著者 | 藤岡換太郞 |
出版日 | 2013年2月21日 |
難易度 | 普通 |
オススメ度 | ☆☆ |
ページ数 | 約208ページ |
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本の概要
この本は、同じ著者の『山はどうしてできるのか』や『川はどうしてできるのか』と同様に地球科学について扱った“地球に強くなる三部作”シリーズの二作目です。
地球が体験した約46億年分の出来事を知ることで、なぜ原始地球に海や生命が誕生し、大量の塩水が惑星全体を覆う宇宙でも類を見ない特異な環境が生まれたのか、その秘密を解き明かしていくという主旨です。
タイトルは海ですが、実際は宇宙の誕生や海と生物とが互いに影響を与え共進化していく過程の説明など、地球全体の出来事を包括 するような解説で、事前の予想とはやや異なりました。
プレートテクトニクスの話がほぼ説明もなく語られるなど『山はどうしてできるのか』の続編のような位置付けでもあり、出来ればそちらを先に読んだほうが読むハードルは下がります。
この本を読むと、ごく当たり前のように存在する海が実は天文学的な確率で生まれた奇跡の産物であるということが分かるため『山はどうしてできるのか』に匹敵するほどの知的興奮が味わえます。
地球由来の山に対し、宇宙由来の海
この本は、天を衝くようにそびえ立つ山々の秘密を知りたければ、雄大な山の景色から目線を下げ、地中深く潜ったプレートの活動を理解しなければならず、生命の起源である海を理解したければ天を仰ぎ、海を作る元素をもたらした宇宙へ眼を向ける必要がある、ということを教えてくれる一冊です。
冒頭は、宇宙の産声であるビッグバンから始まり、その後は恒星や太陽系誕生の解説が続くため、なぜ海の本を読んでいるはずなのに遠い宇宙の話が延々と続くのかと戸惑いました。しかし、本を読み進めると宇宙を避けては海を理解できない事情が分かりその疑問も解けます。
毎度、地球科学という学問は目の前の地形を読み解くには巨視的な視点を獲得しなければならないということを教えてくれ、興味が尽きません。
ここまで規模が大きいと海に絞らずに『地球はどうしてできたのか』のほうが適切にすら思えます
初っ端から、地球は大量の隕石が雪だるま式にくっつき出来たものであるとか、生命を産んだ海の水自体が宇宙から飛来した隕石によってもたらされたものであるという衝撃の話が続き一気に引き込まれました。
中でも一番度肝を抜かれるのが、今現在の青い海が誕生したのは本当にただ偶然が重なっただけという身も蓋もないありのままの事実です。
昔の地球がほんの少しでも熱ければ海の水は全て蒸発し干上がり、ほんの少しでも寒ければ地球は氷で覆われ海は無く生命の誕生もなかったという話を読むと、十分にあり得たかもしれない死の地球の姿に恐怖すら覚えます。
地球が奇跡的に太陽から近すぎず遠すぎずな絶妙な位置にあり、奇跡的に水が蒸発も凍りつくこともない適温の惑星であり、それらが偶然に偶然に偶然が重なっただけの天文学的な確率でしかあり得ない状態なのだと分かると、なぜ人間が誕生できたのか本気で混乱します。
『山はどうしてできるのか』を読んだ際もプレートの活動で山が生まれる途方もないスケールとそのメカニズムに圧倒されましたが、それはあくまで地学としての面白さの範囲内でした。
しかし、この本はそれとはかけ離れ、地球の成り立ちを説明されればされるほど思考が地学ではなく哲学の領域に踏み込み出し、知識を得れば得るほど生物という存在の儚さに心が揺さぶられる類のもので、読み終わった後は心地良い読後感など皆無でぐったりと疲れ果てました。
灼熱地獄と氷地獄、超大陸の移動や気候変動が起こす生物の大量絶滅の不思議
この本で、地球の成り立ちが奇跡でしかないという衝撃の事実に次いで印象深いのが、幾度も繰り返される謎多き生物の大量絶滅の話でした。
時には地球の気候変動の影響で緩 やかに絶滅し、時には超巨大隕石の落下で理不尽に絶滅しと、何度も種の大量絶滅を繰り返してはしぶとく環境に適応し生き残る生物のたくましさに心打たれると同時に、かつて絶滅した生物たちと同様に地球に住まう人間という種にも確実に訪れるであろう大量絶滅の未来を思うと憂鬱な気分にもなります。
この本を読むと、地球に生まれた生物を定期的に一掃する大量絶滅の波に果たして人間は耐えられるのかという不安が拭えなくなります。
人間が決して逃れられない大量絶滅で滅ぶのが先か、地球を脱出するのが先か、はたまた未知の選択肢があるのか、地球史を学ぶことで将来必ず訪れるであろう人類の破滅すら予見できてしまうという点は地球科学という学問の恐ろしいところでもあると思います。
最後に
地球科学の本だと思って読み始めると、なぜか哲学を経由して生と死の問題に着地するような刺激的な内容で、藤岡換太郎さんの本では『山はどうしてできるのか』と同じかそれ以上の興奮が詰まった一冊でした。
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