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【お金】知能が高ければ天国、低ければ地獄な未来 |『無理ゲー社会』| 橘玲

本の情報
著者 橘玲
出版日 2021年7月29日
難易度 普通
オススメ度 ☆☆
ページ数 約288ページ

本の概要

 
この本は、知能が優れた者が成功できる自由競争社会では、知能が高い・低いの差によって知能格差が先鋭化していくという内容です。
 
知能格差とは知能が高い人は自らの才覚で財を築け恋愛も自由にでき知能が高い者同士が子供を作り次の世代にも高い知能が引き継がれ、知能が低い者は貧困に苦しみまともな恋愛も出来ず、知能が低い者同士で子供を作り次の世代にも低い知能が受け継がれていくというものです。
 
できれば『ケーキの切れない非行少年たち』という本とセットで読むとより内容が理解しやすいと思います。
 

 

この二冊の本は問題が根底で繋がっており、知能格差社会がもたらす弊害のいくつかは『ケーキの切れない非行少年たち』で垣間みることができます

 
橘玲さんの本で繰り返し繰り返し警告される、知的階級が上の人間が理想とする“頭の良い人間による頭の良い人間にとって自由な世の中”という考え方の致命的な問題点が指摘されており、読むと経済格差より深刻な知能格差の問題に気付くことが出来ます。
 

経済格差による分断より深刻な知能格差による分断

 
この本で最も刺激的なのが、1958年にイギリスの学者マイケル・ヤングのディストピア小説に登場する造語、メリトクラシー(知能+努力制、知能の高い集団と知能が低い集団で分断が起きる)を例とする知能格差社会という考え方でした。
 
現在の社会問題で最も重要な課題は経済格差だと思っていましたが、この本を読むと経済格差はただの知能格差が生み出す問題の一つ程度に過ぎないという考え方に改まりました。
 
自由と責任は常にセットなため、自分の才覚のみで成功できるリベラル(自由)な世の中になればなるほど知能が高い者だけが成功し、知能が低い者はひたすら苦渋を舐め、しかも知能は遺伝によってほぼ決まるため努力による逆転も不可能。
 
結果が出せないのはただの自己責任でしかなく、知能が高い者が得られる富を生活保護やベーシックインカムで分配したとしても自分で金を稼ぐことも出来ないという負け犬の烙印を押されることとなり人としての尊厳は傷つけられ、結果知能格差による分断が拡大。
 
非モテ男が無差別殺人やテロに走ったり、トランプ支持者や陰謀論を間に受ける者たちが暴動を起こしたりと、知能が高い者と低い者の分断が暴力に発展していくというまさに映画『ジョーカー』の世界になってしまうという話は衝撃的でした。
 
しかも、階級社会のような貴族で知能が低い者と平民の生まれでも知能が高い者であれば逆転も可能なのに、知能格差社会の真に怖ろしいところは知能は遺伝されるため格差が完全に固定されてしまい逆転が一切不可能になるというところ。
 
知能の高さは親から子へ遺伝する上に、知能が高い者が富と権力を独占するため自分の子供の教育への投資は万全で、しかも大学無償化など知能が高い者が国の制度で優遇されるため知能が低い者との格差は広がる一方と、考えれば考えるほど知能格差が一度固定されるともう引っ繰り返すことは到底不可能となり、この格差はやがては暴力に行き着くであろうと想像がつきます。
 
本に書かれているとおり、知能格差とは知能が高い者が自分たちだけが豊かさを享受できればいいという身勝手な考え方ではなく、平等で自由でチャンスに溢れる世の中にすればみんなが幸せになれるだろうというやさしい善意によって生み出されるというところも解決策が見つからない要因の一つだと思います。
 
知能が高い者は遺伝的に知能が高かっただけなのに、謙虚すぎて自分の賢さは努力による後天的なものだと思い込み、結果遺伝的に知能が低く努力する才能すら持たないものたちに努力をすれば賢くなれると悪意なき嘘をつき、結果その善意が知らず知らずのうちに遺伝的に高い知能に恵まれなかった者たちを絶望のどん底に叩き落とす自覚なきディストピアを生み出すという話はもはやSF小説のようであり、怖ろしいと同時に知的な興奮もあります。
 

おわりに

 
この本を読むと経済格差によって生じていたと勘違いしていた問題の大半は実は知能格差が原因とわかり、世の中の見え方がガラッと変わりました。
 
それと同時に、なぜ自分は経済的に成功している人たちと同じような物の見方や考え方ができないのか昔からずっと悩んでいましたが、遺伝だと思うともうどうしようもないと諦めもつき、むしろ安心します。
 
自分も知能が低い側の人間として、どうにもならないものはどうにもならないと受け入れ、絶望するほど深刻に悩まずテキトーに生きていけばいいと心構えが持てたため、知能が低い側の人間が読んでもためになる内容です。
 
 

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