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【ビジネス書】新しいビジネスの常識、プロトタイピング |『プロトタイプシティ -深センと世界的イノベーション-』| 高須正和 高口康太 | 書評 レビュー 感想

本の情報
著者 高須正和・高口康太
出版日 2020年7月31日
難易度 普通
オススメ度 ☆☆

本の概要

 
この本は、プロトタイピングというビジネス手法と中国の深センの関係について語られるビジネス書です。
 
プロトタイピングという、元はソフトウェア開発方法の一つだった、早期にプロトタイプモデルを作りユーザーからのフィードバックを取り入れながら発展させていくという手法が最先端のビジネスでは常識となり、そのプロトタイピング型のビジネスに世界で最も適応した場所が中国の深センであるという解説がされます。
 
プロトタイピングビジネスや深センについて全5章で解説されますが、1章から5章まで別々の人物が書いているせいで全ての章でイチイチ説明が重複していたり、ほぼ同じ意味なのに章ごとに違う用語が使われたりと、まとまりがある本ではありません。
 
しかし、プロトタイピングというビジネスモデルが世界的には常識であるのに日本ではまったく知られていない現状への注意喚起や、なぜ深センはプロトタイピングに特化した街へと進化できたのかなど、この本を読むだけでビジネスへの意識が塗り替えられるため、読んで損はありません。
 

連続型のビジネスから非連続型のビジネスへの変化

 
まずこの本を読んで気付いたのが、ホリエモンの『多動力』という本について完全に誤読をしていたことです。
 

 
『多動力』を読んだ際は、昔に比べ最新トレンドの移り変わる速度が速くなったため、いつまで存在するか分からないビジネスに固執するよりビジネスは数打ちゃ当たるという考え方にシフトするべきという程度の認識でした。
 
しかし、この本を読むとホリエモンが言いたかったのは連続型の価値創造から非連続型の価値創造へと時代が変化したため、もう従来のやり方では新時代に通用しないという主張であることがようやく理解できました。
 
この本の中では、連続型の価値創造とは、少しずつノウハウを蓄積し長期的に特定の製品やサービスを育てていくやり方で、インテルが世界最高クラスの性能のCPUを作り続けることや、マイクロソフトが最新のWindows OSを作り続けることなど、大企業が独自のノウハウを長い年月をかけて徐々に積み上げていくようなビジネスとして紹介されています。
 
それに対し、非連続型の価値創造とは、アップルがiPhoneによってスマホというまったく新しいニーズを生み出すことや、フェイスブックのような革新的なSNSを立ち上げる、ウーバーイーツのような新しいサービスを思い付くといった、それまでに存在しなかった新しいビジネスモデルをテクノロジーの組み合わせなどで偶発的に生み出すやり方で、世界中のビジネスはこちらに移行しており、最もその傾向が顕著なのが中国の深センというのがこの本の主旨です。
 
なぜ世界中のビジネスが連続型の価値創造から非連続型へ急激に移行したのかというと、大きな要因は社会全体がアナログからデジタルへ移行したため、あらゆる製品やサービスがネットで無料公開されている修正や配布が自由なオープンソースコードコピー可能なもの)の恩恵を受ける結果となり、独自のノウハウを積み上げることに意味がなくなったこととこの本では書かれています。
 
これはゲームで考えると分かりやすく、あらゆるゲームが高性能なゲームエンジンを採用することで、どのゲームもグラフィックが急激にキレイになり完全に横並びになるようなものです。
 
あらゆる製品やプログラムがネットでほぼ無料で手に入るオープンソースによって急激に高性能化するため、もはや世界トップクラスの大企業でもない限り独自のノウハウを蓄積する戦い方では勝負にならず、新しい時代のビジネスは技術力ではなくアイデア力で戦うしかないというのがこの本の考え方です。
 
そしてアイデアで戦うビジネスにおいて有効なのが、早急にプロトタイプ(試作品)を作りそれをユーザーに提供し、フィードバックを受けながら徐々に改良・発展させていくというプロトタイピングの考え方で、中国の深センはこの機能が世界で最も発展しているというのがこの本の最大の主張です。
 
深センはハードウェア・ソフトウェア限らず、プロトタイプを作るに当たってはどんな細かいパーツでも小ロットからの製造が容易で、そのため世界中からプロトタイピングのビジネスを実践する人が集まり、世界最大の“プロトタイプシティ”として発展したとこの本では書かれています。
 
ホリエモンが『多動力』で言いたかったのもこのプロトタイピングのことで、同じすし屋で10年も修行するくらいならあらゆるすしビジネスを試しまくってどこに隠れた需要があるのか足を使って探せ、10年後にただ美味しいすしを握れるだけでビジネスが成立する保証はないという考え方なのだと分かります。
 
すしでいうと美味しいすしの握り方の情報がオープンソースに当たり、これがネットでテキストや動画として世界中に拡散されるので、美味しいすしの握り方なんで誰でもネットで知ることが出来る時代にそんなものを後生大事にありがたがっていても無駄というのがプロトタイピングの考え方です。
 
この本を読むと従来の連続型のビジネスを志向している人と、新しい非連続型のビジネスであるプロトタイピングを実践している人が一目で見分けられるようになるため、世の中の見え方が確実に変わります
 

オンラインゲームやソーシャルゲーム、Steamの早期アクセスゲームなど、実は世の中にはプロトタイピング志向のサービスが溢れかえっていることにも気付けます

全てがプロトタイピングで繋がる快感

 
この本を読んで最も快感だったのが、かつて色々な本で書かれていたことが全てプロトタイピングの解釈で理解できるようになったことです。
 
ホリエモンの『多動力』はじめ、工業デザイナーの奥山清行さんの日本のもの作りは大量生産ばかり考えて少量生産が出来ない、だから失敗しない無難なアイデアしか通らず革新的なデザインは一切採用されないなど、様々な人の発言がプロトタイピングの考え方で繋がるため、これまで読んだ本の理解がより深まるという副次効果がありました。
 

 
色々な分野で最前線を走る人は多かれ少なかれこのプロトタイピング的な考え方を意識的・無意識的に実践しており、プロトタイピングを理解するとそのような人物を見分けられるようになります。
 
それに、この本を読んで最も意外だったのが、日本の連載マンガのスタイルは、実はプロトタイピングに近いという意見です。
 
実力が未知数の若手の漫画家にとにかくマンガを描かせ、読者のアンケートや反応をフィードバックし実践形式で画力や物語の構成力を鍛えていくというやり方はプロトタイピングの考え方と似ており、それゆえ日本のマンガは世界で通じる名作をコンスタントに生み出せるという考え方は斬新でした。
 
それに、YouTubeも色々な動画を手当たり次第に投稿しては視聴者の反応や再生回数を分析し、最も手応えがある方向に改良していく人が伸びるなど、プロトタイピング的なものはすでに世の中に当たり前に存在しており、どれがプロトタイピングの発想で作られているのか明確に理解できるようになることもこの本を読むメリットだと思います。
 
加えて、プロトタイピングの考え方が日本に広がった場合、日本全体が失敗することは当然であり、むしろ失敗することは挑戦の証であり安全第一で失敗しない人より失敗した人がたくさんいるほうが社会にとって有益であるという考え方が定着し、日本が失敗に寛容なより良い方向に進むことも期待できます。
 

最後に

 
中国の深センがなぜ急成長を遂げたのかという話がメインの本ですが、個人的にそこはオマケで、プロトタイピングという新時代のビジネスの在り方を学べたことが最も有意義でした。
 
プロトタイピングを知ることで世の中の見え方がガラッと変わるため、読んで絶対に損はありません。
 
 

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