも変えられるはずという強いメッセージ性こそを優先しており、この姿勢は2以降に作られたあらゆる続編を凌駕するほど響き、大好きな作品になりました。 
 

そんな感動を台無しにする急ピッチで作ったような中途半端アクションの数々

 
今作はシリーズの中では大好きな部類ですが、1本の映画としては凡作としか思えません。
 
突貫で作ったような雑な脚本と、機械の重量感を非常に重視する重いアクションが魅力だった昔の『ターミネーター』シリーズに対し、軽くてしょぼいCGアクションと、正直アクションシーンはほぼ全て退屈でした。
 
不出来な脚本のしわ寄せは全て今作から登場する新キャラがこうむっており、ハッキリ言ってダニーもグレースもまったく印象に残りません。
 
ダニーなんて家族が殺された直後なのにまったく悲しんでいるそぶりすらなく、人間性がそもそもあまり信用できないという最悪な印象でスタートするので最後まで好きになる余地がありません。
 
役者が悪いわけでも何でもなく、単にサラ・コナーとジョン・コナーを足しただけの存在感が薄いダニーと、カイル・リースもどきな役回りしか与えられないグレースと、真剣に主人公として成立させようとする意志が感じられず、リンダ・ハミルトンとシュワルツェネッガーの前座のような扱いで見ていてかわいそうでした。
 

最後に

 
アクションにも会話にもためがなく、お馴染みのテーマ曲もアレンジし過ぎてまったくピンとこず、そんなもの映像で表現しろと思うほどラストのT800とRev-9の会話のやり取りがダサ過ぎて萎えるなど、言いたいことは山のようにあります。
 
それでも今までがあまりにも酷すぎたせいで、今作は「もうこれでいいよ」という諦め半分の肯定といった境地に達しました。
 
 

 

 

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