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【PS3・Xbox360】科学アドベンチャーシリーズのエース! |『STEINS;GATE(シュタインズゲート)』| レビュー 感想 評価

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評価:85/100

作品情報
ジャンル アドベンチャー
発売日(日本国内) 2009年10月15日(Xbox360版)
開発(デベロッパー) 5pb.(現 MAGES.)
開発国 日本

ゲームの概要

 
この作品は、MAGES.の科学アドベンチャーシリーズ2作目です。
 
映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』のような歪んでしまった歴史を修正していくというありきたりな設定を、斬新な平行世界ルールとタイムリープを用いて進化させた科学アドベンチャーシリーズ最高傑作です。
 
特に、世界線が変わるごとに生じる微かなズレを回収し切る手腕が凄まじく、微かな違和感に意味があることが分かった瞬間の喜びはひとしおでした。
 
現実とフィクションの針の穴を通すような配合比率も鮮やかで、全編通して細部まで計算が行き届いており、安心して物語に身を委ねることが出来ます。
 

あらすじ

 
厨二病の大学生岡部 倫太郎(おかべ りんたろう)をリーダーとする発明サークル未来ガジェット研究所は、ある日メールを過去へ送れるタイムマシン偶発的に作ってしまう。
 
深く考えもせず興味本位でメールを過去に送信したせいでバタフライエフェクトにより未来の世界が、現在の秋葉原が改変され世界の在り様が変質してしまう。
 
過去に干渉する事の深刻さに気づけなかった浅はかさを呪いつつ、歪んだ歴史を元に戻すため、過去に送ったメールを打ち消す苦闘が始まる。
 

トライ&エラーによる生じる没入感

 
このゲームでまず感心したのが、前作の『カオスヘッド』に比べプレイヤーの設定に対する疑問を潰す議論の絶対量が増えたことです。
 
タイムマシンがなぜ物質を過去に送れるのか分からず仮説を出し合いながら徐々に原理を解明していくくだりなど、物語への没頭を妨げる疑問点をしっかり潰す姿勢は科学アドベンチャーシリーズの最大の長所と言っても過言ではありません。
 
これは、続編の『ロボティクスノーツ』のロボット議論にも引き継がれていき、個人的にシリーズで最も好ましい部分です。
 
プレイヤーが疑問に感じるであろうポイントを先に作中のキャラがツッコミ、丁寧に潰してくれるため作り手がプレイヤーの視点(注目ポイント)をしっかりトレースできているんだという安心を覚え、自然に物語へと潜って行けます。
 

前作の腰の重すぎる主人公から一転

 
今作の主人公オカリンは、前作の腰が重いにも程がある主人公と比較すると事件に対して能動的にサクサクとアクションしてくれるため、前作より大幅にストレスが減りました。
 
ヒロインも、主人公との関係が薄いままで特に好感を抱くこともなかった前作に比べ改善されています。
 
メインヒロインのクリスのツンデレ表現が絶妙で、無理矢理ギャルゲー的な奇抜なイベントを入れずストーリー進行の中で途方に暮れる主人公に対し手を差し伸べてくれる心配りがしっかりした女の子として描かれ、自然と好感を抱けます。
 
苦悩を抱える主人公に感情移入させられているため、そこにすっと光明の様に救いの手を差し伸べてくれるクリスを好きになり、まさにそのクリスに対する好感ゆえにラストの展開に胸を締め付けられるような痛みが伴うという脚本は鳥肌ものでした。
 

ストーリーをクリフハンガーにするなら…

 
科学アドベンチャーシリーズの前作である『カオスヘッド』もそうでしたが、もはやこのシリーズに選択肢というものが必要なのか疑問にすら思います。
 
明らかにこのシリーズはシステムよりもストーリー押しのスタイルで、そうなるとストーリーの進行(トゥルーエンドへのルート、など)を妨げる選択肢(この作品では携帯メールへの返信内容が選択肢代わりになっている)が邪魔でしかありません。
 
『カオスヘッド』の妄想トリガーもアイデア先行で作られており、アドベンチャーゲームのシステムとしては完成度は低いものでした。
 
『シュタインズゲート』のメール返信によるルート分岐も携帯電話をキーとするコンセプトを際立たせるには有効ですが、単純な選択肢選びは面倒で特に楽しいとも思いません。
 
もはや選択肢はオマケ用のサブイベントなどに留め、ストーリー自体は一本道でいいのではないかとさえ思います(完全一本道だとやらされてる感が生じるので、多少のバッドエンドへの分岐程度はあってもいいと思います)。
 

謎解きの快感

 
タイムマシンやバタフライエフェクトという単語が頻出するためプレイ前はジャンルはSFなのかと思っていたら、いざやってみると面白いと感じたのはほぼミステリー部分でした。
 
まず、D(デロリアン)メールが過去に送られ、バタフライエフェクトで歴史が大きく改変され、なぜ、たった一行か二行のメールがこうまで世界に影響を及ぼすのか? と疑問を抱かせ、その謎を徐々に解き明かすと、事態の中心であった羽ばたく蝶の正体が明らかになり、最初から当たり前のようにそこにあるものが実は奇跡的な確率のもとで届けられた過去から未来への救世のバトンだったことが分かる、という構成は成立させる難易度を考えるとシナリオライターの苦労に頭が下がりました。
 
メインの謎以外も細部まで辻褄合わせが行き届いており、『Ever17』、『メタルギアソリッド』、『Fate/stay night』などの作品同様、終盤のネタばらしでパズルのピースが気持ちよく当てはまっていくようなカタルシスが味わえます。
 
特に、驚かされたのが世界線(平行世界)が移る度に、登場人物の認識に微かなズレが生じ、ある人物を忘れたり思い出したりと、なぜこんな現象が起こるのか疑問だったのが、考えるとしっかり理由があることです。
 
このプレイヤーが疑問に感じることには大体は理由があることが分かるという終盤の丁寧な伏線回収は、前作『カオスヘッド』の起こったことは全部妄想でしたというデタラメな展開とは真逆でした。
 
多分、通常のノベルゲーの数十倍の推敲すいこうを重ねていると思われ、本当にこんな複雑で入り組んだ設定をよく破綻させずに語りきったなと心底感服します。このシナリオをもう一度書けと言われても絶対に不可能であろう精密さで、このシナリオの完成度だけで作り手の苦労が楽々想像出来ます。
 

現実とフィクションの配合比率

 
謎解きの快感もさることながら、本作の面白さの神髄は世界観設定の現実とフィクションの配合比率の斬新さにこそあり、この点のバランス感覚は科学アドベンチャーシリーズでもずば抜けています。
 
現実にある街、現実に起こった事件、現実にある組織を核としそれを分解してフィクションとして再構築し、プレイヤーはそれを極上の物語として堪能しゲームを終えてネットで調べると、実はこのゲームに登場する様々な出来事には多分な事実が含まれていることが分かり、それによって現実とフィクションの境界が揺らぎ再度めまいのような感覚を味い、物語を反芻したくなるという仕掛けは見事でした。
 
謎解きの快感と同様、やはりこの作品は緻密な計算の要素が圧倒的に目立ち、プレイすると作っているクリエーターの苦労が目に浮かびます。正直、本筋の物語はそれほど面白いとは思いませんが、この徹底的に作品から違和感を取り除き切った姿勢には畏怖の念すら覚えます。
 

最後に

 
終盤に行くにつれスケール感のごまかしが通用しなくなり盛り下がってくる科学アドベンチャーシリーズお馴染みの尻すぼみ感や、本筋に関係ない不必要に思えるシーンが過剰に長いといった欠点もちらほらあります。
 
しかし、前作『カオスヘッド』から見違えるほどの進化を遂げており、科学アドベンチャーシリーズの中ではダントツの最高傑作でした。
 

科学アドベンチャーシリーズ

 

 

 
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