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【海外ドラマ】SWのスピンオフでは最低レベル |『オビ=ワン・ケノービ スターウォーズ』| ディズニープラス | 感想 レビュー 評価

トレーラー

評価:70/100
作品情報
配信日 2022年
話数 全6話
アメリカ
映像配信サービス ディズニープラス

ドラマの概要

 
このドラマは、映画『スターウォーズ』(以下、SW)のエピソードⅢとⅣの間の出来事を描くディズニープラスのオリジナルドラマシリーズです。
 
時代はエピソードⅢから10年後(エピソードⅣの9年前)の出来事で、エピソードⅠ~Ⅲまでの話を踏まえて作られているため、最低でもエピソードⅠ~Ⅲまでは見ていないとストーリーが理解できません
 
エピソードⅢで弟子のアナキン・スカイウォーカー(のちのダース・ベイダー)を救うことが出来なかったことに苦悩し惑星タトゥイーンで世捨て人のような暮らしをしていたオビ=ワン・ケノービが、何者かに誘拐されたアナキンの娘レイア・オーガナの救出を依頼されるというストーリーです。
 
SWのスピンオフ作品のなかでもエピソードⅢとⅣの間の出来事は『ローグ・ワン』や『ハン・ソロ』、ゲームの『ジェダイ:フォールン・オーダー』と大量にあるため、正直この時代を描くことになんの新鮮味もありません。
 
しかもディズニープラスのオリジナルドラマシリーズとしては『マンダロリアン』や『ボバ・フェット』に比べると明らかに完成度が低く、別段このドラマを見たからといってシリーズに奥行きが生まれるほどでもないため、なぜ作られたのか疑問なほど薄っぺらく退屈でした。
 

エピソードⅠ~Ⅲって実は面白い!!

 
エピソードⅠ~Ⅲは、エピソードⅦ公開時やスピンオフを見る前など、ストーリーの復習のためにことあるごとに繰り返し見ていますが、純粋な興味というよりはいつもストーリーのおさらいのためにサラッと触れる程度でそこまで真剣に視聴したことがありませんでした。
 
しかし、このドラマを見る前に久しぶりに見直したら、実は映画のSWの中でもエピソードⅠ~Ⅲの流れが一番好きということに気付け、スターウォーズという作品群への印象がガラッと変わりました。
 
SWの生みの親であるジョージ・ルーカスは、極めて個人的な小さな苦悩と叙事詩的な大きな歴史のうねりに翻弄されるちっぽけな人間を同時に描く手腕に秀でており、改めてルーカスが全て監督しているエピソードⅠ~Ⅲを見直すとSWとは結局ルーカスのバランス感覚で成立していた作品だなという想いを強く抱きます。
 
加えて、旧三部作や新三部作のような最終的には希望に向かう話ではなく、エピソードⅠ~Ⅲだけは破滅に向かって突き進む悲劇なので、そこも個人的にツボです。
 
銀河共和国の民主主義が機能不全に陥ったことで独裁的な権限を持った強いリーダーを求める気運が高まり、それを利用したシスの遠大な共和国乗っ取り計画と、フォースに安定をもたらす救世主の予言に振り回された結果崩壊していくジェダイ騎士団という、別に誰が悪いというワケでもないのに気付いたら取り返しがつかない事態に追い詰められていたという悲劇性はエピソードⅠ~Ⅲの最大の魅力だと思います。
 
しかも、改めて見直すと厳しいジェダイの掟と、人としての真っ当な感情の板挟みで苦しむアナキンが最も人間的で、ジェダイの象徴として描かれるオビ=ワンは掟にのみ忠実すぎてやや人としても師匠としても冷徹に見えます。
 
そのため、オビ=ワンをもう一度ジェダイ騎士ではなく一人の人間として語り直すというアプローチは、ただの極悪な賞金稼ぎとしてのみ描かれたボバ・フェットをもう一度ボバという自我を持った人物として描き直す過程と同様で、確かに人物像をより深掘り出来る余地があると、見る前はそう思っていました。
 
ただ、実際に『オビ=ワン・ケノービ』というドラマを見ると事前の期待は完膚無きまでに裏切られました。
 

超絶つまらない全6話

 
このドラマの感想を一言でいうと“薄っぺらい”に尽きます。
 
エピソードⅠ~Ⅲまで見直し、オビ=ワンがジェダイの掟に忠実すぎてアナキンの感情をないがしろにし続けた結果悲劇に至ったという問題に対して、このドラマは納得いく解答を提示してくれるどころかただ単になんとなくの雰囲気でしか進まず、見ていて非常に退屈でした。
 
エピソードⅠ~Ⅲの脚本は重層的な意味合いを含ませており、シスは現実の独裁政治のメタファー(ローマ帝国やナチス・ドイツ)で、今見ても非常に現実味がある題材でまったく古びていません。
 
そして人間的な感情を抑制してでも規律や秩序を善とし大きなフォースの流れのためには一個人の命を軽んじるような行動に走りがちなジェダイに対し、家族への情愛や目の前に救える命があるなら救いたいと願うアナキンやパドメといった個人の意志を何よりも尊重する考え方を対比させるなど、改めて鑑賞すると深いメッセージが幾重にも刻まれており、SWとはやはり偉大な物語なのだと知ることができました。
 
そのエピソードⅠ~Ⅲを約7時間かけて視聴した後にこのドラマを続けて見ると作り手の知能低下ぶりが酷く、会話はそれっぽいことを言っているだけで中身がスカスカで読み応えがなく、展開もあってもなくてもどうでもいいサスペンスのためのサスペンスでしかなく、見終わっても何一つ記憶に残りません。
 
単にエピソードⅣでレイアがなぜ重要機密であるデス・スターの設計図をオビ=ワンに託したのかという部分に着地させたいという意図がありありで、正直レイアとの絡みは退屈なだけでした。
 
そして肝心のオビ=ワンとアナキン(ダース・ベイダー)との絡みも、一応最低限の中の最低限としてオビ=ワンが師としてアナキンの心に寄り添えずフォースのダークサイドから救ってあげることができなかったことを心から謝罪するという最重要なやり取りは描かれますが、それ以外は本当に薄っぺらく、事前に描いて欲しいと期待していた濃いやり取りは皆無でした。
 
そもそも、弟子を救えなかった贖罪しょくざいという点ではオビ=ワンはアナキンの子供たちを生涯見守り続けているので、それだけで十分罪は償っていると思うし、当たり前ですが別段このドラマを飛ばしてエピソードⅢとⅣを繋げても何ら問題もありません。
 
見ている最中ずっと頭に浮かぶ疑問は「このドラマを作る必要があったのか?」というもので、結局最後まで見てもこの疑問が払拭されることはありませんでした。
 
そもそもこのドラマの最大の問題はエピソードⅠ~Ⅲや旧三部作との繋がりがどうこうより、単に一つのエンタメ作品として超絶つまらないということに尽きます。
 
全6話中、1話たりともワクワクする回が無く、単に他の作品と話が直接繋がっているということだけが見る理由で、SWというブランドに完全に依存しただけの凡作でした。
 
『マンダロリアン』や『ボバ・フェット』はSWシリーズにそれほど興味が無い自分でも心の底から楽しめたので、この二作のドラマに比べると本作の出来は散々です。
 

最後に

 
全体的に撮影はそれほど悪くはないし、1話の冒頭のジェダイ聖堂での虐殺を長回しで撮るというアクションシーンも頑張ってはいるので駄作というほど酷くはありませんが、全6話のうち唯一テンションが上がったのがヘイデン・クリステンセンが若きアナキンに扮して登場する回想のような場面のみで、それ以外は完全に期待ハズレです。
 
このドラマを見るためだけに二日に渡って7時間もかけてエピソードⅠ~Ⅲをフルで再視聴しSW熱を最大まで高めた状態で挑んだのに、最後は熱が冷え切って虚無感しか残りませんでした。
 
ただ、久しぶりにエピソードⅠ~Ⅲを見直し、結局ジョージ・ルーカスの語りのバランス感覚が自分には心地良いのだと気付けたことは拾いものでした。
 
 

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