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【アート】なぜルネサンスは古代ギリシア・ローマの夢を見たのか? 『ルネサンス -歴史と芸術の物語-』 著者:池上英洋 〈書評・レビュー・感想〉

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本の情報
著者 池上英洋
出版日 2012年6月15日

本の概要

 
 この本は、14~16世紀にイタリアから西ヨーロッパに拡大した古代ギリシア・ローマ文化の復興運動であるルネサンスについて、芸術ではなく当時の政治や経済的事情から、なぜそもそもイタリアでルネサンスが始まったのか、その謎を解き明かします。
 
 聖地エルサレムの奪還のため十字軍の遠征が始まったことにより、そのルート上に位置したイタリアにどれだけ莫大な金が落ちたのか。
 
 十字軍によりもたらされた、イスラム世界に保存される古代ギリシア・ローマ文化との再会がイタリアにどのような影響をもたらしたのか。
 
 そして大航海時代に移ると、経済の中心は地中海から大西洋に移り、西ヨーロッパにおけるイタリアの影響力が弱まりルネサンスが終わりを迎える、という一連の流れを分かりやすく解説しており、一読しただけでルネサンス時代への理解が深まります。
 
 あえて芸術ではなく政治や経済を中心にルネサンスを語ることで、ルネサンスとはそもそも十字軍の遠征によってもたらされた好景気と、好景気で力を蓄えた有力な市民層を中心に起こった、かつてギリシアやローマに存在した共和制へと回帰しようとする運動という側面が際立ち、ルネサンスに対する漠然とした疑問が払拭される一冊でした。
 

芸術ではなく政治や経済で迫るルネサンスの姿

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 この本最大の見所は、ルネサンスという芸術のイメージが強い時代を美術史で俯瞰ふかんするのではなく、十字軍の遠征によってもたらされた好景気に沸く時代として読み解いていく切り口です。
 
 美術作品というルネサンスにおける“結果”ではなく、なぜそもそもイタリアで古代ギリシア・ローマ文化が再発見され、反中世の流れが発生したのか、その原因を十字軍の遠征によって生じた経済活動の劇的な変化とそれが政治にもたらした影響に焦点を絞って解説してくれるため、ルネサンスの“原因”が手に取るように理解できます。
 
 このルネサンスの主役である芸術をあえて脇にどけ、脇役の地味な政治や経済を中心に解説するという回り道のおかげで、むしろ個々の芸術作品の背景が読めるようになり、ルネサンスという時代への印象も確実に変わりました。
 
 特に印象的だったのは、なぜルネサンスは古代ギリシアや古代ローマ文化を復興しようとしたのかという動機部分です。前からどうしてルネサンスは様々な文化がある中でこの二つの時代が中心なのかずっと疑問でした。
 
 しかし、この本を読むと好景気に沸くイタリアの各都市では市民層が力を付け君主やローマ教会が支配者として君臨する現状に対し反発を抱き、かつてギリシアやローマに存在した市民が政治を行う共和制に対して強い憧れを持つようになり、この二つの時代を復興しようという運動が起こったと説明されるため、あっさりと腑に落ちました。
 
 これまで何冊か美術史に関する本を読みましたが、このように政治からアプローチしている本が無かったため、共和制があった時代だから当時のイタリアの各都市が古代ギリシア・ローマの二つの時代に憧れたのだとようやく合点がいきました。
 

経済とアートの関係

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 ルネサンスという古代ギリシア・ローマ文化の復興運動が十字軍の遠征によってもたらされた好景気や金融革命にあると分かると、次に浮かぶ疑問はやはり金がアートに与える影響です。
 
 アートに興味を持ちアートを勉強すると絶対に付いて回るのが金の話で、このルネサンスという時代も知れば知るほど経済的な成長とアートの隆盛が完全に重なった例であり、金とアートの関係性を知る上で貴重な時代だと思います。
 
 『コレクションと資本主義』という本でも、経済成長と絵画が取引されるマーケットの移動が一致しているという記述があり、資本主義とアートには密接な関係があると解説されています。
 

 
 この本でも、それまでは発言権を持たなかった市民が好景気で力を付けると芸術家に作品を注文するパトロンとなり、それまでの権力者とは異なるより身近なモチーフが流行るとあり、パトロンとなる層の教養やセンスが芸術に様々な影響を与えることが見て取れます。
 
 アートがその時代の文化水準のバロメーターで、経済はアートの起爆剤なのだとすると、ルネサンスとは様々なピースが噛み合って大爆発した時期であり、このルネサンスという状態を人為的に起こせれば今の日本にもプラスの影響を与えられるのにと夢想してしまいました。
 

最後に

 
 ルネサンスという芸術の時代を芸術ではなく政治や経済という側面から読み解くという切り口が非常に斬新で、長年引っかかっていたルネサンスに対するいくつかの疑問が解けました。
 
 少し前に十字軍の時代に絶大な影響力を誇ったテンプル騎士団に関する本を読んでいたため、十字軍からルネサンスに至る流れがすんなり理解できたのも幸運でした。
 
 改めてルネサンスとはどのような角度から切り込んでも何かしら発見のある奥の深い時代なことが分かり、この本を読むとますますルネサンスについて知りたくなります。
 
 

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