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【小説】ラブコメ形式のSCP財団紹介本 『鏡の国のアイリス SCP Foundation #1』 著者:日日日 〈書評・レビュー・感想〉

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評価:65/100
作品情報
著者 日日日
発売日 2018年9月4日

小説の概要

 
この作品は、ラヴクラフトのクトゥルフ神話のような、『SCP財団』という共通の世界観設定を共有し合うシェアワールドを元にした小説です。
 
SCP財団という世界中の正体不明の物体や生物とされるSCPオブジェクト(漫画の『ハンター×ハンター』で言うと、暗黒大陸由来の危険生物のようなもの)を確保・収容・保護する謎の組織により、オブジェクトの一つとして確保された主人公が、同じくオブジェクトの一つでありながら財団の職員でもあるヒロインのアイリスと同居しながらドタバタ劇を繰り広げるというラブコメ形式となっています。
 
SCP財団という秘密組織や、財団が管理するSCPオブジェクトと呼ばれる謎の存在、主要キャラクターをさらっと紹介するだけの軽い内容でストーリーと呼べるようなものはほとんどなく、シリーズものの一作目といった感じです。
 
主人公は存在感がほぼゼロな上に、ラブコメとしてはなんのひねりもなく、登場するSCPオブジェクトはアイデアが凡庸で面白味に欠けるため、薄味の作品でした。
 

ラブコメ感覚で運営されるSCP財団

 
この小説で最も期待外れだったのが、ホラー要素が薄いことでした。元のSCP財団がホラー強めなので、もちろんハードなホラー展開を期待して読むと、ほぼラブコメ一色な内容に激しく困惑させられます。
 
ラブコメ自体は大好きなので百歩譲ってそこは良いとしても、ラブコメとして取り立てて見るべきところがありません。
 
思春期の主人公が同年代の女の子と同じ部屋で暮らす羽目になり相手を意識してどぎまぎするというありきたりなもので、ラブコメとして何か新しいことをやろうとか、SCP財団とラブコメを絡めるような工夫もなく、この巻のみだと極めて退屈です。
 
ラブコメ要素以外の部分も、物語性の強いクトゥルフ神話と違い、SCPオブジェクトという謎の物体や生物の設定が単体でポツンとあるだけで特にストーリーと呼べるような起伏はありません。個々のSCPオブジェクトにまつわる短編とすら呼べない短い紹介エピソードが矢継ぎ早に語られるだけで、一本の小説としてはほぼ成立していません。
 
前半に出てきたSCPオブジェクトが後半で違う意味を持つなどといった予想外の展開も起こらず、本当に紹介したらそのオブジェクトの話はそれで終わりなため個々のオブジェクトに何の思い入れも生じません。
 
登場するSCPオブジェクトも、無限に使用者の好みのピザが出てくる箱とか、訪れる者を虐殺する無人の遊園地など、いかにも人間が発想したような安易なアイデアが多く、ドラえもんの秘密道具やジョジョのスタンド能力以下で、まったく魅力を感じませんでした。
 
もっと人間の常識や発想の外側に存在するような、本当になんのためにそんなものがこの世に存在するのか到底理解不能な物体や生物、現象が見たいのに、変に人間味がある、人間が使うことを前提としていたり、人間の願望が反映されていたり、人間が面白がれるような現象だったりなものが多く拍子抜けでした。
 
文章も直接は描写されていなくても背景にあるであろう巨大なスケールや、SCPオブジェクトの掴み所のない恐怖を想像させるような深みもディテールの詰め込みもなく、全体的に悪い意味でラノベっぽい簡素さで読んでいて歯応えがありません。
 

最後に

 
SCP財団としてもラブコメとしても中途半端で、この作品独自の味わいのようなものは皆無でした。
 
ヒロインであるアイリスの過去を巡る意味あり気な謎や、主人公の写真の中に入ることが出来るという特殊な能力についての解説などは次作へ投げっ放しで終わるため、この本を一冊読んだだけだとSCP財団に関わる話というより、作りが雑なラブコメのプロローグ部分だけ読まされたという不満しか残りません。
 
 

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