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【海外ドラマ】現代アメリカを風刺する真摯な姿勢の前日譚 |『スタートレック ディスカバリー シーズン1』| レビュー 感想 評価

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トレーラー

評価:85/100
作品情報
放送期間 2017年9月~2018年2月
話数 全15話
アメリカ
映像配信サービス CBS All Access

ドラマの概要

 
この作品は、ドラマ版『スタートレック(宇宙大作戦)』開始から10年前が舞台の前日譚です。
 
ややこしいのがJ・J・エイブラムス監督の映画版のスタートレックは宇宙大作戦の約30年前に別の平行宇宙(ケルヴィン・タイムライン)に時間軸が分岐しているため、本作はケルヴィン・タイムラインには分岐しなかった元のドラマ版の時間軸内における前日譚という位置づけになります。
 
そのため、最近の映画版(スタートレック、イントゥダークネス、ビヨンド)の流れとはまったく関係がありません。これらがなければただの宇宙大作戦の過去の話で説明が済むのに無駄にややこしくなっています。
 
スタートレックシリーズとして革新的というほどの目新しさはないですが、『宇宙大作戦』の前日譚という厳しい制約の中、旧ドラマ版の世界やテーマ性を傷つけないよう注意を払いつつ、現代アメリカを蝕む問題を鋭く描く攻めの姿勢も窺える力作でした。
 
しかし、冒頭からシリーズを知っている前提の用語や設定だらけでやや取っ付きづらいのと、散々引っ張った挙げ句やっつけのようなオチで終わる話が多いなど、脚本の粗もそこそこ目立ちます。
 

あらすじ

 
マイケル・バーナムは幼少時にクリンゴンによって両親を殺害されバルカン人の養子として育てられる。地球人ながらバルカン人と同様の教育を受けたバーナムは、地球人としての感情とバルカン人の論理力を身に付け、惑星連邦所属の宇宙艦U.S.S.シェンジョウで副長としての任に就いていた。
 
2256年。バーナムは、連邦領の外れで恒星間リレーが破壊されるという奇妙な事件の調査を行っている最中、100年間に及び冷戦状態が続くクリンゴンと接触しそのまま戦争が勃発。なんとか戦争を避けようと策を弄したバーナムだったが、それらの行動が反逆行為と見なされ終身刑を言い渡されてしまう。
 
罪人となったバーナムだったが、U.S.S.ディスカバリーの船長ガブリエル・ロルカに能力を買われ船のクルーとなる。
 
バーナムが乗り込むこととなったU.S.S.ディスカバリーには、クリンゴンとの戦争の行く末すら左右するほどの重大な秘密が隠されており……。
 

スタートレックらしい思いやりに溢れるSFミステリー

 
本作で最も心躍る瞬間は、未知の現象と遭遇した際に、この現象はどんな原因で発生しているのか仮説を出し合い議論していくプロセスでした。
 
この未知の現象に対し安易な決めつけをせず、細かく分析を重ね謎を究明する行為は、そのままスタートレックらしい人類が宇宙で初めて遭遇する常識を超えた生命とどのように意思疎通を図るのかというテーマとも密接に関わり、見ていて痛快です。
 
人間とはかけ離れた容姿の生き物を相手にしても、肉体すら持たない生命と呼んでいいのかすら分からない存在と交渉する際も、常に博愛の精神を持って相手の立場や考えを尊重し、自由を奪ったり、自分たちの都合を押しつけたりしないその確固たる態度には、作り手の高い志を感じ取れ感銘を受けます。
 
SFという好奇心を掻き立てられるジャンルの特性をそのまま未知の生命を尊重する姿勢や相手の立場に立って物を見る想像力へと繋げる手腕が見事で、登場人物たちがどんな相手にも平等に接し、あらゆる命を重んじる態度こそ、アクションで大立ち回りを演じる姿よりずっとカッコよく輝いて見えます。
 
他者を差別することがいかに醜いのか、他者を思いやる姿勢がどれほど尊いのかを主人公であるバーナム始めディスカバリーのクルーが体現してくれるためスタートレックを見ている充実感を味わえました。
 
本作を見るとスタートレックという博愛の精神に満ちたシリーズがどれほど素晴らしく、これが現代でも作り続けられることがいかに重要な意味合いを持つのか痛感させられます。
 
J・J・エイブラムス監督版もSFアクション映画としては傑作なものの、やはり現状のアメリカの状態を鑑みると自由と平等を何よりも尊重するこちらの路線のスタートレックのほうがより時代に求められる内容だと思います。
 

思いやりに溢れるも、ややユルめな脚本が悔やまれる

 
SF部分は、有機体による推進システムや、宇宙菌類学という独自の世界観が魅力的で、作中のオリジナル設定を聞いているだけでSF心をくすぐられワクワクします。
 
ただ、全体的に脚本が練り込まれておらず、ところどころ理解に支障をきたすような箇所も多くありました。
 
特に厄介なのが初見時ではほとんど眠いだけの、旧ドラマ版の設定が大量に登場しつつ、しかも脚本もイマイチ釈然としない一話と二話です。ドラマが始まって間もないのに、セリフ回しに癖があるクリンゴンのスピーチが大量に繰り返され、さすがに取っつきが最悪でした。
 
このシリーズ全体を通して重要となる、二話でトゥクグマに対してバーナムが行うある行為も、感情に流されてそうしたという体にならないとおかしいはずなのに、ただ単に成り行きでそうなったようにしか見えず、その後のやり取りが不自然に感じます。
 
基本の設定は面白いのに、細かい会話のやり取りが噛み合っていないとか、散々引っ張っておいてこんな大雑把なオチの付け方なの?といった違和感を覚える箇所が至る所にあり、明らかに脚本の細部が粗だらけで、そのせいで各エピソードごとの余韻があまり良くありません。
 

最後に

 
終盤トランプ大統領を思わせるような痛快なことを言っていると感じた人間の化けの皮が剥がれる恐怖というものが非常に現在の世界情勢と繋がり寓話としても完成度が高く非常に考えさせられる内容でした。
 
旧ドラマ版と直接話が続いていると言っても懐古趣味に陥らず、混迷を極める現代のアメリカの問題に真っ向から挑むような姿勢に胸を打たれる傑作です。
 
 

 

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