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【大河ドラマ】この大河ドラマ天下一の強者なり!! 『真田丸』 〈レビュー・感想〉

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PV

評価:100/100
作品情報
放送期間 2016年1月~12月
話数 全50話
放送局 NHK

ドラマの概要

 
 この作品は、信濃しなの国衆くにしゅう(土着の武士)真田昌幸まさゆきの次男であり、戦国時代きっての名将として語り継がれる真田幸村(史実では信繁)の一生を描くNHKの大河ドラマです。
 
 真田が仕える武田家の滅亡から始まり、徳川家康が豊臣家を滅ぼすために起こした“大坂冬の陣”“大坂夏の陣”までを真田一族の視点を通して体験する壮大かつ重厚な物語となっています。
 
 曲者揃いの名優たちの好演に、莫大な予算を投じた美術や豪華セット(大坂城や出城である真田丸)の数々。何よりも数奇な運命を辿る真田一族の人生と脚本を担当する三谷幸喜の作風が完璧なまでにハマり、尋常ではない完成度の作品に仕上がっています。
 
 真田一族の笑いあり涙ありのファミリードラマとしての面白さに、乱世の世で弱者が強者にハッタリを武器に挑む騙し合いのスリル。豊臣家と徳川家の支配者の座を懸けた政治闘争劇に、敗者がドン底から這い上がる再起の物語
 
 そして戦国末期に生まれたため父親世代が経験した大戦おおいくさに参加する機会の無かった真田幸村が歴史に自身の名を刻むため大暴れする戦国最後の狂乱の宴“大坂冬の陣”と“大坂夏の陣”の盛り上がりは圧巻の一言でした。
 
 欲に生きる者・義に生きる者・お家のために自らの心を殺す者と乱世という世に翻弄される者たちの生き様・散り様に涙する、間違いなく大河ドラマの歴史に残るであろう大傑作中の大傑作!!
 

三谷幸喜脚本と真田一族の共闘

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 この大河ドラマ最大の勝因はなんと言っても『刑事コロンボ』の影響が濃い三谷幸喜脚本の代表作でもある『古畑任三郎』が持つ会話劇の魅力をふんだんに盛り込んだことだと思います。結果としてこれまで見た三谷幸喜脚本作品(同じく大河ドラマの『新選組!』など)と比較しても頭一つ飛び抜けた出来です。
 
 始まって直後はいかにもTVドラマ的な役者のオーバーな演技だったり、笑わせ方がこれ見よがしでくどく感じられたりと、正直あまりいい印象を持ちませんでした。
 
 しかし、このオーバーで太々ふてぶてしい演技は真田一族が乱世の世を生き残るため織田や徳川、北条、上杉に対してハッタリをかまし、のらりくらりと相手を挑発しペースを掻き乱す際に最大限の効果を発揮するため、徐々に違和感が消え去ります。
 
 序盤はなにかとしつこく感じるコミカルな真田ファミリーのやり取りも、終盤物語を覆う残酷で無慈悲な死の影が濃くなるにつれ、真田がまだ一つだった遠い昔の幸福な想い出として意味合いが変わり好意的に見ることが出来ます。
 
 脚本まわりは終始細かい文句(物語上非常に重要な石田三成の最後の描き方が雑すぎる、など)が耐えません。しかし、長編作品としては構成のメリハリが効いており、最初引っかかった箇所が後でプラスに転じる工夫が多く施され、最終的には不満点より優れた点が圧倒的に勝ります
 
 中でもお互いに相手の腹を探り合う会話劇を得意とする三谷幸喜脚本と、乱世の世をウソとハッタリで生き抜く真田一族との相性の良さは格別でした。この自分より遙か格上の大名たちを騙すために挑む、失敗した瞬間に首が飛ぶ緊張感みなぎる会話劇は過去作を軽く凌駕し、つくづく会話劇を得意とする三谷幸喜脚本は映画よりもドラマ向けだなと思います。
 
 本作の脚本は褒め出すと切りがないほど出来が良く、あまりの面白さに放映当時は軽い社会現象になったのも大納得です。
 
 映画だとクドくて安っぽく見える三谷幸喜脚本の欠点が最小に抑えられ、互いに相手の腹を読み合う会話劇という優れた点が役者の演技相まって限界を突き抜けて活かされており、見ている間中ずっと楽しくて楽しくて仕方のない幸せな時間を過ごせました。
 

脚本の完成度は傑作海外ドラマすらも完全凌駕している化け物です

三谷幸喜脚本を支える役者たちの好演

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 このドラマは元の脚本の出来がズバ抜けていますが、それをさらに限界以上に引き出せているのは脚本の良さを生かす演技に徹する役者たちの貢献だと思います。
 
 ただ、同じ三谷幸喜脚本である大河ドラマ『新選組!』はじめ三谷幸喜作品の過去作とかなりの数の役者が被っており手堅い人選で固めたなという部分は若干気になりました。個人的に安心して仕事が出来る役者を何度も自作に起用する行為は緊張感を欠く原因となり、新しいことに挑戦する上で妨げにしかならないことが多く好ましくは思えません。
 

黒沢清映画に何回役所広司が出るんだよという既視感と同じですね

 
 まず、演技の良し悪しとはあまり関係ない部分で感心させられたのが、登場人物の顔と名前の覚えやすさが群を抜いていることです。真田幸村役の堺雅人に、真田信之役の大泉洋、真田昌幸役の草刈正雄、豊臣秀吉役の小日向文世など名優が揃っており、ハッキリ言ってもっと高度な演技をしようと思えば出来るはずなのに、媒体がTVドラマなだけに濃いキャラクターを演じることに徹しているおかげで誰が誰なのか迷うことがほぼありませんでした。
 
 このドラマはとにかくキャラの味付けが濃いこともあり登場人物の名前と顔を覚える苦労がほとんどなく、全力で面白すぎるストーリーに集中でき退屈な瞬間がまったくといって言いほどありません。
 
 それに、個々の役者がここぞという時に見せるほんのちょっとした目の動きや仕草でその人物の本心が垣間見える瞬間の演技のキレ味も鋭く、通常の分かりやすい演技に徹する時と、本気で演技する時の落差がそのままその人物が腹の底では何を考えているのか読めない不気味さへと繋がり、濃いキャラだけに終わらない深みもあります。
 
 元々三谷幸喜という人が劇作家で演劇の世界の人なため役者の魅力を引き出す脚本はお手の物で『真田丸』を見ると主要な役者ほぼ全員好きになってしまいます
 
 主人公真田幸村役の堺雅人の会う人全員に愛されるという下手をしたら荒唐無稽になりかねない設定を、持って生まれた柔らかい雰囲気や人当たりの良すぎる佇まいで成立させてしまう力量も見事だし、真田昌幸役の草刈正雄がポーカーフェイスで自分より遙かに格上の大名相手にハッタリをかます痛快さも最高でした。
 
 中でも個人的に一番凄いと思ったのは小日向文世の惨めなまでに老いた豊臣秀吉の演技でした。直前まで元気だったのに本当にただのボケ老人に成り果て、これが天下統一を果たした天下人の最後なのかと思うほど惨めで哀れみすら感じる様は、作品全体に権力欲が行き着く先の虚しさ、そして老いと死を意識させる力があり、それと対になる若さや活力がより活きていると思います。
 
 それ以外も、コメディを得意とする大泉洋にあえて冗談が通じない堅物キャラを演じさせるというアイデアだったり、上杉景勝役の遠藤憲一が見た目は怖いのに実は気弱でヘタレという見た目とのギャップで笑わせたりと、とにかく役者は全員好ましい人だらけでした。
 
 ただ、唯一酷いと思ったのは秀吉亡き後の豊臣家の描き方です。とにかく主人公の足を引っ張り、文句やいちゃもんばかり口にし、憎々しげな態度ばかり取らせ分かりやすく悪者を演じるためあまり深みがありません。
 
 茶々は悲劇的な人生を送ってきたためすでに心が壊れた人物として登場し、幸村と触れ合ううちに徐々に人間らしさを取り戻していくという趣向は良いのですが、それ以外はとにかく分かりやすく悪者なので、もう少し豊臣家のために自分なりに最善を尽くす過程で意見が対立してしまう程度の描き方に留めて欲しかったです。
 
 秀吉の重臣である頭でっかちで不器用な石田三成と激情型の加藤清正の対立などは両者共に互いを激しく嫌っているのに豊臣家への忠義心は共通するという点はきっちり描いているため、なぜこれを大坂の陣ではやらなかったのかという疑問が残ります。
 

ただ、豊臣家が憎たらしいおかげで大坂の陣は幸村が豊臣家への忠義のためではなく自分のために戦っているというテーマ性が際立つ効果もあるため一概に悪いとも言えません

信繁から幸村へ

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 真田幸村という名前は後世に作られた俗称で、史実では真田信繁ですが、このドラマはあえて終盤幸村という間違った名前を採用することに非常に重要な価値を置いており、この部分は心から感服しました。
 
 ずっと様々な人に仕えるだけで自分が本当にやりたいことを胸の奥に仕舞い込んでいた信繁がついに古い自分を捨て新しい自分“幸村”に生まれ変わることで戦国の世に名を刻むため大暴れする決心をするというくだりは感動的でした。
 
 この物語が最も伝えたかった“自分らしい堂々とした生き方をしろ”、“悔いのないよう、心の底から望むことをやれ”という熱いメッセージを幸村という名に込めるというアイデアは鳥肌ものです。
 
 自分は真田昌幸という名将の息子でしかなく歴史に名を刻むなど分不相応だと思い込んでいた信繁が、自分のやりたいこと・成すべきことに生涯を捧げた者たちの生き様を手本とし、真に自分らしく生きるため“幸村”と名乗り、最後の決戦に挑むというクライマックスは本当に胸が震えました。
 
 最後まで史実に忠実なまま“信繁”でも良かったのに、あえてこの物語を体験した者全員に“幸村”になって欲しいという熱い熱いメッセージを込めることで、真田幸村という名前の見え方が変わるほど衝撃を受け心底この作品に惚れました
 

最後に

 
 見始めると全50話という長丁場なんてまるで気にならないほどの面白さで、ボリュームに躊躇することは完全に無駄です。
 
 一瞬たりとも退屈しない脚本の完成度に、全員もれなく好きになってしまう役者の存在感、そして“幸村”という名に込められた胸が熱くなる最高のメッセージと、作品を形作るあらゆる要素が完璧なまでに噛み合った奇跡の大傑作!!
 
 

 

 

 

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