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父子が憎み殺し合う激烈なる戦国ホームドラマ 『南海の翼 長宗我部元親正伝』 著者:天野純希 〈書評・レビュー・感想〉

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評価:80/100
作品情報
著者 天野純希
出版日 2010年11月26日

短評

 
 この作品は、戦国時代を舞台に、一度は四国統一を果たしたものの、その後は転落の一途を辿った長宗我部ちょうそかべ元親もとちかと、その家族の光と闇を描く歴史・時代小説です。
 
 家族間の意思疎通がうまくいかないことが悲劇に繋がるというホームドラマのようなコンセプトを軸に、晩年は心を病み暴君と化し家臣からの信頼を失った元親がなぜ乱心したのか、その理由が作者の大胆な創作を交えて語られます。
 
 戦国時代の武将を主人公にしながら親と子の愛憎劇を中心に据えるというコンセプトは魅力的なのに、全体的に描きたいことに焦点を絞り切れておらず、やや散漫となっている点が惜しいところです。
 

卑怯と嘘と秘密主義の大きすぎる代償

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 この作品は、戦国時代に土佐のいち国人こくじんから戦国大名に成り上がり一度は四国統一を果たした長宗我部ちょうそかべ元親もとちかと、元親に人生を振り回された家臣や息子たちの数奇な生涯を描く時代小説です。
 
 最初は家臣や領民に慕われた元親が、溺愛する長男を失ったことで心を病み、挙げ句の果てに自分に従わない家臣を虐殺する血も涙もない暴君となっていく様が克明に描かれる陰惨な内容となっています。
 
 本作最大の特徴は、四国統一を果たした戦国大名としての元親像よりも、子を持つ一人の不器用な父としての元親がクローズアップされる点です。
 
 小説の前半は、優れた軍略の才を持つ元親が多少強引な手法を用いながら領土を広げ四国統一を目指す戦国時代らしい成り上がりの話で、後半は前半の強引なやり方のツケが回る長宗我部家の転落を描く凄惨な家族ドラマと、物語が昇りと下りの綺麗な山なりな構造となっています。
 
 前半の土佐統一とそこからの四国統一を目指す元親の出世パートは後半の転落の前振りなことが丸分かりで、戦に勝ち続け四国統一に近づく過程にそこまでの高揚感はありません。
 
 それでも土佐のいち国人に過ぎなかった長宗我部家が見る見るうちに領土を広げ戦国大名に成り上がる過程は痛快でもあります。そのため、前半の上り調子と後半の崩壊ぶりに落差が生じ、全編ただ暗いだけの単調な作風にするより遙かにメリハリがあると思います。
 
 この前半パートは、最終的にはいくさに勝ちはするものの、強敵を正攻法ではなく卑怯な手を使って排除し、自分の意図した通りに動かない味方も秘密裏に暗殺し戦意高揚の道具にするなど、勝って嬉しい反面汚い勝ち方に罪悪感も蓄積し、でも決定的な破滅には至らないという絶妙な足下グラグラ状態が続き、つい先が気になって読み進めてしまいました。
 
 長宗我部家の親子のやり取りも、元親が自身の子供の中で最も出来が良い長男を溺愛するあまり次男、三男を元親本人も無自覚なままないがしろにしてしまい、その心配りの足り無さにより親子間の信頼関係が水面下でミシミシとひび割れていく不吉さのみが募ります
 
 その卑劣な振る舞いや、ちょっとした親子間のすれ違いのツケが回ってくる後半は「戦時だから仕方がない」と言って目を背けてきた卑怯な行為や、「長男が可愛いし家督を譲る跡取りだから多少えこひいきしても許されるだろう」という甘えが何百倍にもなって跳ね返ってくるため、読んでいるコチラ側もある程度成り上がっていく過程を楽しんでいたこともあり一緒に咎を責められるような居たたまれなさを感じました。
 
 自身が卑怯な手で敵を葬り厄介な味方も戦場で始末したように、今度は秀吉の策略で息子が謀殺され、最初は家臣や家族のためと思って嘘をつき秘密主義を徹底していたのが誤解を与える結果となり今度は自分が暗殺のターゲットにされと、因果応報の無情さをこれでもかと詰め込んだ後半は、苦々しい教訓を突きつけられます。
 

コンセプトの面白さに対しやや弱めな語り

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 元親の嘘や卑怯な行為、父子のコミュニケーション不足が最後に悲劇へと繋がる苦い家族ドラマというコンセプトは抜群に面白いですが、いかんせん全体的に語りの焦点が絞り切れておらず、一つ一つの出来事が散漫に感じます。
 
 どこか一つがダメというより、あらゆる箇所のネジが緩いため、起こっていることの凄惨さに比べ、そこまで感情が揺さぶられません
 
 特に気になるのは視点移動の多さと無意味さです。全体が回想になっているという点はまだ良いにしても、ある人物の回想内で視点がコロコロ変わる上に、変わることに大して意味もなく、徐々に心が病んでいく元親を変に客観視するような効果を生んでしまい、悲劇性が薄れている気がします。
 
 この話ならもっと元親か元親と罪を共有する側近の視点を維持したほうがより効果的なのに、無駄に色々な人物の視点を行き来するせいで、読んでいるコチラ側が冷静に物事を捉えられてしまい、そこまで元親に対して思い入れる余地がありません。
 
 コチラはもっと元親と共に挫折し、元親と共に苦悩し、元親と共に哀しみたいのに、視点が忙しなくあちこち飛び回るせいで、読者から元親が遠ざけられるような変な距離感になっており、終始語りのピントが合っていないもどかしさが拭い切れませんでした。
 

細かい文句ですが、さすがに坂本龍馬と同じ土佐だけに全員標準語で喋っているのは違和感があります。多少読み辛くなっても出来れば全員方言が好ましかったですね

最後に

 
 全体的に過激な内容の割に薄味の作品でした。もう少し父子のすれ違いが悲劇に繋がるというコンセプトが秘める魅力を最大まで発揮できるよう細部を調整する必要があり、傑作までもう一押しと言ったところ。
 
 ダメと言うよりは惜しい作品で、もっといくらでも面白く出来たのに、所々の詰めが甘く傑作になり損なってしまったという印象です。
 
 ただ、ドロドロした話が大半なものの、ラストは長宗我部家の呪縛から唯一逃れられた盛親もりちかの視点で終わるため、余韻はそこまで悪くはなく、良い小説を読んだという清々しさもしっかり残ります。
 
 
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