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【劇場アニメ】STUDIO 4℃が贈る他人の夢の尻ぬぐい戦記 |『映画 えんとつ町のプペル』| レビュー 感想 評価

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トレーラー

評価:70/100
作品情報
公開日 2020年12月25日
上映時間 101分
アニメ制作会社 STUDIO 4℃

アニメの概要

 
この作品は、お笑い芸人であるキングコングの西野亮廣さん自身が描いた絵本をアニメ制作会社STUDIO 4℃が映画化した劇場用CGアニメです。
 
原作の絵本は未読です。
 
STUDIO 4℃が制作する劇場用アニメとしては漫画『ベルセルク』の黄金時代篇三部作の映画版と同様CGアニメで、『スプリガン』や『マインドゲーム』のような手描きのアニメではなくCGアニメです。
 

『ベルセルク』は新しいTVアニメ版と記憶がごっちゃになっていました

 
西野さん自身が書いた脚本は邦画の典型的な説教くさい感動押し付けストーリーをなぞっただけのもので魅力は皆無ですが、STUDIO 4℃が脚本の欠陥を高い技術力と演出力でカバーしており、CGアニメとしてはそこまで悪くない作品でした。
 
芸能人が書いた出来損ないの脚本をSTUDIO 4℃がひたすら御用聞きに徹してそこそこ見ることが出来るアニメ映画に仕上げるという茶番そのもので、キングコングの西野さんに興味が無いのであれば見る価値は特にありません。
 

プロとしてのプライドをぐっと呑みこんだSTUDIO 4℃

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このアニメは、見る前はプラスでもマイナスでも自分の中で西野さん要素に対して激烈に評価が別れると思っていたら意外にも可もなく不可もない毒にも薬にもならない凡作止まりで、そこは完全に肩透かしでした。
 
良くも悪くもSTUDIO 4℃が西野さん成分を映像のクオリティで誤魔化そうと頑張り過ぎて、結果的に粗製濫造される感動(笑)を売りにする邦画群と大して変わらず、この作品独自の味がほとんどしません。
 
本作の最大の魅力であろうえんとつ町は、そこに人の営みがあるという生活感は皆無で、町は全体的にキレイなテクスチャーを張っただけのハリボテ以上に感じられず、背景の情報密度のわりになんの印象にも残りませんでした。
 
それに、わざわざえんとつ町と言っているのにえんとつを官能的に描けない時点でもうダメだろうと思います。
 

同じえんとつでも、これなら映画『ブレードランナー』の冒頭に映るロサンゼルスのガスフレアを吐くえんとつ群のほうが絵的に100倍ゾクゾクします

 
それ以外も、時間の経過で腐るお金が流通する町という特殊な設定なのに、具体的な経済活動はまったく描かれず、そもそも時間で腐るお金が通常のお金よりも経済をより循環させるという主張の割にえんとつ町の人々の生活は貧しそうで、結局何が言いたいのかさっぱり分かりません
 

そもそも電子マネーの時代に腐るお金という設定が古くさくてしっくりきませんでした

 
この時間経過で腐るお金という設定を入れるなら、このえんとつ町の住人の経済観が通常とは異なる様を丁寧に描かないといけないのにそこが抜け落ちており設定の存在自体が謎です。
 
くわえて、お笑い芸人が作る映画にありがちな登場人物がいつまでもベラベラしゃべり続ける、何もかもセリフで説明しようとする下品さは他の作品と変わらず、感動させようとしているのに脚本に不備が多くノイズだらけで泣くに泣けません。
 
自分は涙腺がゆるいのでプペルで泣いてもよかったのに、音楽の力業でウルッとした程度で最後まで泣くことはありませんでした。
 
せめて、主人公のルビッチが父親が死んだことを頑なに認めなかったのに最後はそれを受け入れ、母親と共に一歩を踏み出すというようなオチにしていれば確実に泣いていました。
 
全体的に脚本は推敲すいこう不足でこだわりがまるで足りておらず、良い部分はSTUDIO 4℃の功績なため、もしSTUDIO 4℃が制作でなければもっともっと悲惨な出来になっていたと思います。
 
映画の途中で突然画面がダッチアングルになり不自然なまでに画面が傾くことに「なんだコレ?」と思ったらしっかり演出意図があるなど、セリフではなく映像で語る場面もちょこちょこあるため、キチンと映像を読まないといけないという緊張感は持続し、STUDIO 4℃のおかげで退屈に感じる瞬間は特にありませんでした。
 

オタキングからの的確なアドバイス

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プペル関連で個人的に最も面白かったのが元ガイナックスの社長であり、西野さんとも面識のあった岡田斗司夫さんが、プペルを一切見もせずプペルの問題点を的確に指摘していたことです。
 
 

 
岡田さんの主張は
 
・ただの感動ポルノでしかない
・主人公がやろうとすることに対して作品内に反論が込められておらず思想性が浅い
 
それに、この動画とは別に過去西野さんに対して、読者を感動させようとするな、自分の汚い部分を作品内で徹底的に晒して自分自身の本音をぶちまけろといった感じのアドバイスもしており、どれもこれもプペルという作品への指摘としても、絵本作家西野さんへの助言としても完璧だと思います。
 
なぜ岡田さんがプペルのアニメ版を一度も見ずにここまで的確なアドバイスが出来たのかというと凄く簡単で、プペルのやろうとしていることを徹底的に突き詰めるとガイナックスが作った劇場アニメ『王立宇宙軍 オネアミスの翼』になるから。
 
誰もが夢物語だと思っていた困難な偉業を世界で初めて成し遂げた人間の話という点においてオネアミスとプペルはまったく同じ話なので、プペルよりも遙かに高度なアプローチのオネアミスを作った岡田さんならプペルへのアドバイスなど朝飯前だと簡単に分かります(しかもオネアミスを作っていたのは岡田さんが20代の頃)。
 
オネアミスは作り手が自分たちを一切甘やかさず高い高いハードルを設けそれを越えていくという、作中の人物たちの行動と作り手の環境をリンクさせるという非常に困難かつ高度な手法を取っており、日本のアニメ史に残る大傑作中の大傑作で、プペル的な作品の究極系だと思います。
 
子供の頃にオネアミスを見てロケットに興味を持ち今ではビジネスとしてロケット開発に取り込むホリエモンがプペルを見て感動したというのも、オネアミスとプペルが構造としては似た話だからと考えると簡単で、この作品外の色々な人の繋がりがヘタをすると本編より面白く感じました。
 
 

最後に

 
この映画はそこまで悪くはありませんが、ハッキリ言ってプペルを見るくらいならプペルの究極完成版であるオネアミスを見たほうが100倍面白いです。
 
西野さんはTVでスポンサーに細かい口を出されることを嫌い、自分がファンとダイレクトに繋がりそこから収入を得ることで誰にも指示されず、やりたいことを自分の裁量で自由にやるという意志で行動するなど、その生き方や考え方には好意を抱いていますが、こと映画のプペルに関しては明確な実力不足で、やる気や情熱が空回りしていると思います。
 
もっと場数を踏めば今より完成度が高い作品を作ることも可能だと思うので今後に期待といったところです。
 

STUDIO 4℃だけは最低限しっかり仕事をこなしています

 

 

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