著者 | 武内涼 |
出版日 | 2021年4月16日 |
評価 | 80/100 |
オススメ度 | ☆ |
ページ数 | 約576ページ |
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小説の概要
この作品は平安時代の末期を舞台に、源義経や静御前が属する鬼狩り集団“影御先 ”と、権力の中枢に巣くう血吸い鬼“邪鬼”との戦いを描く伝奇アクション小説『源平妖乱』シリーズの3作目です。
近江国は戦国時代で言うと戦国大名、浅井長政など浅井氏がおり、後に織田信長が安土城を築城する場所です
3巻は1巻からの因縁の相手である強大な不死鬼“黒滝 の尼 ”との最終決戦や、ついに義経と武蔵坊 弁慶 が五条大橋で出会う運命的な展開など、見所は多数あります。
しかし、過去二作に比べ話の軸がブレブレで安定せず、人間ドラマは薄っぺらく、サスペンスの作り方も何もかも中途半端で、面白さはシリーズでも最低でした。
2巻の焼き直しをするだけの3巻
3巻も並みの小説に比べるとポテンシャルは上ですが、1、2巻の高い完成度に比べると遙かに見劣りします。
特に気になるのは、やっていることがほとんど不死鬼(人間の心を操る上級の血吸い鬼)である黒滝の尼との戦いに費やされた2巻の展開の焼き直しなこと。
しかも、2巻では人を強制的に操る黒滝の尼の恐ろしさを際立たせるため、読者すらも「この人は絶対に信用できる」と思わせた影御先の仲間が実は操られ最初から裏切っていたというショッキングな展開を用意していたのに比べ3巻はそのような周到さもありません。単に2巻で行ったことをもう一回スケールダウンして繰り返すだけの安易な展開が続き、どう逆立ちしても2巻のスリルには遠く及びません。
それに、1、2巻とひたすら焦らし満を持して義経の郎党となる武蔵坊弁慶が初登場するのに、2巻の木曾 義仲 のような絶体絶命の状況で「待ってました!!」と手を叩きたくなるような最高のタイミングで登場するといったお膳立てもなく、単に義経が目的地へ移動中ついでに弁慶を仲間にするような呆気なさで、ここは不満でした。
弁慶は善なる清らかな心と悪なる暴力性が激しく混ざり合った超激情型のキャラクターで、単純に善人・悪人と割り切れない何をしでかすか分からない魅力的な人物として描けていますが、どうしても2巻で最高の好男児として描かれる木曾 義仲 に比べるとインパクトで劣ります。
肝心のアクション部分も、3巻は投石を取り入れた戦いをやりたいらしく、京の都でも、(近江が舞台なので)琵琶湖の湖上での戦いでも敵が延々と遠距離から石を投擲してくるのを耐え防ぐという展開が多く、正直1、2巻の敵のアジトに攻めこむスピーディな戦闘の連続に比べるとどうしても地味な印象を受けます。
さらに、2巻ではほとんど無敵の強さを誇り読者を絶望させるほどの威圧感を放っていた死屍王 の代わりに登場する蛭 王や定益 というキャラも死屍王に比べると何の記憶にも残らないほどペラペラな人物で戦闘にヒリヒリする緊張感が不足気味です。
加えて、1巻にあった登場人物たちの行動動機が極端に弱いという弱点が2巻ではある程度強化されていたのに、3巻ではまた元に戻ってしまい、このせいで新キャラたちは弁慶を除き具体的になぜそのような行動を取るのか動機が欠けており存在感がありません。
特に酷いのは最大の敵となる黒滝の尼の描かれ方で、ついに3巻で悲劇的な過去とその正体が判明するのに、最後の最後まで人間的な情緒や葛藤は描かれず、本当にただの記号的な悪役のまま終わってしまうため、最終決戦に何ら切ない余韻が生じません。
敵として対峙する熊坂 長範 も黒滝の尼も両方元を辿れば平家の被害者であり平家に怨みを持つ者同士、義経と表裏一体の存在の筈なのに、いくら何でも扱いが適当すぎます。
3巻は全体的に1、2巻で丁寧に描かれていた箇所がことごとくおざなりになっており、あれほど一気読みしてしまう中毒性があった過去作に比べ、読んでいて退屈に感じる瞬間が大幅に増えました。
もはや影も形もない平家
平家は2巻に続きほぼ空気のような存在でどこが“源平”なんだとツッコミたくなるほど存在感が希薄です。
京の都を舞台にしているのに、もはや平家も後白河院もまったく物語に絡んでこず、義経と平家とのやり取りや、平家と後白河院との政治的な駆け引きなどを求めていると肩透かしを喰らいます。
それに、黒滝の尼が京にいる義経の母である常盤 御前の命を狙うという展開も義経が母と再会するためのキッカケ作りという意味しかなく、このせいで黒滝の尼はちょっと常盤に嫌がらせをしたらそのまま常盤に対する興味を失ってしまうため行動に一貫性がなく思い付きで動いているようにしか見えないなど、全体的に3巻は話の軸がブレまくってまとまりがなくシナリオの推敲不足が目立ちます。
最後に
3巻は、2巻で一度死闘を繰り広げ手の内を知っている相手ともう一回似たような戦いを繰り返すという焼き直し感が強く、面白さは過去作には遠く及びません。
それに、前巻から続投するのにまったく本筋の話に絡まないキャラも多いなど、次巻以降に向けてひたすら裏で準備をしている節もあり、次巻への繋ぎの巻といった感じです。
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