著者 | 佐藤優 |
発売日 | 2015年1月8日 |
難易度 | 難しい |
オススメ度 | ☆ |
ページ数 | 約248ページ |
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本の概要
この本は、元外務省の外交官であり、キリスト教の神学者でもある佐藤優さんが、歴史をアナロジカル(類比的)に分析することで過去に起こった出来事から未来を予測するコツをレクチャーするという主旨です。
基本は、第一次・第二次世界大戦が起こった20世紀を旧帝国主義時代、覇権国家アメリカの影響力が陰り、中国・ロシアが台頭する現代を新帝国主義時代と呼称し、アナロジーを用いてこの二つの時代から類似する点を探っていきます。
新書なのでページ数は少ないものの、無駄な文章は一行もなくギッチリと情報が詰まっており、書かれていることも刺激的で読み応えがあります。
ただ、神学的な観点から歴史を読み解くため、ルターの宗教改革や三十年戦争、ウェストファリア条約など、ドイツの歴史の話が長めで、最低限、神聖ローマ帝国以降のドイツ史が頭に入っていないと理解に支障をきたします。
神学的な解説が主なためドイツの歴史に関する説明はほぼありません。もう少しドイツ史の解説を増やしても良かったと思います
戦争の20世紀との不気味な相似
ここ数年、中国は共産党の独裁が強化され、国内に少数民族弾圧の人権問題を抱え、軍備の拡張に邁進し、周辺諸国と緊張状態にあると、どことなく20世紀(第一次・第二次世界大戦の頃)のドイツと似ているなという危機意識を持っていました。その疑問に対し、この本はある示唆を与えてくれます。
この本では、世界に睨 みを効かせる覇権国家が弱体化すると、帝国主義国家が群雄割拠する時代が来ると説明されます。
20世紀には覇権国家はイギリスで、イギリスの経済が低迷するとドイツとアメリカという帝国主義国家が台頭。結果第一次・第二次世界大戦が勃発し、これを旧帝国主義時代と呼んでいます。
そして、現在では覇権国家がアメリカで、今度はアメリカの影響力が低下したため、中国とロシアという独裁色の強い帝国主義国家が台頭しており、これを新帝国主義時代と呼称。
つまり、現代の世界情勢は20世紀をそっくりそのまま反復したような状態であり、世界大戦が勃発した際の情勢と極めて酷似しているという仮説が展開されます。
この本を読む前は、漠然と今の中国と20世紀の頃のドイツは似ている程度の認識でしたが、実は覇権国家が弱体化し、二番手・三番手の帝国主義的な軍事大国が勢いを増している状態まで20世紀とそっくりで、見様 によっては現代は世界大戦一歩手前の状態でもあるということに気付けました。
ここまで20世紀の情勢の引き写しだと第二のサラエボ事件やポーランド侵攻が起き、第三次世界大戦が勃発しても不思議ではないという危機感が生まれます
アナロジカルな視点を持つ大切さ
この本で主張される、過去からアナロジー(類比)を見つけ出し、それを元に歴史の反復を見抜き、悲劇を繰り返す愚を避けるという考え方は歴史を勉強する最大の意義だと思います。
かつてオーストリア・ハンガリー帝国で起こった、権力者であるマジャール人が自分たちにとって都合の良いナショナリズム“公定ナショナリズム”を民衆に強制したという歴史も、そのまま漢民族中心のナショナリズムを少数民族にまで押し付ける中国の姿に当てはまるなど、歴史にはアナロジーが溢れ返り、それをアナロジーとして理解するには訓練が必要で、しかし日本の教育ではそのような訓練は一切行われないという警鐘も非常にしっくりきました。
面白いのは著者がキリスト教の神学者であるという点で、神学ではこの世に存在しない神についてアナロジーで物を考えるのは至極当たり前で、ただ無心に神学を学んだ著者だから外交官時代に世界情勢の変容を的確に見抜くことが出来たのはセレンディピティーっぽくもあり、示唆に富んでいると思います。
この本は、アナロジカルに歴史を捉えることの重要性とその楽しさ、そして知識を暗記するだけの勉強法に意味など無いという大事なことを教えてくれます。
最後に
これまで佐藤優さんは元々地頭が良くて単にキリスト教徒だから神学もついでに学んだだけという程度の認識でしたが、この本を読むと神学でアナロジカルな視点を学んだため、過去を基準に未来を予測する能力が鍛えられたのだと分かります。
ずっと疑問だった中国と20世紀ドイツの類似性についての丁寧な解説含め、これまで読んだ佐藤優さんの本の中でも上位の知的興奮に溢れる一冊でした。
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