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エコロジストの若者vsエゴイストの大人による戦争 「ラグナロク シーズン1」 Netflixドラマ 〈レビュー・感想〉

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トレーラー

評価:80/100
作品情報
配信日 2020年1月31日
話数 全6話
ノルウェー
映像配信サービス ネットフリックス

短評

 
 北欧神話のラグナロクをノルウェーの豊かな自然を守るため立ち上がる若者と、自然を破壊する大人や企業・権力との対立に置き換えて描くというアイデアが秀逸。
 
 ただ、全体的に脚本がガタガタな影響で、登場人物の言動がツッコミどころだらけという致命的な欠陥があり、一本の作品としてはいびつな出来映え。
 
 それでも主人公が神の力に目覚め超人として覚醒していく様を学園ドラマと平行して描くというストーリーは非常に日本の漫画チックで馴染みやすく、ノルウェーの雄大な景観も自然を守るために大人たちに反抗するというテーマ性を際立たせるなど、この作品でないと味わえない確固たる魅力がある。
 
 ノルウェーが世界に向けて作るドラマとしてはエコロジカルなメッセージ性や北欧神話と青春ドラマを融合させるアイデア、絶景を前面に押す姿勢など、ノルウェーらしさを隠さないしたたかさも好感が持てる。
 

ラグナロクを環境問題の寓話として現代に蘇らせる賢いアイデア

 
 本作は、ノルウェーの田舎町エッダに転校してきた主人公マグネが北欧神話の神である雷神トールとして覚醒し超人的な能力に目覚め、この町を支配するヨトゥンヘイムの巨人族であるヨツール家と対峙するという青春ドラマです。
 
 北欧神話のラグナロクをモチーフにしているものの、同じく北欧神話の雷神トールが登場する『アベンジャーズ(マイティ・ソー)』のようなアクションを主体とするものではなく、あくまで青春ドラマのオマケのような扱いで、CGで神と巨人の戦いをど派手に見せるといった方向性ではありません。
 
 この作品を見て真っ先に心惹かれたのは、このラグナロクという設定を環境問題に対して積極的な若者vs無関心な大人という現代らしい構図に置き換え寓話化して描くというアイデアでした。
 
 敵であるヨトゥンヘイムの巨人族はラグナロクで神々を滅ぼした後、そのまま人間社会に溶け込み企業を経営。ノルウェーの田舎町に公害を撒き散らし、それを神として覚醒した主人公が自然を守るために立ち上がるという、ラグナロクを環境問題に対する若者vs大人の話に大胆に置き換えるセンスは見事です。
 
 主人公が神として覚醒し超人的な能力に目覚めつつ、公害による自然破壊の深刻さを学び、最後は公害の元凶である企業と、その企業を経営する宿敵の巨人族、さらにその企業にへこへこして公害問題を見て見ぬふりをする町の大人たちの事なかれ主義な態度に反逆する話に集約されるという構造は美しさすら感じます。
 
 ありがちな学園ドラマに北欧神話のスケールを加えることで面白味が増し、環境問題についてマジメに考えようという堅いメッセージ性も神vs巨人族という構図を間に入れることでいい塩梅に中和され、ドラマとして面白いしきちんとメッセージもあるというエンタメ作品としては理想に近い形に落ち着いていると思います。
 
 ドラマを見ることで、若者は生活のために自然を破壊することに何の疑問も持たない大人に不満を覚え、大人は利益のために環境を破壊しそのツケを子供たちの世代に払わせようとする態度を反省させられと、子供が見ても大人が見ても大丈夫な作りとなっており、この企画を考えた人は頭が良いなと感心させられました。
 

ノルウェーの強みや懐の深さを生かすドラマ作り

 
 本作の、神話を現代の問題に置き換えるというアイデアだけだったら世界中の創作物で当たり前のように行われており、そこまでインパクトはありません(そもそも『アメリカンゴッズ』という古い神々vs新時代の神々というかなり似たようなアプローチのアメリカドラマがすでにある)。
 

 
 このドラマが面白いのは、国外の人間がノルウェーという国へ持つイメージに逆らわず最大限利用しようという戦略の確かさです。
 
 日本で言ったら、富士山を出して京都が舞台で寿司と天ぷらに舌鼓を打ちながら、芸者や侍、忍者を出すような満漢全席スタイルで、ノルウェーらしい、フィヨルドがある町を舞台にした北欧神話の話で、北欧らしいエコロジカルなメッセージ性や美しい自然の景色をこれでもかと披露するという「こういうノルウェーが見たいんでしょ?」というおもてなし精神が満載で、見ると確実にノルウェーが好きになります
 
 北欧神話要素も、多分アベンジャーズのソー人気もそのまま利用してやろうという計画で、「ほらあのアベンジャーズに出てくるソーと同じ神様だよ」といったような気さくな感じで、変に反発しない余裕が大人だなと思いました。プライドが高いクリエーターならアベンジャーズシリーズに真正面から喧嘩を売るような作り方をしそうなものなのに、アベンジャーズで北欧神話に興味を持ったのならそれを一切否定せず、興味を持ってくれただけで嬉しいという態度が先進的な北欧らしさと重なります。
 

そんな素晴らしいドラマを引っ掻き回す神出鬼没な社長

 
 このドラマを見ると、北欧神話の話を環境問題に置き換えるというコンセプトは面白く、主人公が徐々に神の力に目覚めていくという設定もワクワクするし、舞台となるエッダという町の雄大な自然の風景もあらゆるドラマの中でもトップクラスなほど美しく、ノルウェードラマはこんなに質が高いのかと驚かされます。
 
 ただ、最大の問題はどうしようもないほどガタガタでユルユルな完成度の低い脚本です。その欠陥がもろに出ているのが、宿敵である巨人族が人間に化けた姿であるヨツール家の描かれ方の雑さです。
 
 エッダという町はヨツール家が経営する企業の城下町で、この町では支配者であるヨツール家に対して逆らうことが許されず、ヨツール家への批判は全て圧力で潰されるという設定ですが、その見せ方があまりにもヘタすぎてツッコミどころしかありません。
 
 ヨツール家は大きな屋敷に住んでいるわりに使用人もおらず、細々とした家の雑事や、巨人族にとって宿敵である神かもしれない主人公を監視する役目も全て社長のヴィダルがこなすため、エッダを裏で操る権力者としての風格が感じられません。
 
 社長であるヴィダルが毎回エッダの町で主人公の行く先々に出没するため、この社長は毎日どれだけ暇なのかと思うほど存在が軽く、ボスなのに下っ端感が漂い、途中からコメディに見えてきます。主人公が学校の行事で登山に行くと、その山を登った先の目的地にすでに社長がいて料理を作っているという、主人公が通う学校の行事まで付きまとう様はさながらストーカーで、ここはさすがにバカすぎて笑いました。
 
 その他にも、一話で発見されたヨツール家にとって生命線である秘密の洞窟をその後も丸見えの状態で放置していたり、目撃されるとヨツール家にとって不利となる証拠を船に積み込む作業が完全に町から丸見えの港で白昼に堂々と行われていたり、100年以上も生きているのにいきなりクラスメイトの女の子に真剣に恋をして一族を裏切ろうとしたりと、ただのマヌケにしか見えないため、まったく脅威の存在には見えません。
 
 それに、ヨツール家のバレバレな不正にエッダの町の住人が気付かないという無理のある設定を成立させるため、おもいっきり住人の知能指数を下げることで帳尻合わせをしており、そのせいでドラマに登場する大人はほぼ全員ただのバカにしか見えません。子供が普通に気付く疑問に大人がまったく気付かないので、最初は町の住人がヨツール家に洗脳されているのかと思ったら本当にただバカなだけなので呆れました。
 
 ただ、ヨツール家が何かある度に律儀に家族会議を開いて現状報告をしあったり、突然夫婦や兄妹同士で殴り合いの家族喧嘩を始めたりと、ギャグなのか巨人族の異常性を表現しているのか曖昧な珍行動を繰り返す様は本作の味としても機能しており嫌いにはなれません。
 
 ここまで脚本がメチャクチャのネットフリックスドラマも珍しく、あまりにも突き抜けているためもはやコメディとして楽しめ、これはこれで面白いです。
 

最後に

 
 アメリカンゴッズとまったく同じで、神々同士が本格的にぶつかるのはシーズン2に持ち越して終わるため、このシーズンはプロローグだけで終わります。
 
 終始脚本の作り込みの甘さが足を引っ張るものの、それでも主人公マグネ役のデイヴィッド・スタクストンは体格的に貫禄があるだけでなく、朴訥ぼくとつさの中に繊細な思いやりも見え隠れさせるという高度な演技をこなしており、最後までこのキャラクターを見ていたいと思わせるだけの魅力がありました。
 
 主人公が神の力に目覚めていく過程も、基本は日常生活に馴染ませるように派手さを抑えシンプルな描写だけで表現しつつ、感情が爆発するここぞという見せ場はカタルシス全開でど派手に見せるというメリハリも効いており、映像面は確かなこだわりを感じさせてくれます。
 
 ダメな部分はとことんダメですが、それを上回るこのドラマでないと味わえない独自性があり、最終的には愛おしさが勝ります。