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【steam】爽快すぎる超能力シューター |『Quantum Break(クォンタムブレイク)』| レビュー 感想 評価

トレーラー

評価:75/100
作品情報
ジャンル TPS
発売日(日本国内) 2016年4月7日
開発(デベロッパー) Remedy Entertainment
開発国 フィンランド
ゲームエンジン Northlight Engine

ゲームの概要

 
このゲームは、名作『アランウェイク』を作ったフィンランドのメーカーRemedyが制作したリニア型のTPSです。
 
時間操作能力を駆使して戦うシューターパートは独自の爽快感がありますが、同社の過去作『アランウェイク』と同様、ゲーム性よりかは物語を重視する姿勢で、ゲームとしてはやや薄味です。
 
ゲーム内に実写ドラマパートを挟むという野心的な試みや、タイムトラベルを主軸としたストーリーなど、特徴は数多くあるものの、どれも全体的に作りが浅くもう一押しが足りない惜しい作品でした。
 

シューターとしては上々、アクションアドベンチャーとしては並

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本作は、謎解きを挟みながらもひたすら一本道を進み続ける作りや、ドラマを意識したストーリーの構成、後に主人公が体験する出来事をやや手前で漏らしてしまうストーリーテリングなど、『アランウェイク』を踏襲していると思われる箇所が散見されます。
 
メインのシステムは大きく分けて二つで、時間を操れる主人公が様々な種類のスローモーション(全体をスローにしたり、限定空間だけスローにしたり)を駆使する爽快感のあるシューティングパート。
 
そして、その能力を駆使してマップのギミックに働きかけ道を切り拓くアドベンチャーパートです。
 
まず、謎解きをさせられるアドベンチャーパートはイマイチでした。
 
戦闘中に用いる能力を能動的に使い解いていく謎解き部分はいいのですが、イベントが発生する箇所に近づきただ特定のボタンを押すと勝手に進行するような箇所は退屈です。
 
例えば、TMD(タイム・マニピュレーション・デバイス)という時空操作装置を用いて時間を操作するという似たようなコンセプトを持つ『シンギュラリティ』は、敵の時間を進めエイジング(老化)で即死させるといったことが可能な戦闘部分と、ギミックの時間を進めて物体を腐敗させ破壊したり、逆に時間を巻き戻して元の状態に復元したりといった謎解き部分を連動させています。
 
なのに、本作はこの戦闘中に使う能力と謎解きが綺麗に連動しておらず、とりあえず指示されたボタンを押したら勝手にその場に即した現象が起こるだけで、能動的に謎を解いて先に進めたという達成感がありません。
 
時間を操る能力といういかにも謎解き向けコンセプトのゲームなのに、この程度の最低限のルールすら守れておらず、アドベンチャーパートはまるで印象に残りませんでした。
 
逆に様々な時間を操る能力を駆使して戦うアクションパートは他のゲームでは味わえない確かな手応えがありました。
 
特に敵の動きをスローにする『デッドスペース』のステイシスのような能力とは異なり、指定した空間ごと時の流れを止めることでコチラ側が撃った大量の銃弾も空中に静止し時間の流れが元に戻った瞬間静止していた弾丸が雨あられのごとく一気に敵に浴びせられるという能力は気持ちよくて癖になります。
 
基本のアクション以外にも無時間状態での戦闘では倒した敵が地面に倒れるのではなく、死体となって空中に静止するため、そこら中に敵の死体が静止状態で浮いているというあまり見たことがない絵面が拝め新鮮です。
 
時間を操作する能力を用いるシステムだけでなく、それをどう斬新なビジュアルで見せるのかという手法にまでこだわりが感じられます。
 
 

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ブライトフォールズには勝てなかったモナークソリューションズ

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本作はシューターとしては上々な出来なのに、敵のバリエーションが極端に少ないことや、そもそも主人公の前に立ちはだかる“モナークソリューションズ”という敵組織のキャラが薄すぎるなど、若干シューティング周りとはズレた部分に看過できない欠点が多くあります。
 
特に気になったのは敵組織であるモナークソリューションズのあまりの存在感の薄さです。
 
どこにいてもうじゃうじゃ湧くだけでモナーク社の戦闘部隊と戦うということに別段ゲーム的なドラマもなく、ただ機械的に銃撃戦をしているだけでちっとも盛り上がりません。
 
『アランウェイク』では舞台となる、もろにドラマ『ツインピークス』風のブライトフォールズという田舎の村のキャラが立っており、ゲームプレイに彩りを添えていました。
 
今作でブライトフォールズ的な役割を果たすのは舞台ではなく敵対組織のモナークのはずなのに、この組織のキャラクター化が弱くゲームプレイが退屈です。
 
これは多分モナーク社に血を通わせるプロセスを実写パートに丸投げし、ゲームパートで魅力を引き立てる工夫を怠っているためだと思われます。
 
実写パートは主人公視点ではなく、モナーク社の内部事情を補完するような作りになっていますが、映像作品としてはせいぜいドラマ以上映画未満くらいの出来で、正直ゲームパートと違和感なく仕上げている以上の感想を抱くほど単体で魅力がありません。
 
しかも毎回25分ほど続くため尺の長さにダレ気味で、ゲームテンポを殺しています。ではこの実写パートで劇的にモナーク社の存在感が増すかと言ったらそんなことは一切ありません。
 
これは、モナークソリューションズという企業に対してプレーヤーが何かしらの印象を抱く前にすでに企業としては黄昏た段階から話が始まってしまう設定上の不備もあります。
 
かなり序盤からモナーク内部に裏切り者がいたり、モナーク社に対して不信感を抱く社員がいたりと、最初に一枚岩の組織として見せてからそれを徐々に崩していくといった丁寧なプロセスを踏んでくれず、いきなり足元がグラグラで脇が甘い脆弱な組織にしか見えないため、あまりゲームパートでも脅威的な対象に感じません。
 
このモナーク社くらいしか敵がいないのに、その肝心の相手は頼りがいがないという問題は深刻で、『アランウェイク』ではしっかりで出せていた緊張感がごっそり消失しており、ゲームプレイがやや弛緩気味でした。
 

辻褄合わせに終始する地味なタイムトラベルもの

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本作のストーリーは、不完全なタイムマシンを作動させたせいで時間が壊れてしまい、世界が徐々に崩壊していくのを阻止するため過去や未来へタイムトラベルする、という内容です。
 
しかし、劇中でもちょろっと触れられる様に、手法としてはノヴィコフの首尾一貫の原則という、過去にタイムスリップして何かをやろうとしても結局タイムパラドックスを起こす様な行動はできないというタイプの辻褄合わせ系タイムトラベルものなので、映像的には派手ですが、わりと体感としては地味でした。
 
 
映画で言うと『プライマー』や『タイムクライムス』、『プリデスティネーション』といったタイプのタイムトラベルものが近く、例えば序盤に起こった不可解な現象は実は未来からやってきた自分が起こしたものだったことが後で分かる、などの前半起こったことの辻褄合わせをしていくタイプです。
 
とは言っても、アメリカドラマ『宇宙大作戦(スタートレック)』の『危険な過去への旅』のような、助けたい人がいるのに助けてしまうとタイムパラドックスが起こるからどうすることもできないという苦悩を描くなど、このタイプならではの魅力も堪能でき終わってみると印象は上々でした。
 

最後に

 
クリアまで約10時間ほど。  
 
ローカライズが不完全でところどころ内容理解に支障が出る箇所があったり、『アランウェイク』同様システム部分の作り込みが浅すぎて終始物足りなさを覚えたりと、欠点はそこそこ多めです。
 
ただ、それ以外の部分は高度な創作哲学が貫かれた力作中の力作なため、作り手の創作への熱意が堪能でき、かつゲームとしての最先端の試みに触れられ刺激的でした。
 
 

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