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【お金・FIRE】FIRE、それは消費中毒の解毒剤 |『FIRE(ファイア)を目指せ』| スコット・リーケンズ | 感想 レビュー 書評

本の情報
著者 スコット・リーケンズ
出版日 2021年12月16日
難易度 易しい
オススメ度

本の概要

 
この本は、アメリカのドキュメンタリー作家がFIREファイア(Financial Independence Retire Early)(経済的自立と早期リタイア)について自身の体験談を綴ったエッセイです。
 

簡単に言うと、投資で一生分の資産を作って若いうちにさっさと引退しようというムーブメントです

 
作者はドキュメンタリー作家のため、メインはFIREに関するドキュメンタリー映画で、このエッセイはその補足や撮影舞台裏のような内容です。そのためFIREの本格的なやり方について書かれた書籍ではありません。
 
しかもドキュメンタリー映画はFIREを目指す最初の1年間作者夫婦の生活を追うという内容なため、エッセイもFIREを達成した人の体験談ではなくこれから本格的にFIREを目指して節約生活に入るという中途半端な段階で終わります。
 
正直、FIRE関連の本としては内容が薄いですが、なぜFIREムーブメントが大量消費社会にウンザリした人々を惹きつけるのか、FIREという考え方の本質的な魅力はしっかり書かれており、FIREの考え方を理解したいのであれば読んで損はありません。
 

FIRE自体は未達成

 
この本はタイトル通りFIREを目指すというエッセイであり、すでにFIREを達成した人の体験談ではありません。そのため、単に激しいムダ遣いをしていた夫婦が自分たちがどれだけ不必要な出費をしていたのかに気付き生活態度を改めるだけの内容で、FIREを目指す過程で深い学びを得るような本とは異なります。
 

序盤のサンディエゴでの浪費三昧な生活描写はそれはそれでFIREとは別のアメリカ的な開放感があって楽しく読めます

 
一応、申し訳程度にFIREを達成した人たちのインタビューも掲載されていますが、実際にFIREを達成した人の話を求めている場合はこの本を読んでも意味がありません。
 
なぜなら、このエッセイはFIREを題材とするドキュメンタリー映画のオマケで書かれたものであり、あくまでメインはドキュメンタリーなためです。
 
これはFIREを達成するまでの資産形成に早くて10~20年、ヘタをすると30~40年かかるため、その期間ずっとカメラを回し続けることなど予算的にもスケジュール的にも不可能で、最初の1年だけで終わるのはやむを得ないと思います。
 
さらに言うと、本格的にFIREを目指して節約生活に入った後の人をドキュメンタリーで追っても絵面が退屈でしかなく、消費社会にどっぷり浸かった夫婦が本当の幸せに気付きFIREに魅了される過程を切り取るほうがドラマチックでドキュメンタリーとしては見応えがあるとも思います。
 
なので、夫婦がFIREを目指す準備をする過程を覗くエッセイ程度の内容でしかなく、決してFIRE関連書籍として有用性はありません。
 

そもそも夫婦合わせて年収1200~1300万円以上の家庭の話で切迫感のようなものはなく、あくまでドキュメンタリー用の企画といった違和感も拭えません

なぜ人は喜んで消費生活を捨て倹約生活を選ぶのか

 
このエッセイで最も面白かったのは、無意識に消費社会に浸っていた夫婦が消費行動は自分たちを幸福になどせず、むしろ消費が自分たちの幸福を蝕んでいたことに気付いていく過程でした。
 
消費生活をやめ節約を心がけることで本当に自分にとって価値のあるお金の使い方は何なのか熟考し、その過程で消費社会によって見えづらくなっていた本当の幸福を発見するという内容なため、主人公夫婦が年収1000万円以上の富裕層だろうと自分自身を重ねて読むことができます。
 
さすがに元がドキュメンタリー映画用の企画なので、エッセイも現代の反消費主義運動としてのFIREの側面を強く強調しており、個人の体験談でありながらも社会的なメッセージが強めです。
 
自分がFIREというムーブメントに惹かれたのもまさに消費こそが幸福という洗脳から解放され、自分にとっての本当の幸せを追求することで人生の主体性を取り戻すという思想の部分でした。
 
FIREとは結局のところ自分自身の心の有り様に対し絶対ウソをつかないという決意であり、世の中に溢れかえる“幸福のようなもの”に惑わされず自分にとっての幸せのみを追求する態度でもあり、そこが単に資産を増やすことに躍起になるだけの思想性のない生き方とは一線を画する部分だと思います。
 
このエッセイもFIREの思想面こそを丁寧に描いており、コマーシャリズム(商業主義)が浸透しすぎてもはや目を凝らさないと消費の罠に気付くことも出来なくなってしまった現代において、そのカウンターとしてFIREがブームになるのも当然としか思えません。
 

最後に

 
繰り返しますが、この本はFIREのやり方を解説するマニュアルではなく、あくまでFIREに出会ったことで夫婦が本当の幸福とは何かを模索し始める話であり、FIRE本としては本当に初級の初級といった内容です。
 
それでもFIREの基本思想に触れることが出来る上に、単純なエッセイとしても一気読みしてしまうほど面白く読んで損はありませんでした。
 
 

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