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【ホラー小説】怖さよりもテンポ重視のノンストップスリラー 『リング』 著者:鈴木光司 〈書評・レビュー・感想〉

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評価:85/100
作品情報
著者 鈴木光司
発売日 1991年6月

小説の概要

 
 この小説は、見たら最期一週間後に死が訪れる呪いのビデオの真相に迫るホラーサスペンス小説です。
 
 ホラー映画として傑作である映画版『リング』とは異なり、原作小説はホラー要素が控えめで、どちらかというと呪いのビデオの映像を分析し、山村貞子の手がかりを追っていくタイムリミットサスペンスが主です。
 
 そこに、ジャーナリストの主人公と大学の哲学科非常勤講師である悪友との軽口を叩き合うバディもの要素も加わるため、より怖さは薄れ、サスペンス色が濃いめでした。
 
 全体的に、呪いのビデオというタイムリミットの存在するサスペンス小説としては優秀で、ビデオ映像をヒントに謎を解いていく展開は中毒性があり、ノンストップスリラーとしては傑作です。
 

映画はホラー、原作小説はスリラー

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 この『リング』は映画版を先に見ていたので、てっきりホラー小説なのだと思って読み始めるとまるで怖くないため、良くも悪くも事前の予想を裏切られました。
 
 原作を読むと、映画版は極端にホラーに寄った映像の不気味さと貞子というキャラクターの圧で押し切るという手法(原作小説では貞子はさほど重要な存在ではない)を取っており、かなり大胆に手を加えていることが分かります。
 
 ホラーとしての恐怖表現に全振りしている映画版と、刻一刻とタイムリミットが迫る中、呪いのビデオの謎を説いていく原作小説と、それぞれ異なる方向で完成度が高いため、結果的には二度楽しめました。
 

見たら1週間後に死ぬ呪いのビデオの謎を追い小気味よく展開する貞子探しのストーリー

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 本作の優れた点は何と言っても動機付けから決着の方法までほぼ無駄のない美しいプロットです。
 
 ある日4人の少年少女が別々の場所でほぼ同時に心停止で死亡するという不可解な事件が発生。そこからジャーナリストの主人公が記者としての勘を働かせ不可解な事件性を見抜き、自身も見たら1週間後に死んでしまう呪いのビデオに触れ、問答無用で事件に巻き込まれるという流れに淀みがなく、読み始めると即物語に引き込まれてしまいます。
 
 それに、呪いのビデオという設定の胡散臭さや主人公がオカルトをそこまで信じていないという距離感の取り方がまた絶妙で「1週間後に呪いで死ぬかも。いやそんなバカな話があるか。でも実際4人がほぼ同時刻に一斉に心停止で死亡するという不可解な死に方をしているし。でも見たら死ぬ呪いのビデオって一体なんだよ……」という、本当に自分は1週間後に死ぬのかどうか本当のところはハッキリせず、ふわふわした状態で時間だけが確実に過ぎていくという緊張感はたまりません。
 
 この何一つ確定したものがないグラグラする不安定さは、サスペンス小説としては最高で、主人公をオカルトに対し懐疑的なスタンスにしたのは大正解だと思います。
 
 ただ、唯一どうしても我慢できない不満は神様視点になる箇所が多く、その度に誰の視点なのか混乱することです。感情移入させてグイグイ引っ張り続ける話だけに、出会ってまもない相手が何を考えているのか当たり前のように描写されるのはサスペンス小説としての緊張感が削ぐだけなのでこれはさすがにやめて欲しかったです。
 
 それ以外も、終盤探し求めていた人物と偶然出会うなど、ややご都合主義展開が増え出すのは若干気になりますが、それでもこれがベストセラーになるのも大納得の中毒性で、古さをあまり感じさせず最後まで読ませ切る圧倒的なストーリーの推進力があります。
 

最後に

 
 映画版のような恐怖で追い詰めるのではなく、先が気になるストーリーで引っ張るスリラー色が強く、ホラー小説を期待して読むと肩透かしを喰らいます。
 
 しかし、ホラー要素の強いサスペンス小説としては無類の面白さのため、こちらも映画に負けず劣らず傑作でした。
 
 

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