著者 | 武内涼 |
出版日 | 2020年5月15日 |
評価 | 85/100 |
オススメ度 | ☆ |
ページ数 | 約447ページ |
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小説の概要
この作品は、平安時代の末期、源義経が属する鬼狩り集団“影御先 ”と、権力の中枢に巣くう血を吸う鬼たち“邪鬼”との戦いを描く伝奇アクション小説『源平妖乱』シリーズの2巻です。
1巻は平家が支配する平安京が主な舞台でしたが、2巻は義経と同じく源氏の一族である木曾 義仲 のホームグラウンド信州(信濃 、現在の長野県)が戦場となります。
前巻で義経が鬼と戦う経緯 を全て説明し終えたため、今巻は冒頭からアクションの連続で話の疾走感は前巻を上回り、エンタメ小説としては超一級の面白さです。
しかし、前巻とは打って変わり源氏の仇敵である平家がほとんど登場しないため『源平妖乱』というタイトルの割に、単に義経が吸血鬼と戦うだけの話になっているという不満も生じました。
運命的な巴と木曽義仲の出会い
2巻は、1巻でシリーズの主要人物である義経と静御前がなぜ血吸い鬼(今巻から邪鬼と呼称)と戦うのかという説明を終えているため、ほぼ全編アクションだけで突っ走り、疾走感は前巻を余裕で上回ります。
そのため、単純な中毒性だけで言うと前巻よりも遙かに上です。
しかも前巻でやや不満だった、義経が属する鬼狩り集団影御先 の仲間たちがなぜ命懸けで鬼と戦うのか動機付けが弱いという部分を大幅にカバーするような続編となっており、その点も安心して読めます。
特に冒頭部分でとある親子が邪鬼に襲われるという話が、義経の戦友となる者が影御先に加わった経緯の説明であると同時に、後に有名な平家の悪行とも密接に関わっているということが判明するなど、話のテンポを一切止めないまま後々物語に必要となる情報をテキパキと提示する役目を果たしており見事でした。
それ以外も、前巻ですでに登場していた木曾義仲の側室として有名な巴御前が当の木曾義仲と出会う劇的な場面の盛り上がりは抜かりなく、木曾義仲もこれまで登場したキャラクターの中では群を抜いて魅力的で、巴が一目で惚れてしまうのも大納得な好人物として描かれています。
前巻は読んでいて登場人物同士のやり取りに対し、やや読者を置いてきぼりにしてしまうような説明不足が付きまといましたが、今巻は憎い敵はとことん憎く義経の怒りと同調でき、大切な仲間は本当に大切で失いたくないと読者に思わせるなど、作中の人物の感情と読者の感じ方が極力ズレないように調整が行き届いており抜かりがありません。
さらに前巻は義経がどんなに危機的状況に陥っていても歴史上の人物だからここで死ぬわけがないということが分かっておりどこか安心感がありましたが、今巻は読んでいて冷や汗をかくくらい義経たちを情け容赦なく追い詰めるため、緊張感がより増しています。
全体的にアクションパートに関しては前巻の弱点を全て潰し、良かったところはそのままなので単純な面白さは前巻すら上回ります。
どうして毎度こんなに面白い小説が書けるのか疑問なくらいハマります
これだと源平妖乱ではなく源氏妖乱
今巻の最大の不満はやはり平家がほぼ登場しないという致命的な問題です。
一応、平家に絡むある有名な事件の関係者が登場しますが、それ以外は平家の人間は一人たりとも登場せず、『源平妖乱』というタイトルの割に源氏のみの話で、タイトルと内容がチグハグになりました。
それに平家の人間が登場しないという不備と関係するのが、アクションの連続ばかりで、伝奇としての面白味がイマイチ感じられないことです。
テンポがいい反面、個々の設定は詳しく語られずなんとなく雰囲気で進んでしまうため、どうしても世界観に厚みが生まれません。
例えば、今巻で登場する四種 の霊宝 という影御先が長年守る秘宝も、どういう由来があり、どのような歴史や伝承と絡めるのかを楽しみたいのに、結局アイテムの効果しか語られず若干ライトノベルのような薄さです。
伝奇小説である以上、その秘宝がなぜこれほどまでに重要なのかを様々な文献や歴史と絡めながら説得力を加えて欲しいのに、単なるレアアイテム程度の扱いで、ここは明確に不満でした。
しかも“吸血城”とタイトルにあるためラストバトルは城なのかとワクワクしていたら、城など一切登場せずそこも肩透かしでした。
これなら“吸血城”ではなく“吸血神殿”ですね。若干タイトル詐欺です
最後に
前巻と同様にアクションを主体とするエンタメ小説としては面白すぎるどころか、前巻の弱点もあらかたカバーされており中毒性はより増しています。
しかし、肝心の平家がまったく登場せず、しかも前巻の舞台である京の都より今巻の舞台となる信州や様々な設定への説明量が前巻より大幅に減ってしまったため、伝奇小説としては前巻より物足りなさを感じます。
個人的には前巻くらいの説明量が丁度よく、ここまで説明を減らしてアクションに全振りされるとそれはそれで味気なく、もう少し信州という土地そのものを堪能出来れば文句ありませんでした。
源平妖乱シリーズ
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